軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

追憶 グローディア ②

新年の祝い。

それは古き年に感謝し、新しい年を喜んで迎える儀式だ。

神聖であり不変である。

支配者は儀式の支度に目を回し、下々の者は騒げる理由を得て浮かれる。

それがいつものことだ。毎年変わらずに訪れるはずの日々だった。

その日だって何も変わらずに。

前日に城へと入ったグローディアの姿に、儀式を進める城の者たちは目を剥いて驚いた。

引きこもりの美姫と名高い彼女は、公式行事になど基本参加しない。

市中に流れる噂では『王女グロ―ディアはお家騒動を恐れる王家の手により自宅に監禁されている』と言われている。

事実の彼女はどれほど国王ウイルモットが躍起になって呼び出しても、自室に鍵をかけて出て来ないのだ。

故に国王も彼女を呼び出すことを諦めている。

グロ―ディアは迷うことなく城の中を歩く。

赤と黒を基準としたドレスを身に纏い、長い髪も黒い花形の飾りで束ねてだ。

「王女様」

「何かしら?」

呼び止められて足を止めたグロ―ディアは、跪く相手に目を向ける。

国王陛下の護衛隊長であるルルスと言う老騎士であった。

「陛下がお呼びです」

「……分かったわ」

軽く頭を振りグローディアは行き先を変えた。

当初は城内に存在する"自室"へと向かう予定であったが、どうやらそうは上手く事は進まないらしい。

自身の後ろに控える専属のメイドを先に自室へと向かわせ、グローディアは老騎士の案内を受けて国王ウイルモットの元へと急いだ。

「久しいなグローディアよ」

「お久しぶりにございます。陛下」

スカートの裾を手にグローディアは国王に一礼をする。

儀式に向けての準備中であったが、ウイルモットはその手を止めて彼女を茶の席へと誘った。

「してグローディアよ」

「はい陛下」

「何故今日姿を現した?」

「気紛れにございます」

「自分でそれを言うか?」

「ええ」

クスリと笑いグローディアはティーカップに手を伸ばした。

何より国王が自分を呼んだ理由など理解していた。

だから一度紅茶で口を潤しグローディアは言葉を発した。

「私は新年を迎えれば成人となります。つまり自分の人生を決める必要が生じます」

「そうであるな」

「このまま王家の1人として残るか、陛下の都合の良い相手に嫁ぐか?」

ティーカップを手にした国王は何処か楽し気にグローディアを見た。

「相手は誰と思う?」

「第三王子アルグスタ様でしょうか?」

即答だった。

引きこもりの姫や魔法に取り付かれた姫と呼ばれる彼女であるが、その才能は折り紙付きだ。

魔法の使い手でありこれだけの才があるのだ。本当に彼女が男性であれば王位継承権で揉めることとなったであろう。

「自分の倍ほど幼い者に嫁ぐことに不満は?」

「あります。そもそも嫁ぎたくありませんから」

本当に迷いがない。

自身の立場を理解しているのかいないのか……彼女の言葉はどこか捨て鉢だ。

自分などいつ死んでも良いと思っている節があるのか、言葉や手紙などからその様子が見て取れるのだ。

「ならば主は一生1人で過ごす気であるか?」

「それも悪くは無いです。ですが私とて王家の末席に身を置く者……陛下がアルグスタ様との婚姻を望み、そして彼を見張れと言うのであれば私はその任を受けましょう」

「そうか」

苦笑しウイルモットは心の中で舌を巻く。

2人の息子よりも恐ろしき存在が目の前に居るのだ。それが腹違いの王子と一緒になってこの王都にでも暮らすこととなると思うと……我が息子ながらに同情を禁じ得ない。

スッと椅子を引いてグローディアは立ち上がり、その顔を国王へと向けた。

「ご用件は以上でしょうか?」

「主が成人となる前に確認したかったことはこれぐらいか。ただもう1つ問いたい」

「何でしょうか?」

「今日は何しに城へと来た?」

自分を警戒しているのか、それともずっと籠っていた自分に対する当てつけか……判断に悩みながらもグローディアは軽く笑ってみせた。

「気紛れと申しましたが?」

「本当か?」

「ええ」

クスリと笑いグローディアは国王に背を向けた。

「勿論この返事も気紛れにございます」

静かに歩き立ち去る王女に……ウイルモットは渋い表情を浮かべメイドに紅茶のお替りを求めた。

新年の儀式は無事に終わった。

目立たぬように終始端に立ち気配を消し続けたグローディアは、式典用のドレスを脱いで自室へと戻る。

室内用の私服へと着替え、メイドに椅子を運ばせ窓際の場所で腰を落ち着けた。

ソーサーを手に逆の手でティーカップを持って街の様子を見つめる。

新年を迎え華やいでいる街は、戦時中ということを忘れて浮かれている。否、忘れたくて浮かれていることが手に取るように解るのだ。

息を吐いてグローディアはそっと窓に寄りかかる。

自分は何をしているのか?

考えれば嫌になる。伯母の幸せを望んで必死に頑張って来た。

でも本当に望んだ物は何だったのだろうか?

伯母の幸せを望み……ずっと自分を誤魔化していた。

望んでいたのは自分の幸せだ。それが事実なのだ。

《でももう引き返せない》

覚悟は何度も決めたはずだ。

それなのに何度も揺らぐのは覚悟が決まっていなかったのだ。

どこかで奇跡を願っていた。何度も何度も願っていた。

でも奇跡など願っても起きない。だから自分の手を伸ばし、必死にもがいて手繰り寄せる。

その代償に自分が何を支払うのかなど分からない。

異世界魔法……それも異世界召喚ほど危険を孕む物は無いのだから。

《でもするのよ。決めたのだから》

はぁっと窓ガラスに息を吐いて、グローディアは窓越しの世界を白く染めるのだった。

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