軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ただの人じゃ……私には勝てないんだ

ユニバンス王国軍・右翼

残った兵はほんの僅かだった。

全員が満身創痍で、ただ時間を稼がなければと必死に剣を振るう。

残された時間は少なく……あとはただ死んでいくのみだと思っていた時にそれが生じた。

今までに見たことのないほど大きくなったトリスシアが、金棒ではなく帝国兵を武器に突進して行く姿を見せたのだ。

人を鈍器代わりに暴れては、壊れたら別の“者”を掴んで振るう。

放たれる矢は全て肌で弾かれ、振るわれる槍も剣も彼女に傷を与えない。

絶望的な戦いをしていた彼らは、その絶望が相手方に移ったことを知った。

暴れるオーガは止まらない。1人残らず殺す勢いでその両腕を、その両足を振るうのだ。

「ヤージュ様。見ていますか?」

生き残っていた古参の者が暴れるオーガを見つめ、最後の力で口を動かす。

「貴方の娘は……本当に勇ましく……そしてっ」

力尽きて声が止まった。

けれど彼にもう少しの時間があればこう続けただろう。『神々しい』と。

ある世界で支配者たるオーガたちを自分を除き全て駆逐した存在……のちにその世界では軍神と呼ばれ人々から崇められる存在がその場にいたのだ。

神の頂に手を届かせたトリスシアはただ一点を見つめ突進し続ける。

彼女が狙うのは……帝国軍師の首1つだ。

ユニバンス王国軍・左翼

「少しは歯ごたえのある人間が来たね。名乗りな?」

一騎当千の実力を発揮するカミーラに対し、彼は大きく息を吐いて剣を構えた。

「ブロイドワン帝国東部方面軍軍団長……ギャルベス。お前は?」

「私か? 私はユニバンス王国王女グローディアの護衛……カミーラだ」

クスリと笑いカミーラは手にしている槍をクルクルと回した。

途中で拾った物だが具合が良かったのでそのまま使っている。振るっていた兵は何やら長々と自己紹介していたが、途中で煩わしくなって頭を砕いて話を止めてしまった。

ただ前の持主は弱かったが、槍自体は悪くない。ユニバンス王国には無かったが、もしかしたら魔槍と呼ばれる類の武器なのかもしれない。

「あの国には王女は居なかったはずだが?」

「居るんだよ。悪さをして今は姿を隠している。私はそれの護衛だ」

「そうか」

グッと剣を握りしめギャルベスは、正面から化け物を睨みつけた。

これ以上の侵攻は止めなければいけない。

自分が死ぬことになったとしても、軍師からの命令は絶対だ。それに少なくとも軍師の命令に従いここで殺されれば……自分の家族にまで害が及ぶことはないはずだ。

覚悟を決めて彼は剣を構える。

決死の覚悟を相手から感じたカミーラは薄く笑った。

「何をそんなに恐れる?」

「お前のような化け物を前に怖れない人物が居るのか?」

「意外と居るぞ? ユニバンスの王子なんて恐れもしない」

「そうか。ならば我が祖国は攻める相手を間違ったらしい」

「違いない」

クククと笑いカミーラは右手に持つ槍を大きく横に振るった。

「どうした? 飛び込んでくるタイミングで私に矢を射かける気なのだろう? さっさとすればいい」

「分かっててそれを受けるというのか!」

「ああ。その通りだ」

軍団長は剣を振るいカミーラに襲い掛かる。

数度打ち合い間合いを取るように離れると、四方から矢が飛んでくる。

脅威ですらなかった。

それはカミーラからすれば懐かしい攻撃だ。だからこそ対処の仕方も決まっている。

タンッと音を立てて地面を爪先で叩く。

飛んでくる矢を塞ぐように土の薄い壁が生じた。

それで十分だ。

「なっ? 魔法だと?」

目の前で起きた出来事に軍団長は驚き慌てた。

「ああそうだよ」

クルリと槍を回し、カミーラはそれを肩に置く。

「私はただの魔法使いだ。武器も扱えるけどな」

「この化け物がっ!」

叫び剣を振るう相手にカミーラはまた爪先で地面を叩く。

彼の足元に生じた串が……股間から脳天まで軍団長を貫いた。

「ああ。私は化け物だよ」

薄く笑ってカミーラは槍を振るう。

「ただの人じゃ……私には勝てないんだ」

圧倒的な実力差と言うべきなのか……それを見ていたコッペルは全身を濡らす冷や汗を止められなかった。

けれどカミーラが軍団長を打ち取ったことで形勢が決まった。

帝国軍はジリジリと後退を開始し、代わりにユニバンス軍の左翼が追撃を始める。

部下に指示を出していた老将は、兵が割れて道が出来る様子を伺った。

「十分だろう?」

「ああ。十分だとも」

やって来た化け物に預かっていた酒瓶を投げて渡す。

彼女は受け取った酒瓶の封を切って中身を一気に煽った。

「ふう……生き返る」

告げて今度は槍を投げて来た。慌ててそれを受け取ったコッペルは腕の中の物を見つめ、そしてその目をカミーラへと向ける。

「アルグスタの旦那に渡しておいてくれ」

「持って行かないのか?」

「雇い主である王女様の転移魔法だとその手の道具が運べない」

グビグビと酒瓶を煽る様子から、どうやら酒瓶も運べないとコッペルは理解した。

「ならもう帰るのか?」

「ああ。これでもあの殺戮姫の護衛なんでね」

「お前が護衛とは……グローディア様は恐れを知らないご様子だ」

「違いない。元々十分狂った女だしな」

不敬なことを言ってカミーラは自分の頭に指を向ける。

クルクルと回してバーンと弾けさせた意味を誰一人として質問などしない。

今のグローディア王女はユニバンス王国にとって恐怖の存在だからだ。

「なあカミーラよ」

「ん?」

「戻っては来ないのか?」

老将の優しげな声音にカミーラは残った酒を一気に煽る。

「戻れないよ」

「何故? あの日の罪であればシュニット王が」

「そうだろうさ。けれど人の気持ちは王様の命令なんかで変わるものか」

「……」

「だから私は戻らない。あの厄介な王女の護衛として自由気ままに生きるだけだ」

「そうか」

ゆっくりと頷きコッペルはこれ以上の説得を諦めた。

「ただしもし私に用があるならアルグスタの旦那に言ってみな。昔のよしみだ……少しぐらい手を貸してやるよ」

「これで引退する身としたら、そうならないことを願うばかりだ」

「そうだな」

軽く手を振りカミーラはその場から離れるように歩き出す。

森の中に入って行った彼女を追った密偵は……直ぐにその姿を見失ってしまった。

転移魔法でグローディアの元に戻ったと報告書ではそう綴られていたが、実際は魔力が切れて宝玉に戻り、それを慌てて確保しに来たリスが玉乗りの原理でその場から逃げて行ったのだ。

ユニバンス王国軍・中央

「敵右翼が崩壊! 敗走を開始しました」

「遅れたか」

苦笑しキシャーラは目の前の敵を見据えた。

「ならば我々がすることはただ一つ! あの憎き軍師の首を誰が最初に手に入れるかだ! 今度は負けられんぞ!」

「「おうっ!」」

帝国軍の中央部隊をほぼ打倒したキシャーラたちは、さらなる前進開始した。

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