軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

41 襲撃犯の正体より知りたい事

ルミネが泣くので、フィストはリンジの向かいにならないようにズレた。

その隣にアスターが座り、リンジと向かい合う形になる。長方形のテーブルだったので、余った両端にリルスとヴァーシプが挟むように座った。

「襲撃者は全員で六人。ある特徴から、隣国の諜報員であると断定されています。彼らはわたくしたちに拘束された瞬間自害しました。歯に起爆装置を仕込んでいたようで、頭部が粉砕して修復は不可能でしたわ。以上から、彼らの目的が情報ではなくフィストさんへの襲撃にあったと判断しています」

情報を持ち帰るなら、自爆など選ばない。

自爆を選んだという事は目的が達成出来なければ使い捨てられる捨て駒。もしくは自爆そのものが何かしらの主張に繋がる。

「随分と過激だな」

「毒ではわたくしが回復して、情報が抜かれると知っていたのでしょう。フィストさんを狙ったにしても、理由はわかりませんでした」

「ま、魔法的工作も見付かっていません。自爆によって発動する魔術などでもなく、にに、任務失敗イコール、死、だったのかちょ、かと……」

セーラとヴァーシプが調べたのなら、そうなのだろう。教会的に、魔法的に確認して情報が得られないならそうなのだろう。

フィストに気配を気取られないだけの隠遁力はあったが、対人戦では負けていた。フィスト個人としては削るに勿体ない戦力だったが、捨て駒扱いらしい。

しかし気になるのは。

「隣国の諜報員とわかった理由は?」

諜報員だ。目に見えて、身元のわかる物など持っていないだろう。それなのに、断定される特徴とは。

持って居たとしたら、隠蔽の罠の可能性が高い。

「全員耳の半分が切り取られていたからよぉ。隣の国は忠誠心を高める為に、訓練で切られるの。痛みで支配しているのねぇ~普段は人工の耳で隠しているけど、爆発した耳で確認したわぁ」

「……なんでそんな事知ってるんだ?」

「昔の男から聞いたのよぉ」

ペロリと唇を舐めて、妖艶に笑う。胸を強調するようにテーブルに身を乗り出して、誘惑するような流し目を……アスターにむけていた。

思わずアスターを見る。

彼は泣きそうな顔で、フィストの背に隠れようと必死だった。体格差から、隠れられるわけがない。

……フィストが毒で気絶している間、彼らの相手はアスターが主にしていたはずで……。

つまり彼はこの数時間。トンデモ勇者とヤンデレ聖女。狂信者の魔法使いと色情魔なガンマンに囲まれていたという事になる。

フィストは思わず心の底から申し訳なくなった。

仲間がすまない。

それにしても、隣国の諜報員。

「そんな奴ら仕向けられる謂れはないんだが?」

「そうよねぇ。むしろ英雄相手になんてことしているのかしらぁ」

「万死に値するよなぁ」

「そうですね。隣国にはいずれ天罰を下さなければ!」

不遜に笑うリルスと、唇を尖らせるリンジ。突然ハキハキと肯定したヴァーシプ。

そのやりとりは過激だが、全く見当違いとも言えない。

勇者を召喚したのはこの国だが、魔王問題は世界的問題だ。

実を言うと、この国の出身者はセーラとフィストしかいない。ヴァーシプは世界中の魔法使いが所属する魔術協会出身で、リルスは海を挟んだ大陸出身だ。

異世界から勇者が召喚されたとあって、魔王討伐の為に世界中から人が集まったのが、王城での選抜である。

なので、魔王を倒した英雄の立場は、どの国でも該当する。

それ以上の醜聞もまき散らしたが、国境を越えてまで消息を探られ、襲われるほどではないはずだ。

そもそもフィストは醜聞を止めようと必死だった側だ。それは、顔を合わせた者なら理解していただけた事と思われる。世界中を旅したので、隣国でも討伐パーティは目撃されていた。やりとりを見るだけで力関係もわかったはず。

それなのに、フィストを狙った理由とは。

(――いや、奴らの狙いが、別だった場合)

川に引っかかっていた荷物。記憶喪失の男。こんな辺鄙な山まで来ていた男の身元。

ある意味、この怪しさ、心当たりしかない。

が、それを口に出せばせっかく埋まったヤンデレ対策が……その外堀が崩れてしまう。

「フィストさんだと気付かなかったのか、別の目的があったのか。それは次があったら考えましょう」

「次があってからでは遅いのでは? フィストさんが襲われたなら次は勇者様かもしれません。勇者様に魔の手が伸びる前に、隣国には天罰を――……」

「わたくし、隣国と揉める前に、知りたい事がありますの」

魔法の杖を握りしめて真面目な顔をするヴァーシプを、セーラは微笑みを浮かべたまま遮った。

そのまま、にこりと、フィストに向かって微笑んだ。

正確に言えば、フィストとアスター……そして、ルミネを見ながら。

「フィストさんがアイアリスにだけ頼って、わたくし達の前から姿を消した理由……改めてご説明していただけます?」

アスターが声なき悲鳴を上げて、ルミネを守るようにフィストごと抱きしめた。

フィストは悟った顔で、そっとルミネの目元を覆う。とてもじゃないが幼子に見せられない。

セーラはテーブルの上に包丁を二つ置いて、その柄に手を添えたまま、真っ暗な目でこちらを見ていた。

慈悲深い顔からの切り替えがエグすぎる。

「ルミネちゃんを抱っこして確信しました。成長具合から見て、彼女は生後八ヶ月……つまり、フィストさんが姿を消してすぐ出産した計算になります」

ルミネを抱っこしていたのは、リンジが女に近付くのを阻止する以外にも意味があったらしい。

「でもそれっておかしいじゃないですか。つまり、旅の途中で妊娠していたという事になります。おかしいですよね? だってフィストさんは、ずっとわたくしたちと一緒にいました。だというのに、アスターさんの姿を、わたくしは旅の途中で一度たりとも見た覚えがありません」

ざわざわと、そよぐ風すらセーラの髪を不穏に揺らめかせる。

「おかしいですよね?」

ぐるぐると暗い目が、フィストを見詰めている。

「そもそも妊娠していたのに……フィストさんに外見的変化は見受けられませんでした」

だからわたくしは考えたのです。

セーラはゆっくり立ち上がり、包丁の刃をビシリと突きつけた。

「あなたは人が良いあまり! 泥棒猫が産んだ子を、我が子として引き取ったのでしょう!」

「その誤解は予想外だ!」

思わずフィストも立ち上がった。

本当に予想外だった。