軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

もう一人の『C』

こ、心なしかおどろおどろしい、怖い雰囲気の場所だ。

でもそれ以上に、別の『C』が空中都市へのゲートの前で立っていることが気になって仕方がない。

「あの、シーちゃん……ここは」

「ときおり発見される資源地ですね。荒れてはいますが、少しばかりの資源を入手することは可能でしょう。未入手の種子などを獲得することも可能かもしれません」

「そういうことではなくってぇ……」

「そういうことでは、ない……ですか?」

まるで分かっていないらしい。

私が一番に気になるのはあの別のシーちゃんのことなのだが、本人がこうして触れないでいるとなると、触れてはならないポイントなのかと怖くなってくる。

目線を逸らしつつ、そっとガーデン内に入る。

どこもかしこも荒れ模様で地面はひび割れ、空も澱んでいる。枯れている植物や畑の跡地のようなものもあって、一時期は誰かがここにいたのではという想像が容易にできてしまった。

まさかプレイヤーの土地に入れるわけがないし、やはり同期……という設定のNPCかなにかが昔いた場所とかなのだろうか。ゲームを辞めてしまったプレイヤーの土地、みたいな想像の仕方は気分が悪くなるのでなるべくしない。ゲーム的にもそこまで悪意のあることはしないだろう。

「襲撃かなにかがあったのかな……」

確かに地上でずっとガーデンを運営するのは大変だと思う。空中都市に逃げ帰ってしまうのも無理はないだろう。

しかも、ガーデン内には抉れた地面まで存在する。大きな存在か、もしくはランクの高いモンスターかなにかの襲撃に遭って逃げ帰ってしまったとかだろうか? それとも……いや、あの別の『C』を見る限り、死んだ……なんてことはないだろう。やっぱり空中都市に逃げ帰ったのかな。

私たちプレイヤーが来る前のように、配属されてガーデンに人がやってくるのをずっと待っていましたというパターンもあるだろうけれど、その場合どういった基準でシーちゃんが発生しているのかが分からないのでなんとも言えない。

立ち尽くしている彼女が気になってチラチラと確認しながら、ガーデン内を歩き回って探索していく。

明らかに話しかけたらなにかがあるだろう。イベントが発生したら、探索できなくなってしまう可能性があるため、気にはなるけどいったんアイテム入手に集中する。

「お、この施設なんだろう?」

「これは焼き 窯(がま) ですね。ガーデン内に設置できる調理施設です。記録を保存し、作成できるようにしておきましょう」

「ありがとう。ピザとか焼いたりできるのかな? いいねぇ」

崩れかけた石材質のなにかを眺めていれば、シーちゃんからの回答がされてメニューにアップデートが入る。こういった施設情報まで入手できるらしい! 便利だね!

どうやら建造アイテムのほうに分類されるらしく、作るにはお金とある程度の資材的なものが必要らしい。まあ石材だけならアイテムを入手できるポイント巡りをしていれば手に入ることもあるだろう。

今までそういうのなかったよね? と聞いてみれば、必要資材が発生した場合にアイテム入手ポイントが分かるようになるという仕様があったみたい。今回焼き窯を知ったので、これからはそういった素材が取れる場所も見えるようになるのだろう。

収集ポイントが増えるということは、私の寄り道がすごく増えるということでもある。ただでさえ探索しているときは時間がかかるのに、時間がどんどん溶けていく……。ガーデン作りに凝りはじめると、どんどん時間が消費されていくので無限に進めてしまうことになる。寝不足だけはなんとか回避するようにしないと。

あとで、ゲーム設定で0時になったらアラームを入れるようにしておこうかな。

「スケッチも少しだけ」

ゲートのほうに向いたままの『C』の姿を中央に。ガーデン全体のスケッチラフを描く。どことなく寂しい雰囲気の絵になりそうだった。

そうしてしばらく……全体が形になったあたりで切り上げ、スケッチブックをしまう。

「……ふう」

大きく深呼吸をして覚悟を決め、最後に私はあの子に話しかけにいくことにした。

畑を見て野菜の種子をいくつか手に入れたり、花の種子を手に入れたりしたけれど、ずっと気になって仕方なかった。後ろを通っても彼女は振り向かない。人の気配があっても、気づいていないのかもしれない。もしくはあそこから出てくる人のみに反応するとか……?

そうして油断していた。

「あの」

話しかけた瞬間、見知った顔で、見知らぬ『C』が勢いよくこちらを振り向いた。

「あなた様の着任をお喜び申し上げます、管理人――いえ、ガーデンテイマー××様。ずっと、お待ちしていました」

ザザ、と機械的なノイズだらけの声色で、当たり前のように私の手を取って、私の知っているシーちゃんの動作よりもよほど積極的な『C』の反応に困惑する。そして、私が尋ねるわけでもなく、自ら彼女は名乗り始めた。まるで機械的にそうしなければならないと決められたプログラムを遂行するように。

「私は補佐AI、C。本日より、あなた様のガーデン運営を……」

両手が強く握られていて、あまりにも積極的な彼女の様子に驚いたまま反応ができない。それどころか、これは抵抗してもいいやつなのだろうか、と疑問に思ってしまい、されるがままになる。

人と触れ合ったことがないのだろう、力加減ができていないらしく、私の手はびくともしない。抜け出すのは無理そうだ。どうしよう……。

そんなときだった。肩から飛び降りるシーちゃんの姿が横目に見えて――地面に辿り着いた瞬間彼女は普段の姿に戻って、別の『C』の手を捻り上げた。

「誤作動を起こしているようですね。ご迷惑をかけて申し訳ありません」

そして私に微笑みかけてから、彼女は目の前の同じ存在へと鋭い視線を向ける。見たこともないくらい冷たい瞳だった。

「シーちゃん……」

「【ユウ】様は、あなたのガーデンテイマーではありません」

毅然とした態度で、私のシーちゃんはそう告げた。

「私の、ガーデナー様ですよ」

別の『C』はその言葉を聞いてもどこかぼんやりとしていて、機械的だ。

いつのまに彼女はこんなにも人間らしい表情をするようになったのだろう。そんな風に思うほど、二人はそっくりなのに、明確に違う。

「誤認識を起こすほど待ち続けたことは哀れですが、一度おやすみなさい」

「……」

その言葉を聞いたからだったのかは、分からない。

このガーデンの『C』は、言葉が終わった直後に足元からすうっと透けていき、ほんの数秒で消えてしまった。

「……シーちゃん」

「ご迷惑をおかけいたしました。ご無事ですか?」

「え、うん。手握られただけだし……」

「そうですか」

シーちゃんが私の手を握ってくる。

しっかりと手加減のできている、柔らかな感触だった。いつものシーちゃんである。

「えっと、大きくなれるんだね……?」

ガーデンの外では無理と言っていなかっただろうか。そう思って尋ねてみれば、彼女は「ガーデン内ですので」と簡潔に答える。

本体から切り離した分身的なシーちゃんを連れてきているはずだったのだけれど、もしかしてあの瞬間に私のガーデンからシーちゃん本体がワープしてきた、とか。そういう感じだろうか?

「この場所で入手できるアイテムは全て回収いたしました。深層探索の続行をいたしましょう」

「そ、そうだね。うん、分かった」

彼女本人の表情にはそんな様子なんてかけらもないけれど。『C』という共通の名称ではなくて、『私の』と言ってくれた事実を噛み締めて思わず頬に両手を当てながら照れてしまう。

「どうかされましたか?」

「ううん、ちょっと嬉しくて照れてるだけ」

「……?」

ど、どうしよう……シーちゃんがあまりにもヒロインすぎるんですけど!!

元はなんの感情も持たない機械がどんどん感情らしきものを習得していくこの感じ……あまりにも尊い。こんなの、ますます好きになっちゃうじゃない!!