軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

さて話はそれぐらいで……

「私も一応魔法学院の生徒だったから普通の魔法使いより色々と基本は学んでいるし、色んな人を見て来たけど……これは絶対に危ないと思う。具体的に言うと、アイルローゼの視線が氷のように冷たくなって旦那君の体を物理的に貫く感じかな?」

我が作品を見た黄色いフワフワことシュシュが、フワフワを止めて真顔でそんなことを言って来た。

分かっている。自分が現在大ピンチなのは死ぬほど分かっている。

「にいさま?」

「ポーラは悪くない! 断じて悪くない!」

「……」

義妹が自分の作品を手にしょんぼりしてしまった。

これはお兄ちゃんとして失格である。つまり全て僕が悪い。悪いのだけど……。

「シュシュ様っ! どうか僕を救うと思って助けて下さいっ!」

「無理だよ~」

早々に諦めたのかシュシュがフワフワしだした。

やらせはせん!

「邪魔をしないで欲しいんだけどな?」

「揺れたかったらこの状況をどうにかする手段を!」

「だから無理だよ?」

抱き付いて無理やり揺れるのを止めたら、シュシュが顔を真っ赤にしてため息を吐いた。

「アイルローゼは基本……基礎をすごく大事にするから。基礎が出来ていない人に応用は無理。基礎こそすべてと言ってたね」

「ならばあっと言う間に基礎を身に着ける方法を!」

「無いよ。基礎は日々の積み重ねだしね~」

諦めろと言わんその態度が腹立たしい。

こうなったら全力で揺れるのを邪魔してやるっ!

「もう……しつこいな」

軽く睨まれたら全身を金色の帯で封じられた。

これだから封印魔法の使い手は厄介だぜ!

「すごいです」

「こんな~のは~初歩~だよ~」

フワフワしだしたシュシュが軽い足取りで僕から遠ざかる。

シュシュの封印魔法を見たポーラは感心した様子で金色の帯を指先で突いている。

と言うか助けようね? 我が可愛い義妹よ。

「それに~もうね~手遅れ~だしね~」

「……手遅れだと?」

「アイルローゼは~さっきから~この目で~ずっと~見ている~のだ~」

両手で目を指さしてシュシュが可愛らしく腰を振る。

なるほど確かに手遅れだ。

「シュシュ!」

「何だ~なのだ~?」

「アイルローゼと入れ替わらないで!」

「無理~」

「何でも言うことを聞くから!」

終わる。

アイルローゼとシュシュが入れ替わったら、彼女の地獄のような折檻が僕の身に叩きこまれる。

確かに悪いのは僕だ。先生が課した日々の魔法語書き取りをサボって来た。

結果地道に努力し続けるポーラに対し圧倒的な大差で負けた。ポーラが天才過ぎるのだ。お兄ちゃんとしては嬉しい敗戦だ。

だが先生は僕の忙し過ぎた日々を理解してくれない。

『寝ずにやりなさい』とか言うに決まっている!

けれど思い出して欲しい。僕が日々、自分の時間が取れない理由を!

ノイエとその家族の愛情が深すぎるんや。もう最近の睡眠は睡眠じゃなくて気絶だよ?

甘えん坊のポーラですら『こんやはおへやにいってもへいきですか?』とかこっちに伺いを立てるようになるくらいの頻度なんだよ? いい加減に死ぬわ!

「お願いします! シュシュ様っ!」

「ん~」

フワフワしている彼女がピタッと足を止めた。

「なら私もお嫁さんにしてくれる?」

「する!」

「ふぇ?」

こっちの即答に質問した方が慌てるとか。

だが大丈夫。ノイエの許可は得ている。

『ノイエの家族が僕と結婚したがってるんだよね』『平気』『良いの?』『はい』『本当に?』『はい』

仮に結婚しても書類の類は残せない。死者と結婚する法などこの国には無い。口約束だけになってしまうが結婚した相手がそれを望むのであれば構わない。

「さあシュシュよ。結婚してやるからアイルローゼとの入れ替わりを全力で阻止して!」

「えっあっうん」

コクコクとシュシュが可愛らしく頷いて見せる。ポーラも顔を真っ赤にして両手で見てはいけない物から顔を隠そうとしている。案ずるなポーラ。これは浮気じゃない。相手の体はノイエだしね。

「でも旦那君」

「何さ?」

「一つ忘れてない?」

「何うおっ!」

ワシッと背後から頭を掴まれた。

恐る恐る振り返れば……そこには絶世の美女でありお胸だけが残念な魔女が居た。

「宝玉があるからそっちを使われれば封じようが無いんだよね」

忘れとったわ!

ミシミシと掴まれた頭が悲鳴を上げるんですけど? まさか魔法を使って頭を潰しに来てますか?

「でも~旦那ちゃんの~お嫁さんか~。すごく~嬉しい~かも~」

「良かったわねシュシュ」

「うん」

本当に嬉しそうなシュシュを尻目に先生の声がとっても冷ややかです。

「なら私が特別にシュシュ普通に贈り物をあげるわ」

「何々?」

「未亡人って肩書はどうかしら?」

「のごぉ~! 頭がバキッて言った!」

本気で殺しに来る先生の様子が尋常では無いと察したシュシュとポーラによってどうにか僕は救い出された。

「で?」

「「「……」」」

椅子に腰かける術式の魔女に対し僕ら3人は床に正座だ。

僕。元に戻ったノイエ。ポーラの順で並んでいる。

「私は言ったわよね? 基礎ほど大切な物は無いと?」

「仰りました」

「それなのに前より酷くなっている理由は?」

「……」

忙しかったんです。本当に色々とあり過ぎて。

こんな時はノイエの『お姉ちゃん』攻撃を期待していたのに、シュシュが抜けて元に戻った彼女は借りてきた猫のように静かだ。とても静かだ。

「なに? 不満そうな顔をして?」

「えっと……いつもののノイエなら先生に抱き付いているかと思って」

「ノイエを何だと思っているの? この子は頭の良い子だから時と場合を考えるわ」

つまり抱き付いちゃダメな時を判断できると?

そんな計算高いノイエは何か嫌だ。迷わず行こうよ? 僕の為に。

「それでどうする気?」

「……」

深々と頭を下げる。

「今後は誠心誠意努力していきたいと思います」

「言葉でなら何とでも言えるわね?」

気づかれたかっ!

「ノイエ」

「はい」

「彼がこの書き取りをやらなかったらその日は一緒に寝ちゃダメよ。良いわね?」

「……はい」

苦渋と言うかノイエの心が泣き叫ぶ声を聴いた気がする。

チラリと視線を向ければ涙を浮かべたノイエがこっちを見ていた。アホ毛がお怒りになって居る。

「さて話はそれぐらいで……ノイエ」

「はい」

「こっち来なさい」

「はい」

正座したまま移動すると器用さを披露しノイエが先生の足元に。

手を伸ばしてウチのお嫁さんを撫でる彼女は何処の独裁者でしょうか?

「かっこいいです」

「……」

横に移動して来たポーラが興奮気味でそんなことを言う。

まあ先生は美人さんだから何をしても絵になるんだけどね。

何よりノイエが嬉しそうだから良いや。さっきの怒りを忘れてくれれば嬉しいな。

そんな訳もなくノイエは僕に紙とペンを押し付けて来るようになった。

早朝……馬乗りになってて、起きた僕の顔に押し付けて来るのだ。

新しいモーニングルーティンが完成した。

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