軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

春編17話「臨時編成」

拝啓 兄上

至急、辺境大森林へ第三騎士団の派遣を要請します。

バルドレム・トピリア侯爵と連名の派遣要請書を同封するので、陛下と騎士団長へ届けていただきたく思います。

補佐官のジャスウェル・ラルストンを王都へ向かわせております。辺境から王都までの道中に、同様の異変はないかを同時に確認させています。

*──*──*──*──*

朝イチで冒険者に顔を出したわけだが、雰囲気がピリついている。昨日、魔獣に襲われた冒険者の一件があるせいだろう。

ギルド長と昨晩話し合い当該魔獣の特定と討伐、安全確認が出来るまで深層部への立ち入りは個人でもBランク以上の者に限定した。パーティーランクと個人ランクとは違う。総合力で判定するパーティーランクのが高くなりがち。

そのため、パーティー変更を余儀なくされたり活動範囲が狭まったりとで混乱している。

一つ 欠伸(あくび) をしてから、依頼用紙を眺める。眠ぃ……昨晩のうちにジャスウェルに支度をさせて、早朝には送り出したからめっちゃ寝不足。

ジャスウェルには師匠と連名で書いた「派遣要請書」を持たせた。精霊たちに同様のものを、兄上の私室へ前回と同じように届けてほしいと頼んだのでこちらの方が早いとは思うけど。

ただ、元記者のジャスウェルは抜群に情報収集がうまい。辺境から王都までの道中で、似たような被害がないかを確認させてそちらも報告するよう指示している。

本来は特別料金で王都までこういった公文書を運ぶ「緊急徴用便制度」なるものがあるらしいが、今回はパス。師匠がそれくらいの金は出してやると言っていたけど

「精霊たちに頼んだ方が早いから大丈夫。前回もそれでうまく届いたし!」

と言うと無言で軽めに小突かれた。ゲンコツじゃないあたり、そこまでは怒ってないらしい。昨日もそれで師匠のとこへ使いを出したし、精霊たちの優秀さは理解しているようだ。

眠くていまいち目が滑って依頼用紙の内容が入ってこねぇ。考えることも多いしさぁ。

ざわついていたギルド内が不意に静かになったので、何だろうと思って振り返る。

入口にはルカがいて、その表情は硬い。

「……よく顔を出せたよな」

あまり知らない冒険者は最近モンテディオス王国からやって来たパーティーの一人。低い声は小さいが、よく響いた。

「何?どういうこと?」

周りからも、ルカのことを歓迎していない雰囲気が周りからも伝わってくる。

「そいつが連れてる狼にあいつはやられたんだろ?パーティーメンバーが言ってたぞ、白い獣にやられたって!」

「はぁ?!あれは狼の咬傷じゃねぇよ。俺と師匠の見立てを疑うつもりか、てめぇ!」

マズいと思ったのか俺たちの間に割って入るベテランの冒険者たち。

「リシアン、落ち着け。お前とバルドレム翁のことを疑ってるとかじゃない。ただそういう話が広まってるだけで……」

数人がかりで押さえ込まれて、俺と相手の冒険者はじわじわと離される。

「静かにしろ、お前らぁ!!」

ギルド長の一喝で右耳がキーンとなる。声がデカいにも程があんだろ、これ。

「ほら、落ち着け。らしくないぞ?」

ギルド長が何か言ってるけど耳が復活しない。寝不足にあのクソデカボイスは被ダメージがデカい。でも、ちょっと落ち着いた。

「咬傷からして既存の魔獣ではない可能性が高いというのがリシアンとバルドレム殿の見立てだ。この魔獣の特定と討伐をBランク以上の者は優先とする」

ギルド長の説明には誰も口は挟まない。

「ただし、パーティー編成が変わる場合は必ず報告するように。臨時編成の許可を出す。元のパーティーは解散扱いにしない。討伐完了後の臨時編成解除の手続きだけはやれ。なお魔獣の特定・討伐に参加しなくてもペナルティはなし。メンバーとよく話し合って決めろ」

さっすが、ギルド長。ある程度、話し合ってから「あとはいい感じにしといて」って託して帰ったけどよかった。

「最後にリシアンとルカ。ソロのお前ら二人は緊急事態だから組め。単独行動は禁止だ。以上、解散!」

それはちょっと想定外。まぁ……確かに一人だと何かあった時にマズいしな。

周りも臨時編成での交渉が始まったので、俺もルカのところへ行く。

「ギルド長命令だって。しばらくよろしく?」

「……うん」

ルカは何だか気まずそうに、それでも微笑んでいた。

◇──◇──◇──◇──◇

「ごめん、森に行く前にちょっと薬店で話すことがあるから待っててもらっていい?」

そう断りを入れてから薬店へ帰る。クレメンテもそろそろ着いた頃だろうし、簡潔に一報は届けさせている。

「ただいま!とりあえず冒険者ギルドの方は問題ない」

師匠とクレメンテがすでに話し合っていた。

「申し訳ありません、領主様。昨夜は 馳(は) せ参じることが出来ず」

「いや、師匠もいたし……。クレメンテも呼べばよかったな、悪かった」

治療もあったし、取り急ぎジャスウェルへの指示と冒険者ギルドとの話し合いとでそこまで頭が回んなかった。

終わったことは仕方がないので、今から出来ることで手伝ってもらおう。あと書類仕事も今なら大幅に投げていい気がする。

「派遣要請は出したが、その前に討伐が済むのが理想だな……」

「ええ、何体いるのかも不明ですし」

問題はそこからなんだよなぁ。

「あ、ルカ。辺境大森林の……モンテディオス側ってこっちと違ってたりする?」

辺境大森林にはその名の通り国境がある。広大な森だし多少の違いはあるのかなって。

不意に声を掛けたからか、少し強張っている。

「……ううん、魔獣も動物の種類にも違いはないかな。浅層部の魔獣は変異種がたまにいたらしいけれど、深層部には通常個体しかいなかったよ。……ごめん、あんまり浅いところには行かなかったから実物は知らないんだけど」

それを聞いた俺と師匠は目を見合わせる。こちらの浅層部にそもそも魔獣はほぼ出没しない。

だからこそ冒険者以外に猟師も立ち入れる区域なわけだし。

森単位で何かしら異変が発生している?

「ありがと、ルカ。そういう情報めっちゃ助かる」

ルカはきょとんとしたまま、首を傾げていた。