軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

春編16話「辺境伯としての自覚」

拝啓 兄上

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あ、書き出しから間違った。考え事をしながら手を動かすとよくない。

さすがに先日の仔蜘蛛のことはレオ兄さんにも報告しなきゃなと思っていたんだけど。さて、どう伝えようかなと思いながらまだ白い便箋を眺める。

「リシアン、会計」

はいはいと店番に戻る。薬店もあと少しで閉店しようかと思うが、まだ何組か店内にいるな。迷うくらいなら全部買え。

「リシアンっ!!」

切羽詰まった声で飛び込んできたのはBランクの冒険者パーティーだった。年も近く、よく顔を合わせるやつらでもある。

「どうした?!」

二人がかりで抱えている冒険者はぐったりとしている。片足が真っ赤に染まっている。

「奥に連れて来い!あと今日はもう閉店だから、決めきれないやつらはもう帰れ」

奥の簡易ベッドに寝かせて、まずは太腿のあたりをきつく縛る。台に脚を乗せて傷口が見えないと話にならないから服は破く。

「……何だ?この傷」

見たことがないタイプの咬傷だった。膝の横付近はやたらと傷口がボロボロになっている。潰されて引き裂かれたような……知らないやつだ。

辺境大森林で肉食の魔獣は熊か鳥くらい。たまに猪型の牙にやられるのはいるが、それともまた違う。

幸いにも太い血管はやられていないが、この出血量はマズいな。

*──*──*──*──*

至急。脚から出血多量。治癒魔法要請。

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短く書いたメモを精霊に渡して師匠のところへ届けるように頼む。

水属性の精霊にざっと洗い流してもらって、消毒をする。

相当に 滲(し) みるはずだが、反応が薄い。急ぎ止血をしないといけないので、治癒魔法を発動させる。こんな時、自分の魔力の少なさに歯噛みする。

「おい、一緒にいたんだろ?何にやられた?」

パーティーメンバーは顔を青白くして治療の様子を見つめている。

「……分からない」

ポツリと呟いてしゃがみ込んでしまった。

「少しも見てないのか?どんな状況でやられた?」

少しずつ、出血自体は止まってきているが傷の様子は酷い。

「深層部から帰ろうとしていたら……茂みからいきなり、一瞬だった」

「そんなに大きくはなくて、白っぽい色をしていた。火魔法で逃げたからその隙に……孤高のソロの連れてる、あの狼くらいだと思う」

余程、必死だったのか武器すら置き去りにしたままこいつらも麓まで逃げ帰ってきている。聞き取りもここまでか。

「狼じゃない。この間、読んだから知ってる」

先日レオ兄さんから送られてきた「狼の咬傷実例と創傷の特徴」を読み終わったばかりだ。こんなにギザギザにはならないはずだ。鋭く切り裂かれるのが創傷の特徴で、この潰したような形跡は該当しない。

じわじわと魔力の枯渇も近く体が重い。

師匠が来るまで、何とか持ち堪えないと。

「リシアン、患者は?!」

その怒鳴るような声に今はほっとする。精霊たちに持たせたメモはうまく届いたようだ。

「師匠、こっち。奥です、奥!」

汗だくの師匠が部屋に入ってきた。体から湯気が出てる……こっちのがヤバくないかな?

「……挫滅と切断が同時に」

険しい顔をしながらじっと見つめている。師匠が持参した鞄にはレオ兄さんと同じ縫合器具が入っていた。

いつの間にやら手慣れたように、傷口を縫い合わせていく。手早く縫い終わると治癒魔法で塞いでいる。

「この傷だと右足は使い物にならんかもしれん」

それを聞き、彼のパーティーメンバーは 項垂(うなだ) れていた。師匠の腕でそう言われるということは、相当な傷だったんだなと思った。

まだ目を覚まさないし怪我人はそのまま薬店で看ることにして、後のメンバーには冒険者ギルドへの報告へ行った。

「リシアン、俺に任せてお前も休め。魔力を使い過ぎだ、このバカ弟子が」

片付けも終わり、どっかと椅子に腰掛けて師匠がそう言う。

「来てくれて本当に助かりました。ジジイこそ湯気が出てたんだから休まなくていいの?」

「あれは軽く走ってきたせいだから問題はない。馬がいればよかったんだが……こういう時のために一頭くらい飼うか」

化け物かよ。街からここまでどんだけあると思ってんだよ、このジジイ。

「軽口を叩く余裕はあるようだな?」

やっべ、化け物って声に出てたか。

「顔に出すぎだ。いいから休め。倒れるぞ?」

ここでゲンコツが落ちないということは、俺は余程の顔色でもしてんのか。

「いや、ちょっと行くところがあります。やらなきゃいけないことがあるんで」

ジャスウェルがこちら……麓側に定宿をとっているはず。あいつは騎士団に友人がいると言っていた。俺からも書簡は出すが、なるべく早いほうがいい。

「補佐官のジャスウェルを王都へ向かわせ、第三騎士団の派遣を要請します。それと冒険者ギルドへ深層部への立ち入りは高ランクのみに制限の依頼を」

あいつらはパーティーでBランクだったからな。個人だともう一つ下のCランクもいる混合パーティー。全員がBランク以上でないとおそらく危険だ。

「……要請文書の書式が分からないだろう。下書き程度はしてやるから早く行け。あとちょっとこっちへ来い」

頭をぐしゃぐしゃに撫でられたかと思えば、どうやら軽い治癒魔法をかけてくれたらしい。

目にかかるボサボサになった髪が邪魔で首を振る。

「……何なの、俺もうガキじゃないんだけど」

「魔力の回復にはならんが、多少はマシだろう」

飄々(ひょうひょう) としたジジイめ。ありがたいけどさぁ、治癒魔法ならもうちょっとフツーにしてくれてもいいじゃん。

「いってきます」

師匠はこっちを見ることもなく、早く行けといわんばかりに軽く手を振っている。

少し軽くなった身体を 翻(ひるが) して、駆け出した。