軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ポーラ様の勝ちにございます

義母さんの腕を離れたポーラが芝生の上に立つと、僕を守るように前へと進んだ。

「けいこくです。にいさまへのこうげきはゆるしません」

「ですがこれはハーフレン様からのご命令でして」

距離を取ったミネルバさんが恭しく頭を下げてくる。

叔母様を彷彿させる見事な煽りだ。

「ならせんぱいはいまからてきです」

「そうなりますね」

告げてミネルバさんが一歩踏み込んでくる。

もうはっきり言って格闘系の女キャラにしか見えない。

迎え撃つポーラは銀色の棒を振るい……まさかの三段突きだと? お兄ちゃん妹の成長にビックリというより驚愕なんですけど?

ただポーラの攻撃をミネルバさんは難なく回避する。

ポーラは棒を短く持って突きを繰り出し追撃する。

「無手の相手と侮らず、懐に飛び込まれないように最小の攻撃に徹するとは……本当にあの子には槍術の才能がありますね」

「おっと」

突然の声に、僕は驚き椅子からズレ落ちそうになる。

グッと肩を掴まれ強制的に椅子に戻され……恐る恐る顔を向けたら叔母様だった。

「来てたんですか?」

「最初から居りました」

「そうですか~」

まあ娯楽の少ないこの世界でこれほどのエンターテインメントは無いかもしれない。

叔母様は年末に格闘技の試合を見るタイプの人間だと思うしね。ウチの田舎だと見れなかったけど。

平和を愛する僕としてはお笑い番組を見て笑っていたいけど。まあウチの田舎だと見れないんだけど。

僕の肩から手を離し、叔母様が何やら顎の動きだけで指示を出す。

スッと現れたメイドさんたちが芝の上で伸びている試験者の3人を救助した。

「まだ色々と甘すぎます。どうもフレアは厳しさが足りません」

「あら? 妊婦さんに鍛錬を命じる方が悪いと私は思うんだけど?」

「そう言ってフレアを甘やかすからメイドの質が落ちるんです」

「は~い」

聞き分けの無い娘に説教をする母親の様子を見た気がする。

問題は両方とも良い年齢の女性だということだけど。

「アルグスタ。今不躾な視線を感じましたが?」

「……ウチの義妹に何させているかな?」

心の内を読まれたか? ならば我が奥義、話のすり替えを発動だ。

しばらく僕を睨んだ叔母様はその目を戦う2人に向ける。

防戦一方のポーラは肩で息をしていた。体力的に限界かもしれない。

「告げたはずです」

「何が?」

「今日は『メイドの試験』だと」

叔母様の言葉で理解した。理解はしたが、

「ここのメイドの試験だと聞いたんですが?」

「なら言葉の行き違いでしょう。ここで行うメイドの試験が若干変化したのかもしれませんね」

「……」

サラッと嘘を言う叔母様だな。絶対に故意でしょう?

たぶん義母さんが参加することでノイエが来ないと踏んで、代わりに僕がポーラを連れてくるとまで読んでいたに違いない。結果としてポーラは強制参加ということか。

「もうメイドの仕事とかけ離れてるじゃん」

「失礼な」

格闘技系漫画のような動きをしている2人から視線を外し、叔母様が心底驚いたと言いたげに僕を見る。

「主人の矢面に立ちその身を挺して守るのがメイドの役目です」

「そうだっけ?」

「そうですとも。ついでに襲撃者を駆逐し、挙句報復まで実行できる者こそ、このユニバンスで『メイド』と呼ばれるにふさわしい存在なのです。服を着て家事だけできる格好だけの家政婦とは根本から違うのです」

「……僕としては、ポーラにはそんな家政婦になって欲しかったです」

体力の限界か片膝をついたポーラの敗戦は確実だろう。

あれ? そうなると僕ってばどうなる? ポーラを焚きつける仕事は終わってるよね?

そうだと言ってよスィーク叔母さ~ん!

「……わかりました」

ポツッとポーラから声がしてきた。

一瞬上げた顔……その右目に嫌な物を見た気がする。

振るえる足で立ち上がった彼女は、大きく息を吐いてもう一度棒を構えた。

「まだ立ちますか」

試験官で解説者なのにラスボス感が半端ない叔母様が何故か不敵に笑う。

戦ってるのは貴女の弟子同士ですよね? 仮にこれでポーラが勝ってたら最終ステージに突入してたんですか?

「ミネルバ」

「はい先生」

「確実に仕留めなさい」

「畏まりました」

一礼するミネルバさんにも手加減の文字は無いらしい。

何この武闘派メイド育成場? スパルタが基本ベースなんですけど?

「せんぱい」

「はい」

ゆっくりとポーラが棒の先端を相手に向ける。

「よけてください」

「「「っ!」」」

衝撃が走った。

その一撃をミネルバさんが回避できたのはポーラの警告があったかだろう。

一瞬で冷たくなった空気に僕は腕を擦り……それでも視線を外せない。

ポーラの手には槍と呼ぶには禍々しい形状をした氷の塊が発生していた。

間違いなくポーラの祝福だ。

彼女の祝福は『氷結』

空気中の水分を氷とするものだ。

これから暑くなることを考えると手放せない能力だ。

けれどそれを彼女は武器にした。

どこから持ち出したのか謎な銀色の棒に纏わりつかせ、電柱ほどの巨大氷柱を作ってミネルバさんに向かいその鋭い先端を伸ばしたのだ。

無慈悲で凶悪な一撃を回避したミネルバさんも芝生の上に倒れて驚いている。

腕を組んで余裕を見せていた叔母様も氷の柱を見て驚いている。

『は~。凛々しいポーラが可愛いわ~』と悶えている義母さんはスルーだ。

だが一番驚いて居るのは氷の槍を作り出したポーラのようだ。

慌てて槍から手を離してポーラが芝の上に転がるミネルバさんの元に駆け寄った。

「だいじょうぶですか?」

「……ええ」

苦笑しながらミネルバさんはポーラの手を借りて立ち上がる。

「初めてポーラ様に負けてしまいましたね」

「いまのは……ひきわけです」

「いいえ。ポーラ様の勝ちにございます」

告げてミネルバさんはポーラの頭を撫でる。

「また私に勝てたら、こうして頭を撫でさせていただきます」

「はい。がんばります」

グッと両手を握りしめてポーラはやる気満々だ。

と、叔母様が僕の方に顔を向けてくる。

「アルグスタ」

「はい?」

スッと笑う叔母様が僕の前に来て、ポンと右肩に手を置いた。

「あの子をわたくしの養女としたいので譲ってはもらえませんか?」

「お断りします」

結果何故か僕が最終ステージに進むこととなった。

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