作品タイトル不明
また逢おうメイド長~
「アルグスタ」
「はい?」
叔母様が何か思い出したように声をかけて来た。
「アイルローゼは生きているのですか?」
「っ!」
反射的に叔母様から顔を背けてしまった。
いや待て。ここでなら大丈夫だ。大丈夫か?
「えっと……その件は全て陛下に一任してまして」
「そうですか。シュニット?」
「生きています。が、何処に居るのかを知るのは私たち3人のみです」
「そうですか」
理解を示し叔母様がそれ以上の追及をして来ない。
と言うかフレアさんをリストから外しているのはお兄様の優しさだろうな。
「なら今回の一件でアイルローゼの協力は取り付けられるのですね?」
「……どうなんだ? アルグスタ」
前言撤回して良いですかね? 僕に対しての優しさは無いのですか?
「その件で陛下に1つお願い……と言うか報告があります」
「どうかしたのか?」
一瞬お兄様がノイエの方へ目を向ける。
今の彼女はたぶんいつものノイエだ。
「アイルローゼは魔道具の製造を拒否しています」
「拒否だと?」
「と言うか、人殺しの道具作りを拒絶しています。理由は話した方が宜しいですか?」
「……グローディアの一件を知ったからか?」
頭の良い人って話が楽で良いわ~。
相手が勝手に落としどころを見つけてくれるしね。
「はい。彼女はあの一件を知り……王家への協力と言うより、人殺しの道具を作ることは拒否しました」
「仕方あるまいな」
深く頷き、陛下が慌てて顔を上げる。
「今回のグローディアの協力は?」
「はい。あくまで人助けであればということで協力はしてくれます」
「そうか」
安堵の息を吐いて陛下が緊張を解いた。
確かにアイルローゼの協力を得られなければ今回の作戦は破たんする。
「ですので陛下のご命令通り、転移魔法の方は必ず形にしてみせます」
「……そうか」
何処か苦そうな表情にも見えるが、陛下は無理やりという手段は使えないはずだ。
ノイエの中に居るアイルローゼは最悪そのまま逃げるという手段も取れる。
まあノイエの体を支配した先生は、ノイエのような超機動を使うことは出来ないらしいけどね。
「ならば今回の話し合いはこれで良いか?」
「……俺は終わりで良いと思うが?」
陛下と馬鹿兄貴が終わりの方向に傾いた。
流石ホリーお姉ちゃんだ。完璧だよ。
「ならアルグスタ?」
「はい?」
ニコリと笑い叔母様が僕を見る。
「ラインリアが逢って話しがしたいと申しております」
「そうですか」
やはりな。このフラグは避けられないかっ!
「申し訳ございません。グローディアのことはまだ詳しく話せませんので」
「……分かりました」
スッと立ち上がった叔母様が部屋の扉の前に立つ。
「ならこの部屋を出たければ、わたくしをどうにかして」
「ポーラ」
「はい」
迷わずポーラが窓を開けた。
「ノイエ」
「はい」
続けざまの僕の声に反応し、叔母様が姿を消したがノイエの速度はこの国で最も速い。
僕に手を伸ばしたのであろう叔母様が空ぶる様子をノイエに抱きかかえられて窓枠から見つめる。
「いずれ彼女を連れて挨拶に伺いますので……そうお義母様にお伝えください」
「アルグスタっ!」
ノイエがポーラを掴んでそのまま窓の外へと身を乗り出す。
あ~空が見える。自由落下で落ちて行くこの浮遊感が何とも言えずに漏らしそうになる。
「あはは~。また逢おうメイド長~」
気分は〇パンだな。とっつぁんから逃げる時ってこんな感じなのかな?
「逃がすとでも?」
「マジかっ!」
壁を走りメイド長がっ! この叔母様は化け物かっ!
「ノイエ」
「はい」
「くっ!」
トンッと城の外壁を蹴ってノイエが宙に舞う。
流石の叔母様も空へと飛ぶ手段がなく……あれ? あの叔母様が抱えているのはウチの可愛い妹では?
「ノイエさん?」
「重かった」
「だからってポーラを離しちゃダメ~!」
僕と逃げることを優先したらしいノイエが、ポーラを切り離して身軽になることを選んだらしい。
結果としてポーラは叔母様の手の中に!
「くっ! 今回は撤退だ!」
「はい」
逃亡を優先しとりあえず僕らは城から離れた。
遠ざかる2人の背を見つめスィークはため息を吐く。
ここで逃げ切られても明日また襲撃すればいいのだから……それを理解していても逃れたかったのだろうと察する。
ただスィークの中でノイエの評価が高まった。
迷わず足手まといを切り捨て護衛対象を抱えて逃れる姿勢は称賛に値する。
「それでお前はどうするのですか?」
「……」
先生である叔母に囚われたポーラは一瞬その視線を彷徨わせた。
「くっ……ころしなさいです」
「良い心がけです。が、まだ甘い」
顔を真っ赤にして言う弟子にスィークは冷ややかな目を向ける。
棒読みな言葉は誰かの入れ知恵だろう。余計な知識は余り与えて欲しくない物だと思う。
「お前はまだこの世の怖さを理解していません。死とは一瞬の苦痛なのです」
「いっしゅん?」
「ええ。ですからこの世には『拷問』と言うものが存在します」
「……」
圧倒されてポーラは言葉を失う。
少し脅しすぎたかと表情を柔らかくし、スィークは弟子を抱きかかえ直した。
「ではこれより拷問に耐える練習です」
「なに、を?」
スッと笑いスィークは告げる。
「あの2人に代わりラインリア様の元へ行きましょう」
「……」
必死に抵抗する弟子をまた抱え直し、スィークは歩きだした。
「ねえ~? 旦那ちゃ~ん?」
「何さ?」
「毎日~お城に~行くのに~逃げても~意味~ないよね~」
「……」
フワフワのノイエのツッコミは的を得ていた。
分かってます。問題の先延ばしだって言うことぐらいは。
ノイエに抱えられて帰宅した僕は、ベッドの上で頭を抱えている。
そもそもグローディアが悪い。僕にどうしろと?
義母さんがこのことを知れば逢いたがるのは予想通りだ。
で、どうせグローディアは逢いたがらない。
結果板挟みに遭う僕の身になって欲しい。
「どう~する~の~?」
「どうしたら良いと思う?」
「分から~ないね~」
フワフワしながらシュシュが遠ざかって行く。
「だったらホリーは?」
「魔力~切れで~倒れて~るね~」
あんの馬鹿姉め! 魔力が切れるまで外に出るな!
「ならば仕方ない。グローディアは?」
「奥で~アイルローゼと~話し~合いを~してる~ね~」
「呼んで来て! 引っ張って来て!」
「え~。面倒~臭い~から~嫌だ~」
「シュシュ?」
「ほ~い」
黄色かったノイエがいつもの色へ。
面倒になって逃げ出すとか……どうしてくれようか?
「アルグ様?」
「……ノイエ」
「はい」
ガシッと彼女を捕まえてノイエの顔を覗き込む。
何故か目を閉じて……ノイエさん。何を期待しているのですか?
「ちょっとお義母様の所に行って」
「いや」
「ノイエさん?」
「イヤ」
明確な拒絶だ。
ノイエは本格的に義母さんに苦手意識でも抱いたか?
気持ちは分かる。あの人の溺愛っぷりは……ノイエなら慣れてそうな気がするけど?
「どうして?」
「あの人……嫌」
「ノイエさん?」
「む~」
怒ったらしいノイエが僕の手を振り払ってベッドから逃げ出す。
専用の台の上に置かれた籠の中からリスを掴み出して頭の上に置いた。
「ノイエさん?」
「……」
ソファーに移動して座ったノイエは、リスを撫でて僕を無視する。
「お~い。ノイエ?」
「聞こえない」
両耳を塞いでノイエが僕に背を向ける。
ここまでの拒絶をするなら仕方ない。
「ノイエ」
「……」
「と言うかセシリーン。誰か屋敷に忍び込んだりできる人って居ないの? ねえ?」
僕の訴えにノイエが首を傾げる。
しばらく待ってみると……ノイエの髪が栗色になった。
「アルグ、スタ、様」
「ファシー」
「は、い」
出て来た元祖癒し系なファシーに駆け寄り抱きしめる。
「助けてファシー」
「は、い」
グッと拳を握ってファシーが頭上に手を伸ばす。
「この子に、行って、貰う」
「良し任せた」
「は、い」
両手でリスを抱いたファシーに託す!
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