軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

本当に肉にしてやろうか?

今回はお兄様に念を押されてしまったから仕方ない。静かにしよう。

その方針を再確認して、自分の執務室で書類仕事をする。

一応国軍を派兵するとトップの方では決まっていても、話し合いの場にそれを持ち出せば紛糾する。勢力争いと言う厄介な物が存在するからだ。

『どこどこの所を派遣しましょう』とか『何々の所は前回ミスをしていますから』とか、自分の息の掛かった将軍を派兵させて手柄を得ようと貴族たちは必死になる。

もちろん足の引っ張り合いもだ。

これのおかげで派兵までに何度も無駄な話し合いが開催される。

少なくとも今回は大将軍の代理だ。

あのオッサンは明日にも戻るので、最低でも明日まで参加すればお役御免だ。

嫌われ者の僕に出て欲しいと思う貴族は……大多数かな。上級貴族内だと本当に嫌われてるしな。

現状を鑑みて少しぐらいなら仕事を溜めても大丈夫だろうが、世の中何が起こるか分からないから処理できる仕事は片付けておくに限る。

鼻歌交じりでペンを動かしていた……フッと白い影が部屋に飛び込んで来た。

「ノイエ?」

「はい」

ノイエだった。

ドレスとワンピースを合体させたようなコリーさんの自信作を纏った彼女は、真っ直ぐ僕の元に来る。その背後を宝玉を転がしながら追いかけて来るリスの様子に自然と目を向け現実逃避しそうになった。

とてつもなく悪い予感がするんだよね。

「アルグ様」

「はい」

「行きたい」

「……何処に?」

僕の横に来たノイエはクルッと振り返り指をさす。方角は北西だね。

「あっちは現在戦争中でして」

「行きたい」

「だからノイエ?」

と、クルッとこっちを向き直したノイエが僕の顔を覗き込む。

「我が儘」

「はい?」

「我が儘ダメ?」

「ダメじゃないけど?」

それはつまりノイエが僕を頼ってくれると言うことだ。

大好きで愛しているノイエに頼られることを拒否するとか、僕の辞書ではあり得ない。

仮に載っていたら間違いだ。急いで修正して版を改める。

「なら我が儘」

「……」

「行きたい」

「……うむ」

これはノイエのおねだりと言うことか。

だが突然どうしてノイエがそんなおねだりを?

「ダメ?」

「……ダメじゃない」

理由なんてどうでも良いか。

ノイエが欲しているのならそれをどうにかするのが僕の使命だ。

「良し。行こう」

「はい」

嬉しそうにアホ毛を揺らしてノイエが僕の首に抱き付いて来る。

我が儘を聞いて叶えるだけでこれほど愛されるのなら安い物だな。

「あの~アルグスタ様?」

「何かなクレア君?」

夫婦の仲睦まじい状況に水を差すな。

「さっき陛下に念押しされたとか言ってませんでしたか?」

「言ったか?」

「言いました!」

何故かクレアが憤慨して机を叩いたよ。あの日か?

「また騒ぎを起こすんですかっ!」

「違うよクレア。よく聞きなさい」

クレアは認識違いをしている。これはちゃんと伝えて正さなければ。

「僕が騒ぎを起こしてるんじゃなくて、周りが勝手に騒ぎにするのです。しいて言えば僕も困っているのです」

「って! 物凄い自己弁論ですね! アルグスタ様が何もしなければ騒ぎにならないってことじゃないですか!」

「ああ。クレアもすっかり周り毒気に騙されて」

「毒は貴方の行動です!」

バンバンと机を叩くな。

ストレス発散か? 夫婦仲が悪いのか?

「暴れるな人妻。欲求不満は旦那に向けなさい」

「むがぁ~! イネルとはちゃんとしてるから! 昨日も愛し合ったから!」

「おいおい人妻? 良くもそんな言葉を恥ずかしげもなく」

ちょこんと開いた壁の向こうから顔を覗かせたチビ姫が、泣きそうな顔をして壁を閉じたぞ?

まあ国王夫妻は……頑張っても子供とか出来ないしな。出来なくても行為は出来るのか?

余り知りたく無いな。ビジュアル的に……うん。知らないでおこう。

「これ以上周りに敵を作ってどうするんですかっ! また暗殺者が束になって来ますよ!」

それは若干困るな。うん。

「でも仕方ない」

「何でっ!」

吠えるなよ。

「愛して止まないノイエが『行きたい』って僕に我が儘を言うんだ。その妻の願いを叶えようとするのは夫として当然じゃないのかな?」

「……ズルいですよ」

ストンと椅子に座りクレアが頭を抱える。

「あはは。大丈夫だってクレア」

「何がですか?」

「こう見えて僕には少なからず仲間が居るからね」

そう。今まで頑張って来た実績と言うものが僕にはあるのだ。

「圧倒的不利な戦いになったりしないさ」

何より自治領に居る人たちはユニバンス王国の国民だ。

国民を守るのは王族としての務めだと……僕はそう思う訳です。

「今日の話し合いで賛成を得て、ノイエと2人で帝国軍を追い返してやるさ」

「決の結果……48対13でドラグナイト卿の提案を却下する」

あれ~? 何か圧倒的大差で却下されたんですけど?

こっちに味方してくれたのってイールアムさんのハルムント家とか、ココノさんのミルンヒッツァ家とか、父親の代理で参加しているイネル君のヒューグラム家とか……後は北西部に近い領地を持つ人たちと、穏健派と呼ばれる人たちが国民保護の観点からこっちに回ってくれた。

だが圧倒的に大差である。大差での負けである。何故だ!

陛下支持を宣言しているクロストパージュ家を中心とした東部の貴族の大半が敵に回ったからだ。何より僕の支持基盤は、投票権を持たない中級貴族や下級貴族に多いからとも言う。

とんだ盲点だったよ。

「お待ちください陛下」

「何だ?」

食い下がる僕にお兄様が『またか?』と言いたげな目を向けて来る。

気持ちは分かるが僕は引くに引けないんだよ!

「この様な国家の一大事を上級貴族だけで決めてしまうのは良くないかと。出来れば全ての貴族からの」

「そのような時間などありませんぞ!」

僕の声を遮りどこぞの貴族が立ち上がる。

「国家の一大事。事実でしょう。ですから選ばれし上級貴族が国の方向性を定める。それは昔から続くことなのです。まだ年若きドラグナイト卿はご理解していないご様子ですが」

たぶんあのオッサンは貴族至上主義な人なんだろうな。消えて居なくなれば良いのに。

「ですが兵を派兵したぐらいで帝国のドラゴンを打ち破ることは出来ません。敵の出鼻を挫く為にもドラゴンスレイヤーである我が夫婦が出向き」

「してその間、誰が王都を守るのかね?」

あっちから別の貴族が。

「……遊撃隊と所属しているモミジ・サツキを中心とし、王国軍や近衛と一緒に」

「その国軍から2,000も兵を派兵するという話をしているのだ。手薄になる王都の護りを厚くするのは当然であろう」

こっちからも別の貴族が……四方から非難の声が響いて来る。

何を言ってもこの馬鹿共は自分たちの身を護りたいだけなんだ。

そもそもノイエが居なかった頃は、全員でドラゴン退治に汗水垂らしていたはずなのに!

……あの頃に比べるとドラゴンの出没件数は圧倒的な増加の一途だけど。

「自治領は我が国の領土でしょう? 自国民を護らない国など国民から見放されます!」

支持を得られないならこの一点で突破するしかない。

何だかんだで陛下だってその点は憂慮していた。ならば良心の訴える。

支配者たる者の使命……国民を愛し愛される行いをする。この一点に。

「自国民と言っても自治領は先日まで帝国領であった場所であろう?」

「ですが移民を募りこの王都からも」

「ごく少数だ。最低限の被害だよ」

ちょっと待て……今なんて言った? あの馬鹿は? ふざけるなよ?

バンッと机を叩く僕を見て顔を蒼くする小太りの馬鹿は、どうにか踏ん張って『間違っていないだろう?』と言いたげな顔を向けて来る。

なんだその総意だと言いたげな顔は? ふざけるなよ?

ゆっくりと立ち上がろうとする僕の肩に、珍しく自ら進んで参加したノイエが静かに手を置いた。

「ダメ」

「……ノイエ?」

「怒るのはダメ」

「……」

胸の中のモヤモヤを大きく吐き出し、座り直してグッと我慢する。

こんな思いをしてまで正直貴族なんてしてたくない。

さっさとノイエたちと一緒に田舎にでも引っ込んで晴耕雨読な生活でもしたいよ。

けど……今はまだ出来ない。それぐらいのことは分かってる。

最終手段……強行突破で勝手に行くしかないのかな。

そっちの方が問題になる。確実に。

評価されまくっている祝福のおかげで物理的に首は飛ばないだろうけど、下手したら幽閉生活決定かな? どこかに亡命するか?

変態の巣窟っぽいけど、モミジさんの実家なら日本的な感じがするから悪く無いな。

「アルグ様」

この国には大切な人が多いから出来もしない妄想を思い浮かべている僕をノイエの声が現実に引き戻してくれた。

分かってます。幽閉されそうになっても最後は強行突破するしかないんだ。

「で、何?」

「リスさん」

彼女が見ている方に目を向ける。

リスが宝玉を転がして……会議場から避難して行った。

あのリス……本当に肉にしてやろうか?

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