作品タイトル不明
にいさまへのこうげきはゆるしません
「私は紅茶が欲しいわ」
「僕も同じで」
「はい」
一応本来のメイドとしての試験も兼ねているそうなので、義母さんが椅子に腰掛け紅茶を頼む。
ただその義母さんの腕にはポーラが抱かれていて、受け答えしているメイド見習い以外の2人が何とも言えない表情を浮かべていた。
これはちょっと減点かな?
「お城でメイドをするなら、こんな光景は良く目にするから動じたら駄目だよ?」
「「失礼しました」」
言ってて気づいた。こんな光景が普通な国って駄目なんじゃなかろうか?
ああ。僕の周り限定か。なら問題はないか。うん。ないの!
僕の注意を受けて2人は表情を引き締める。
素直に学習して対応するのは流石だ。ポーラと同じぐらいの年齢なのに……ああ。ポーラは劣悪な生活環境が原因で発育が遅れているんだよな。
そう言わないとポーラの表情が絶望に染まるしな。
紅茶の準備をしているのは今回の試験を受けている3人の中で一番の年長さんらしい。
流れるような所作で紅茶を注いで運んできた。と、足音も発せずに待機に移行する。
だからメイドの育て方を根本から間違えてない?
「義母さん」
「何かしらアルグスタ?」
「ここのメイドさんって人気があるって聞いたんだけど?」
「そうみたいね」
『よしよし』と言いながらポーラを乳飲み子のように抱えている義母さんは笑顔だ。対照的にポーラの表情は死んでいる。
ポーラほどの年齢で乳飲み子扱いとか……ままごとでも耐えられないよな。
女性の方が精神年齢が高いというし、赤ちゃん的な扱いを求める大人なんて碌な人間じゃないだろうし。前王がそれか。
「スィークがしっかり教育するから人気みたいよ」
「……内部情報筒抜けなのに?」
「ええ」
ポーラの口に焼き菓子を運びながら、義母さんが『うふふ』と笑う。
ここの孤児でメイドになった者は諜報の任務が課される。
それは意外と有名らしく、そんな有名なメイドが引く手数多とか意外だ。
「この子たちを引き取れる貴族は、内部情報が筒抜けになっても大丈夫って証拠になるわけでしょう?」
「ああ。そういう考えか」
『ウチは悪いことをしてないから、あそこのメイドを引き取れます』と宣伝することで身の潔白の証拠になるわけか。良く出来たシステムだな。
「それに本当に優秀だから人気が高いのよ」
「なるほどね~」
頷いて気付いた。
「僕の屋敷にも居るのかな?」
「アルグスタの所は……」
義母さんが思い出そうと首を傾げる。
と言うかウチは秘密がいっぱいのワンダーランドだからそんな密偵が居ると厄介なのだ。
あら不思議。ウチは後ろめたいことはしてないのに、ここのメイドを雇えない貴族だったよ。
「おやしきにはいません」
「そうなの?」
死んだ魚のような目をしたポーラが口を開いた。
「せんせいが『しっぱいした』といってました」
「なるほどね」
「それとわたしに『それをしなさい』ともいいました」
おい? あの叔母様?
「ことわりました」
「流石ポーラだ。本当に偉いぞ」
「はい」
頭を撫でてやろうと思ったが義母さんが抱え込んで『いい子ですね~』と頬擦りを始めた。
その度に何故かポーラの表情が死んでいく。
ノイエといいポーラといい……義母さんの頬擦りには何かしらの呪いでもあるのか?
「だったら今回の3人が合格したらアルグスタのお屋敷で雇わない?」
「ウチは現状メイドさんが多いぐらいなので。何よりポーラという専属も居ますし」
「そうなの? お義母さん……ノイエの生活風景を知りたかったのに」
おい待て? 邪すぎる理由を口にしなかったか?
「普段のノイエは食べて寝てですよ」
「……そうなの?」
僕の言葉を信じてくれなかったのか、義母さんはポーラに確認を取る。
「そうです」
ウチの妹は出来た妹なので迷うことなく肯定した。
というか本当に普段のノイエは食っちゃ寝だ。
「あっ」
不意に待機していたメイドの1人が崩れ落ちるように芝の上に倒れた。
「油断が過ぎますね」
音も気配も発せずにやって来たのは、メイド服姿のミネルバさんだ。
僕らの話に耳を傾けすぎていたのか、その油断を試験者たちは突かれた様子だ。
手刀一発でまず1人を黙らせたメイドに対し、残りの2人が動く。
こちらの2人はまだ合格していないからかメイド服ではない。腰に吊るしている短剣を抜いてミネルバさんに襲い掛かる。
「対応が遅すぎます」
2人の攻撃を捌くミネルバさんが速すぎます。
何この人~。どこの漫画の世界の住人ですか~?
2人が繰り出してくる攻撃に対し、ミネルバさんは素手で対応する。相手の手首を叩いて攻撃を退けるのだ。
それも顔や視線すら向けずにやって見せる。
「せんぱいはすごいです」
「そうね~。ミネルバはスィークの愛弟子ですものね~」
活躍する先輩にポーラが若干元気になった。代わりに僕の気分が沈んだ。
あの人……きっと地獄を見てきたんだろうな。
あの叔母様の愛弟子って、拷問のような修行を課せられたに決まっている。
不憫だ。可哀そうすぎる。
パンパンパンと試験者たちの手首を叩いていたミネルバさんだが、倒れていたもう1人が起き上がると柔らかな薄い笑みを浮かべた。
「では3人の相手となったので、改めてアルグスタ様のお命を狙うこととします」
「おい待て。聞いてないぞ?」
『本日のお食事は……』的な感じでサラッと恐ろしいことを口走ったよ。この人は?
「はい。ハーフレン様からのご指示です。何でも『俺が忙しいのにのんびりして居るアイツが憎い。死なない程度に殺してやれ』とご命じになりました。ですので」
彼女の表情から笑みが消え、能面のような無表情になる。
「最後までお付き合いのほどを」
告げて彼女の掌底が見習の胸を打つ。
『かふっ』と声を上げて吹き飛ぶ少女を尻目に彼女は真っすぐこっちに迫る。
迎え撃つ2人は必死に短剣を振るうが、カウンターの掌底を食らって吹き飛ばされた。
「ちょまっ! 終わったから!」
椅子から転げ落ちそうになりながら、迫るメイドにそう告げる。
けれどミネルバさんは止まらず、ダンっと僕の数歩前で強く芝を踏み込み……そして後方に退避した。
「にいさまへのこうげきはゆるしません」
頭を抱え防御姿勢を取っていた僕はその声に顔を上げる。
目の前には銀色の棒が横切るように存在していた。
何よりその棒を持つのはポーラだった。
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