軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

キャベア・ナマッツ

「あのシーちゃんは連れて行ってあげられない、んだよね?」

道中、なんとなしに聞いてみたときだった。

「私だけではご不満でしょうか? ユウ様」

表情ひとつ変えず、もちもちのシーちゃんぬいフォルムでそんなことを言われ、私はしっかりとメロついてしまった。

「……! ううん! そんなことないよ!! シーちゃん大好き!!」

わ、わざとらしかっただろうか? 窺うように頬に寄りかかる彼女に視線を向けてみるけど、そこまで表情に変化はない気がする。

こ、小悪魔だ! 小悪魔シーちゃん! プレイヤーの心をくすぐる術を心得ていらっしゃる。果たしてこれは私の努力の成果なのか……謎だ。

こういうとき、他のプレイヤーと交流がないと、自分の状態と比べることができないからちょっと不便だね。かといって、無理にフレンドとかを増やすつもりはないけれど。

せめて、同じように図鑑を作ってくれる人がいればなあ……交流しようかなとも思うんだけど。

「森っぽくなってきたなぁ」

草原の奥地に行けば行くほど、木々が増えてまるで森か林のようになっていく。

もしかしたら草原から『糸引く森』とやらに続いているのかもしれない。

遠くに見えるキリンの首目指して移動する。

そして、とうとう最初に草原にやってきたときに目にした巨大なキリンの足元まで辿り着いた。

黄色に茶色っぽい模様はリアルの図鑑に載っている姿と同じ。ただ、その首元にドレスのフリルが上向きについているかのようにキャベツの葉が咲いている。葉っぱに咲いていると形容するのはおかしいかもしれないけど、そうとしか表現ができない。随分と豪華な襟飾りだ。首が長くて見えづらいのが難点だけど、はじめて探索に出たときに会ってみたいなと思った子にようやく出会えた!

私が見上げていると、キリンが私の存在に気がついたのか襟飾り越しに優しい目を向けてきた。ま、まつ毛がバシバシだ! すごいエレガント! 語彙力がどんどんなくなっていくのを自覚しつつ、見下ろしてきているキリンに手を振る。オリウルもワルフルたちも威嚇をしていないので、敵対しているわけではないだろう。友好的なモンスターだ。

「こんにちは」

高いところにある首がグインと曲げられ、降りてくる。

キャベツの襟飾りで見えなかった顔が目の前にやってきて、にっこりと微笑んだ。ペロッと私の鼻先を舐めて首を傾げたあと、キリンはもう一度首をあげて木々の葉っぱを食べ始める。

「シーちゃん、この子ほしいです」

「来訪を待ちましょうね」

「はーい」

あっさりと言われてしまったので返事をする。

名残惜しく思いながらもさらに奥に進んでいけば、これまた鬱蒼とした森の手前に広場のようなものが存在していた。

「ボス戦フィールドっぽい……」

警戒をして辺りを見回すが、どうやら今はなにもいないようだ。

ほんの少しだけと思いながら、慎重に広場を歩き回り、探索する。枯れた草が重ねられてベッドのようになっているところに手のひらほどの大きな鱗を発見し、驚いた。

「絶対大きいモンスターだ……」

だが、現在その鱗の持ち主はいない。

もう少し調べようと枯れ草のベッドをわさわさと探ってみると、中から透明ななにかを発見する。手で掴んでずるりと葉の中から抜き取ると、出てくる出てくる長〜い、なにか!

「これってもしかして……」

まさかとは思うけど……超巨大な、蛇の抜け殻!?

実物を見たことはない。しかし、どう見てもそうとしか考えられなくて戦慄した。ものすごく大きい。胴体の太さがほぼ木の幹くらいあるのだ。襲われたらひとたまりもないだろう。

深層のボスだろうか……?

とにかく、出会ったらまずいことは察することができたので、そろりそろりとその場から離脱する。

深層のモンスターにもいくらか会うことができたし、出会うことが条件のモンスターが来訪してくるようになるだろう。

第二ガーデンのほうで実験もしたいし……ひとまず、私は探索率をちょろっと上げるだけで帰宅することにしたのだった。

第二ガーデンのほうに一時帰宅し、勝手に仲間になっているワームースとか見知らぬ緑のクマとか眺めながら、荒れた地面に雪原化する環境変化アイテムを使って何タイルか雪にして……と。

ん、うん? 今なにかおかしかったな。

放っておくことで、浄化されたり荒らされたりを繰り返されているだろう第二ガーデンは、正直魔境だ。そこにワームースがいるのはなんの問題もないが、クマはクマでもバタベアでもミルックマでもないクマがいるのはおかしくないか?

「シーちゃん、あの子の図鑑はどれですか」

「はい、キャベアの図鑑ですね」

名前までしっかり知らない子だ……。

「ところで、他にも私が把握していない、勝手に住民化した新種はいるの?」

「はい、あそこの樹上に」

「うん?」

シーちゃんが指さした方向を見ると、そこには逞しい幹を持っているのに枯れ切った樹木と、その上でぼーっとしている、どう見てもナマケモノらしきモンスターの姿があった。

「結構みんな勝手に住み着いてる!?」

「外の自然よりも環境は良いですから」

「そっ、かぁ~」

いいんだけども! 知らない間に住み着かれていると、図鑑が更新されていることに気づけないなんてことが起こるので困る。

じゃあ、先にクマさんから。

――――――

No.012

名称【キャベア】

・ 分類:野菜

・ 原型食物:キャベツ

・ 原型生物:クマ

・ 危険度:D

・ レア度:R

・ 大きさ:4タイル(2×2)

・ 生息地域:枯れ果てた草原

・ 好物:??? ???

・ 来訪条件:

20タイル分の汚染されていない草地がある。

ガーデンに10タイル分の野菜畑がある。

所属するキャベアが一頭もいない。

・ 住民化条件:

30タイル分の汚染されていない草地がある。

ガーデンに20タイル分の野菜畑がある。

所属するワームースが2匹に達していない。

・ 汚染タイル数: 陸上5

・ 能力:

畑で育成する野菜類の生産数が30%増加する。硬い地面を耕すことができる。

腐食モンスターが通過した際、畑の汚染を確定5マス防衛する。

肉類を食べるとロールキャベツが生成される。

日向ぼっこ中、同ランクの野菜系モンスターが条件を満たしていなくとも来訪することがある。この場合、未解放の来訪条件パネルが一枚開示される。

・ 備考:

条件未解放で来訪するモンスターは、ひとつでも条件が解放されているモンスターに限られる。

騎獣を引き受けられるが、撃退はできない。逃走速度は1人のときよりは早い。

・ 生態観察:

大型で温厚な性質を持つ野菜系クマ型モンスター。

日照と水分の整った環境を好み、畑の中心部に定着しやすい。

周囲の野菜系モンスターに安心感を与える特性が確認されている。

防衛よりも環境維持・生産補助に適性が高い。

移動速度は遅いが、環境への影響力は大きい。

――――――

「ん、野菜畑? 作ってないような」

と思って眺めてみると、そういえば名称不明の種とかを植えたりした跡があった。

自分でも忘れていたが、10タイル程度なら誤差みたいのものだしと思って、適当に耕したあとがあったらしい。偶然条件を満たしたようだ。けれど、偶然だからこそ満たせた条件でもあると感じる。

現在はワームースも三匹ちゃんといるが、この子はそれ以前に住民化したのだろう。ワームースの数に縛りがあるのは、キャベツは虫に食べられてしまうからだろうか? それを言うと他のお野菜モンスターもワームースを苦手に思っていてもおかしくないのだが、今のところこんな条件で住民化するのはこの子以外を知らない。

「ま、偶然に感謝かな。そうでもないと住民にならなかっただろうし……」

続いて、樹上にいるナマケモノらしきモンスターである。

――――――

No.018

名称【ナマッツ】

・ 分類:ナッツ類

・ 原型食物:ナッツ

・ 原型生物:ナマケモノ

・ 危険度:D

・ レア度:R

・ 大きさ:2タイル(1×2)

・ 生息地域:糸引く森

・ 好物:ナッツ

・ 来訪条件:

ナッツ類の木がある。

所属するナマッツが一匹もいない。

・ 住民化条件:

ナッツ類を三つ食べる。

ゲーム内で24時間同じタイルの上に佇んだまま放置される。

・ 汚染タイル数: 陸上/樹上3

・ 能力:

樹上にいる場合、一度の収穫数が3増加する。

移動指示をされた場合収穫量が3減少する。

三度連続で指示出しをされた場合は引越しをする。

・ 備考:住民モンスターとしての役割付与は不可。

・ 生態観察:

樹上で長時間静止する特異な行動様式を持つナッツ系モンスター。

収穫補助能力は高いが、移動指示に対し強い拒否反応を示す。

指示が継続すると離脱(引越し)するため、運用は“放置前提”となる。

腐食個体として刺激すると汚染拡大を招きやすく、対応は慎重さを要する。

住民化後も役割付与が困難で、環境依存型の特殊個体に分類される。

――――――

「ナッツ!? ある!?」

「枯れ木環境でもときおり生産物が生成されることはございます。また、外からモンスターが持ち込んだものなど」

「そんなことある!? 第一ガーデンのほうで経験がないんだけど!?」

「長時間滞在していない場合、普段来訪してこないモンスターが誘引されることもございます。そういうこともございますので」

どうやら納得するしかないらしい。恐らく早めに住民化しただろうキャベアの特性的に、知らないモンスターが来るのも一応分かるし……。

「ま、いいか。よろしくね」

お耳のあたりが小っちゃいキャベツになったりしているキャベアと、なんかデカいナッツの殻みたいなものを抱き枕にしているらしいナマッツ。二匹を軽くスケッチしてから私は第一ガーデンのほうにようやく帰宅するのだった。

第一ガーデンのほうでは、草原の表層モンスターの残りの子をお誘いするためにセッティングしなければ!