軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五話 セットアップ

第五話

□??? 【聖騎士】レイ・スターリング

では自らの意思で眠ると、現実と同じように意識が落ちて眠りにつく。

しかし、そうしたゆっくりとした睡眠ではなく、強制的に意識を落とされた場合は少し違う。

体は【気絶】しているが、意識は起きたまま。

肉体から切り離されて意識のみの空間にいる形だ。

「…… またここか(・・・・・) 」

最初にこの状態に陥ったのは【ゴゥズメイズ】との戦いでのこと。

あのときは記憶再現世界に放り込まれ、その再現世界を作り出した赤黒シルエットに遭遇した。

で、あれからデンドロ時間で一ヶ月。<墓標迷宮>探索などで同じように【気絶】することが二、三度あった。

そして、 今(・) と同様に……真っ暗な空間に立つことになった。

最初とは違い俺の記憶を再現した世界はなく、あの赤黒シルエットにも会えていない。

代わりに、空間の中央にはこんな立て札がある。

【ただいま準備中】

【Coming Soon……】

「……だから、何の準備中だよ」

呟くが、返答はもちろんない。

立て札は赤黒シルエット――【瘴焔手甲 ガルドランダ】が立てたものだろう。

ここ最近は【気絶】するとずっとこれだ。

あのときのように記憶再現世界ではなく、何もない空間に立て札だけがある。

まぁ、本来【気絶】で訪れるのはこの何もない空間であり、立て札があるだけ変と言うべきらしいが。

他の精神系状態異常と同様。プレイヤー保護機能によって<マスター>には精神系状態異常の結果は与えられても、それを受けて精神がどうこうという過程はない。

だから、【気絶】すると本当に意識を失うのではなく、この何もない空間で肉体の【気絶】が解除されるまで待たなければならない、という訳だ。

あの【ガルドランダ】はそれをいいことに、ここに俺の記憶を再現した世界を作り上げていたらしいが。

「今回もあいつに会えないなら、今は待つしかやることがない……か」

あいつには幾つか確かめたいこともあったが、仕方がない。

……まぁ、待つだけの時間も、考え事をするには丁度いいが。

俺は目を閉じて、少し前の戦い……とも言えない接触を思い出す。

――絶対強者に相性程度で勝てやせーへんよ、ボーヤ

「…………」

それは、【気絶】する直前の扶桑月夜の言葉。

俺とネメシスへのメタ対策を揃えてきたフランクリンと戦ったときとは違う。

相性で勝っていながら、純粋な力量差であっさり覆された。

完敗と言っていい。

俺は、これまでにも何度か<超級>と相対した。

ただ、それらは偶然の接触や胸を借りた模擬戦が殆どだ。

俺が完全に敵対した<超級>は今回の月夜を除けば、フランクリンのみ。

そのフランクリンの場合は、【RSK】とフランクリン本人は俺が倒したが、あいつの戦力の殆どは兄が倒した。

それらの経験と比較して……先ほどの扶桑月夜。

明確にこちらへの悪意を持っている上に、強い。

<超級エンブリオ>の固有スキルがデバフで、司祭系統の超級職だから基本的には支援系なのだろうけど……フランクリンとはまるで違う。

そんな恐ろしい相手が……俺に執着している。

扶桑月夜は、なぜか俺を自分のクラン……宗教に引き込みたがっているようだった。

俺が目を覚ましても解放はしないだろう。

ログアウトするには自害するか、<月世の会>の本拠地から脱出すべく一戦交えるしかない。

なら、

「……やるしかないな」

あの恐ろしい相手であろうと戦うしかない。

可能性がたとえ一%なくても、その極僅かな可能性を掴みにいくのが俺のスタイルだ。

「とはいえ……問題はあるけどな。あの女化生……本当に怖いし」

そう、今このときも俺は扶桑月夜が怖かった。

実力の差以前に……気圧されている。

あの女化生にはこれまでで相対してきた何者よりも……恐怖を覚えた。

この世界で最初に相対した【デミドラグワーム】や、恐ろしい怪物だった【ガルドランダ】と【ゴゥズメイズ】より怖いと感じるなんて不思議な話だ。

怖いのに、なぜ怖いのかがいまひとつ分からない。

……だが、怖いものだと分かっていれば、次は前回ほどには怖くないだろう。

「メンタルはいいとして……あとはどうすれば勝つ見込みがあるか、だな」

相手は広範囲デバフでこちらの生命活動さえも容易く脅かすし、《地獄瘴気》と《逆転は翻る旗の如く》が通じない。

ならば何か別の手を打つしかない……が。

《風蹄》爆弾はまだMPの貯蔵が足りない(そもそも街中で使えない)。

《煉獄火炎》も左手がないから使えない。

《復讐》もダメージカウンターはほとんど貯められないだろう。

あとは《聖別の銀光》くらいのものだが……あの化生、中身はどうあれジョブは完全に聖なるものだから駄目だろう。たしか司祭系統のパッシブに聖属性ダメージ軽減のスキルがあったはずだ。

素の接近戦を挑もうにもレベルのためか……あるいは【女教皇】以外のジョブ構成に何か仕込んでいるのか、純粋なステータスも俺より上だったようだ。

俺の意識を刈り取った蹴りからして動きもいい。

どのくらいかと言えば……兄が出場していたアンクラの大会の、本戦出場選手くらいのキレがあった。

リアルで何かやっているのかもしれない。

「しっかし……俺のコンディションが悪いにしても、狙って対策打ったフランクリンより俺を完封しているのはどういう訳だ?」

まぁ、フランクリンにしても「勘違いしないで欲しいねぇ! 戦力を君に全部差し向けられれば完勝していたんだからねぇ!」くらいの反論はしそうだが。

しかし今回の件で分かったが、部分的に<超級>の思惑を超えることはできても総力にはまだ歴然とした差がある。

目覚めたときに扶桑月夜が、そして今後近い時期に戦争が待っている以上、こちらももっと強くならないと可能性も掴めない。

「強くなると言えば……進化か」

進化。<エンブリオ>の最大の特徴であり、最も劇的な強化。

<超級>自体が第七形態に到達した者達なのだから、追いつこうとすればまず進化すべきだろう。

しかし、うちのネメシスは【ガルドランダ】との戦いで第二形態に進化してから、これまで一度も進化していない。

同時期にに入ったルークのバビは、既に第四形態……上級に到達している。

マリーに聞いても、一ヶ月もあれば普通は第三形態になっていておかしくないそうだ。

……まぁ、何でこんなにネメシスの進化が遅いのかは見当がついている。

ネメシスの第二形態への進化時に出てきた、あの読めないシステムのせいだろう。

あのときのウィンドウにはそのときの状況に最適な進化ができる代わりに次の進化が遅れる旨が書いてあったはずだ。

それ自体はいい。

あのとき《逆転》を持つ【黒旗斧槍】に進化していなければ、【ガルドランダ】には勝てず、その後の【ゴゥズメイズ】にも勝てず……【紫怨走甲】が手に入っていなければフランクリンの事件でも勝てなかった。

これまでの事件を潜り抜けてこられたのは、あのときの進化があればこそだ。

だから副作用で進化が遅れても仕方ない。

問題は、その遅れがいつまで続くかということだ。

まさか、このままずっと第二形態のままでもないだろう。

「……そろそろ進化の兆しくらいあってもいいよな」

流石に、ここで都合のよい進化をしてあの扶桑月夜の鼻をあかせる、なんてことはないだろうが。

「あいつのためにも、な」

進化できないことについてネメシスが度々悩んでいるのは知っている。

俺には隠しているつもりらしいので何も言う気はないが、あいつ自身のためにも進化させてやりたい。

『…………! ……!』

「ん?」

ネメシスの進化について思いを馳せていると、どこか遠いところから声が聞こえた気がする。

『……イ! ……るのだ!』

「ネメシス?」

俺を呼ぶ声は、ネメシスのもの。

まるで分厚いガラス越しのような幽かな声。

『レイ! 起きよ!』

ネメシスの声がはっきりと聞こえた瞬間、意識の空間は消失し、俺の意識はアバターへと引き戻された。

「う、ん……」

「起きたか!」

目を覚ました場所は、俺が最初に寝かされていたあの和室の畳の上。

傍らにはいつものようにネメシスがいる。

それだけなら平常だが、ネメシスはとても緊迫した様子で……部屋の状態も普通ではなかった。

まず、壁が二面ほどなくなっている。

まるで爆弾で吹っ飛ばしたかのように木っ端微塵だ。

さらに壁がなくなった向こうに見えるこの施設の様子も、一言で言えば惨状だった。

屋根瓦の滑り落ちた屋根の向こうから夕焼け空が見え、

壁も柱も断ち割られているために視界は開け、

無数の調度品は砕け散っている。

まるで大地震……あるいは竜巻でも起きたかのようだったが、違う。

この惨状は人の手で生み出されたものだ。

なぜそれがわかるのか。

惨状の中心に、見知った二人がいるからだ。

「――大概にせえよ? この病弱プリンス」

「――早くデスペナルティになってレイ君を返してくれないかな?」

そこには、二人の<超級>がいた。

◇◇◇

□<月世の会>・本拠地

時は僅かに遡る。

レイがネメシスに起こされる十分ほど前、<月世の会>の本拠地にフィガロが到着した。

ギデオンを出発してからさほどの時間も経っていない。彼にしてみれば通い慣れた王都とギデオンの道であるし、装備もAGI強化に特化させていた。

<月世の会>の本拠地の前で、彼は装備を整えた。

これから戦う相手に適したデバフ対策の防具と、屋敷でも叩き壊せそうな巨大な石斧。

最後に……アクセサリーとしてモノクルをつける。

そのモノクルはそうレア度の高いものではない。軽い《透視》スキルがあるだけで、罠などの探知で使われる代物だ。

しかし、フィガロはそれを罠探知に使うつもりは毛頭なかった。

これは単に、 相手の左手の甲を見る(・・・・・・・・・・) ためのもの。

そう、左手の甲に紋章があるのは<マスター>だけであり、

「< マスター(・・・・) > を全員倒せば(・・・・・・) 、レイ君を解放せざるを得ないはずだからね」

――モノクルはこれから皆殺す<マスター>を識別するために必要だった。

シュウからレイの救出を頼まれたこの脳筋は、<月世の会>の<マスター>を皆殺しにしてレイを救うつもりなのであった。

残念なことに、この場にその行為の問題点を指摘できるものは誰もおらず、

「やろうか」

脳筋は 手始めに(・・・・) 巨大な石斧を<月世の会>の正門に投擲する。

正門は一撃で倒壊し……、脳筋は瓦礫と化した門を踏み越えて本拠地へと乗り込んだ。

かくして、見た目は貴公子な脳筋によるカルト宗教施設倒壊祭りが始まる。

崩れる施設、デスペナルティになる<マスター>、逃げ惑うティアン。

阿鼻叫喚の大惨事の中、<月世の会>サイドはフィガロを迎え撃つために月夜自らが出ざるを得なくなった。

ネメシスと談話していたカグヤも月夜の元に舞い戻り、双方共に臨戦態勢。

相手への殺気を漲らせたまま、二人の<超級>が向かい合う。

それこそ、目覚めたレイが目撃した光景。

<月世の会>の本拠地を舞台に始まった……<超級>同士の殺し合い。

即ち、<超級激突>である。

To be continued