軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

わたしはにいさまがだいすきです

「呼び出したのは他でもない。言っておくことがある。アルグスタよ」

「はい」

「今回の一件で基本質問以外のことで口を挟むな」

本日も引き続き自治領への派兵に関する話し合いをする。

その話し合いの前に陛下に呼び出された僕は……予想通り言葉を得た。

「ですが現状大将軍の代理と言う立場なので、そんな自分が沈黙しているのは良くないかと?」

「分かっている。だが今回は国軍2,000の派兵のみとする方向で決定している」

決定らしい。これが出来レースと言うものなのかな?

「ドラゴンスレイヤーの派兵は?」

「……出来ん」

深く深く息を吐いて陛下は頭を振る。

「最良の手はお前を派兵することだろう。だがそれは出来ない。王族であるお前が前線に赴けば話が大きくなる。帝国とてそれに見合う人物を派遣し……今以上に本腰を入れるだろうな」

何となく分かる。

そうなればこっちも大将軍を派遣し、最後は陛下自らとなってしまう。

『対帝国同盟』とかを模索している諸国が大喜びするだろうな。

時期が悪いと言うか、間が悪いと言うのか。

「緩衝地帯である自治領を見捨てでも時間を稼ぎたいと?」

「そう言うことだ。そうすれば広大な領土を持つ帝国は周りからの侵攻を得て退却する」

それが事前の話し合いで言われていたことだ。

でもあくまでそれはこちらの都合の良い希望でしかない。

「仮に退却しなければ?」

「……その時はブシャール砦で迎え撃つまでのことだ」

「そうですか」

ここまではホリーの知恵を借りるまでもなく僕が考えた通りだ。

自治領は元々そういう扱いでユニバンスに組み込んだ場所でもある。

『失っても大して痛くない』とか貴族たちが声を上げたのだろうな。

少なくともユニバンスから夢と希望を求めた移民が移り住んでいる場所なのにだ。

「ならノイエの派兵は?」

「……出来ない」

「何故?」

「言わずとも分かろう?」

苦々しい表情で陛下が僕を見る。

「現在のノイエはドラゴンスレイヤーと言うだけの価値では収まらない。この国の重要度で言えば国王より上だ」

「大袈裟な」

「事実だ」

力を抜いて陛下は背もたれに背中を預ける。

「お前とノイエの価値は計り知れない。王の代わりは幾らでも準備できてもお前たちの代わりは居ない。それが全てだ」

「だから色々と理由を作り、僕らを王都に閉じ込めると?」

「……分かっている」

目を閉じて陛下は静かに息を吐いた。

「自治領はユニバンスの領土だ。それを見捨てる行為を強いる国王など、国王失格だともな」

「でしたら」

「だがお前たちを自治領に向かわせようとすれば大半の貴族が騒ぐ。自治領を守るためにこの国で内乱を起こすことは出来ないのだ」

「……そうですね」

姿勢を正し、陛下は改めて僕を見た。

「済まん。不甲斐ない王で」

「いいえ。自分もやり過ぎていることを自覚してますので」

そう仕方ない。

「何より自治領は日帰りできる距離でも無いですしね」

「そうだな」

日帰りできる距離であっても馬鹿な貴族たちは騒ぐだろうけどね。

そっと窓際に立ちノイエは外を見る。

空を覆っていた雲は薄くなり、時折隙間から青空も見える。

気温も少しずつ上がり……もう何日かすれば若い個体が動き出すかもしれない。

それを理解していてもノイエの目は北西の方角から動かない。

ざわざわする。胸の中で何かが這いまわるような感じだ。

「胸が痒い」

「あら? まだ成長しているの?」

「ん?」

振り返ればカートを押す小さな妹が居た。

その目に金色の模様が見えるが……ノイエとしては良く分からないから気にしない。

「それとも胸騒ぎかしら?」

「胸騒ぎ?」

「ええそうよ」

押して来たカートの上に乗っている焼き菓子を1つ抓んで妹が笑う。

「今あっちではドラゴンが暴れている」

「ドラゴンが?」

「ええ。人を襲って食らっているのよ」

「……」

ギュッとノイエはその手を握り締めた。

脳裏に浮かぶのは……みんなが倒れていた場面だ。

あれがあっちで起きている。

「行きたいなら貴女の旦那様にお願いしなさい」

「アルグ様に?」

「ええそうよ」

クスクス笑うと妹はパリッとお菓子を齧る。

「あの人は貴女の我が儘を聞くのが楽しみで仕方ない真正の変態だから……だから我が儘を言って喜ばせてあげれば良いの」

「喜ぶ?」

「ええそうよ」

ピョンとベッドに飛び乗り妹は笑う。

「彼を喜ばせたいなら貴女は我が儘を言えば良いの。そうしたらきっと凄いご褒美をくれるわよ」

「ご褒美?」

「そうね……一晩中赤ちゃん作りに協力してくれるとか?」

「分かった」

スタスタと歩いて部屋を出て行くノイエの後を、リスが器用に宝玉を転がし追いかけて行く。

見送った妹……ポーラはその右目から模様を消した。

「ししょう」

『何かしら?』

「どうしてあんなうそを?」

少女の問いに、彼女の右目に住まう魔女は笑う。

『あながち嘘じゃ無いわよ。あの変態はお嫁さんの我が儘に興奮する性癖を持っているし』

「にいさまはそんなひとじゃないです」

プリプリと怒る少女に、魔女はコロコロと声を上げて笑う。

『今は貴女が子供だから紳士的に振る舞っているのよ。もう何年かしたら一緒に寝てもくれなくなるから』

「ちがいます。にいさまはねてくれます」

『無理よ。何よりきっと欲情して襲いかかって来るわよ? 姉様が普段されているようなことをされちゃうんだから』

「……それは」

顔を真っ赤にしてポーラは軽く俯く。

「うれしいです」

『そう言えば貴女もあれが好きだっていう奇特な人間だったわね』

「はい。すきです」

顔を上げてポーラは窓越しに映る自分の右目を見つめる。

「わたしはにいさまがだいすきです」

『あらら……。義理の兄妹の禁断の恋愛とか、本当に興奮するネタを提供してくれるわね』

「ネタ?」

『そうよ。良いわ……なら私が貴女を一人前の女性に育て、兄様にあられもないようなことをして貰えるように教育してあげるわ』

「はい。ししょう!」

『まずは魔法の練習から』

「はい」

独り部屋に残ったポーラは魔法の練習を始める。

普段は大人しく可愛らしいと呼ばれているポーラであるが、慕っている『兄』が絡むと暴走するのだ。

故に彼女は魔女の掌で踊り続けることになる。

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