軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

春編4話「孤高のソロ」

ギンさんへ

リシアンです。

最近、魔王伯という呼び名が付いた俺ですが……あんた夜会で何してくれたんですか?

隣国にまで噂が広がってんですけど。早急に何とかしてください。

*──*──*──*──*

裏庭の畑は随分とにぎやかになった。

薬草とゴルディ用に野菜や果実を栽培している。いや俺も食べるけど、大体がゴルディが好きなものをメインで。

『ちょっと、水撒くの手伝って!』

『はぁーい!』

ここにはいつものやつらより、小さい精霊が増えた。何か俺の畑はだいぶ精霊たちが面白がって魔法をかけまくるから……なぜかそこから小さい精霊が生まれた。

小さいやつらはまだ精霊言語しか分からないみたいだから、とりあえずそれで話している。

『チビたちさぁ、それはおもちゃじゃないの』

……こいつら、油断したら薬草で遊び始めるんだよ。きゃあきゃあ言うチビたちから目が離せなかったから、気が付くのに遅れた。

『何でルカ以外にも精霊言語で話す人間がいるんだ?!』

『はぁ?』

振り返ると、俺に何か言ってきた火属性の精霊と大きな犬を連れた……知らない冒険者がいた。

珍しく……てか、黒髪って初めて見るわ。俺より少し年上かな?何か、静かな雰囲気のある人が目を丸くしてこっちを見ていた。

「あ、お客さん?もうちょいで表の店も開けるから待ってて」

装備からして冒険者だしな。知らない顔だから入口を間違ったとかかな?

『聞こえてんだろ!答えろよ、何で人間がオレたちの言葉を喋ってるのかって聞いてんの!』

何だ、この初見で無礼な物言いをするやつは。

「ギルドで聞いたけど、こっちに移動してきたっていう人?Bランクのソロっていう」

話し掛けても、その人は困ったような笑みを浮かべたままで俺も首を傾げる。

『ルカは耳が聴こえないんだよ!分かるだろ、それくらい!』

『うるせぇ、分かるわけねぇだろ!あとさっきからお前は何なの?その口の聞き方はさぁー』

ほら、風乃もよくいるやつらも不機嫌そうに見てるぞ?

『俺と、同じ人なの?精霊言語を話す人、初めて見た』

ふわっとした感じで笑うその人を見て、気が抜けた。いや、俺も自分以外で精霊言語を話すやつは初めて見るけど?

てか、精霊言語なら聞こえるってこと?

『えーっと、精霊言語なら分かるの?ルカは冒険者であってる?』

『うん、冒険者。ギルドに薬店を聞いたらここがおすすめだと聞いたから。シルフィーがね、こっちから声がするって教えてくれた』

隣に大人しく座っている……何だろ。何か見たことある気がする……犬ぞりのあの犬。

あ、ハスキー犬か!

ハスキー犬を褒めるように撫でているルカ。めっちゃもふもふしてそうな毛艶。手入れがよさそうだし、可愛がられていることが目に見えて分かる。

じっと見つめているのに気が付いたんだろう。

『あぁ、この子の種類はこっちにはいないから……珍しいよね』

『うん……撫でても大丈夫?嫌がんない?』

犬型の従魔はこのへんでは見ない魔獣だし、新しいもふもふが気になる俺。

『大丈夫だよ』

にこやかに飼い主からの許可が出たから、そっと下から手を伸ばす。

『シルフィー』

名前を呼んでちょっと触れても大人しいから、もふもふと撫でてみる。けっこう毛足が長くて手が埋まる。内側にはもっと密度の高いやわらかな毛が生えていて気持ちいい。シルフィーも気持ちよさそうに撫でられている。

そういやちょうど鹿の骨付き肉がある。シルフィーのおやつになるかもしれない。

『ルカ、薬店の中に入る?シルフィーは……ちょっと外で待ってもらうことになるけど』

『うん、どんな薬があるかも見てみたい』

ルカは冒険者とは思えないくらいおっとりしている。育ちがいいのかもしれないな、と思う。

『おい、何で俺のことだけ無視するんだよ!人間!!』

……契約精霊であろうこいつとは大違いだな。

ルカを薬店に招き入れ、シルフィーにはゴルディを紹介する。

どっちも顔を寄せて挨拶しているみたいでかわいかった。

『あぁ、まだ言ってなかったかも。俺はここで薬師をしているリシアン。素材採取のついでに冒険者活動もしているから、ギルドでも会うと思う。よろしく』

常備薬で要りそうなのをいくつか見繕って、並べながら話す。

『俺はルカ。この間まではモンテディオス王国にいたけど、色んな国をまわって冒険者をやってる』

隣国からの例の冒険者で確定か。ちなみにシルフィーとはもっと北方の国で出会ったらしい。

『でも出身はこの国なんだ。トゥーリはその頃から一緒にいる』

けっこう長い付き合いなんだなと思う。

『トゥーリはずっと話し掛けてくれて、ちょっと口は悪いけどいい子だよ』

片方でも困るのに、ルカはどっちも聴こえないらしい。俺は耳飾りと風乃のサポートがあるけど……ルカは?

『……トゥーリとはさ、長い付き合いなんだよな?ルカが他の人と話せないってこともやっぱ分かってんの?』

『うん。だから、こうして人と……リシアンと話せてうれしい』

綻ぶように笑うルカだけど……トゥーリを鷲掴みにする俺。

『おい、お前。こっちの言葉は聞こえてるし、分かってんだろ?何でルカに教えてやんねぇんだよ』

『はぁ?!何で俺が人間なんかの言葉を……そんなん無理だろ』

ジタバタしているトゥーリ。

『うるせぇ!ルカが困ってんのにずっとそれを放置して……契約精霊のくせにサボってんじゃねぇよ。ちょっと!火のやつ、そのへんにいるよな?』

よくいる火の精霊を呼ぶとすぐにやって来た。

『どしたの、リシアン?……何してるの?』

鷲掴みにされた同胞を見て、微妙な顔をしている。

「お前さぁ、けっこうこっちの言葉も上手いよな?」

――……かつて契約精霊にする条件はこちらの言葉で「リシアンと呼べ」ってことにしていた。

風乃と競っていたけど、今はこいつのが上手に話すんだよな。

「うん、だいぶね?リピニャア!」

……リシアンだけは微妙だが、まぁいいだろう。

こっちの言葉を話す同じ火属性の精霊を見て固まるルカとトゥーリ。

『リシアン?その精霊は何を?最後だけよく分かんないけど……』

うん。やっぱ精霊の声なら、ルカにも聴こえるんだな。

『この火の精霊を、こっちの言葉を話せるようにしてほしい。頼むな?“ 火乃(ヒノ) “』

そう名付けると火乃からは小さい花火のような光がポンポン飛ぶ。……そんな喜ぶならもっと早く契約してよかったかもしれない。

『おめでとー!火乃ー』

『長かったねぇ、よかったねー』

『リシアン、僕はー?』

僕もわたしもとうるさい。まともに発音頑張ってたのは風乃とこの火乃だけだし、もういい。

解散しろ、解散。これ以上は増やさねぇよ。

雑に周りの精霊たちをあしらっていると、ルカもトゥーリもポカーンとしている。

『リシアン?その……色々すごいんだね』

『うん?とりあえず火乃がトゥーリに言葉は教えるから』

余計なお世話かもだけど、ルカが俺と話せるのうれしいって言ってたから。どう伝えようかなと思っていると

『任せて!火乃の初仕事ー!!』

嫌だとかやるとは言ってないと暴れるトゥーリを、張り切った火乃がどこかに連れて行ってしまった。

おい……おい?!

『ごめん……どっか行った。ごめん、ルカ。お詫びに今日は客間にでも泊まっていって』

さすがに……ルカの契約精霊を火乃がどっかに連れて行ったのはまずい。他の精霊たちに探しにいかせるけども。

せめてものお詫びに……移動しないほうがいいだろうし、もてなすよ?

『トゥーリはすぐ勝手にどこかにいくから大丈夫。でも泊めてくれるなら助かる』

基本的に筆談だから、宿をとるのにも苦労するそうだ。尚の事、トゥーリには早くこっちの言葉を覚えてもらい……さっさと同時通訳として働けばいいと思った。

『そういや、ルカは何で拠点を移動してこっちに来たの?』

ふと気になったことを聞いてみる。

『あぁ。噂で辺境大森林に魔王がいると聞いた。深層部は魔王の縄張りでとある伯爵が行方不明になったのだと……きっと討伐報酬もいいかなぁと思って来たんだ』

にこにこと薬草茶を飲むルカを見て……俺はこれにどう答えたらいいのかなって思った。

「二代目辺境大森林の魔王」そして、辺境伯になった俺には新たに「魔王伯」という呼び名がある。

……どこぞの王弟が笑いながら夜会で話しているらしいことを最近、他のやつから聞いた。いつの間にか他国にまで広まってんのかよ。

あと噂なだけあってだいぶ変な広がり方をしている。

いや、ホントこれ……どうしようかな?!

俺はとりあえず、王弟へ抗議の手紙を書くことにした。