軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

屈折~した~愛情~だね~

本当につまらない。自分はどうして生きているのだろうか?

毎日同じようなことを繰り返す生活には飽き飽きしている。

変化を求めて動けば空回りをして悪者になる。

《俺はそもそも才能がないんだよ》

ゴロリと横になって彼は今日も変わらず目を閉じる。

魔法学院に居た頃はそれなりに頼られた。自分の研究が評価されたのだ。

けれどあの日を迎え……全てが狂った。

憧れていた。そう憧れた。

生まれ持った底無しの才能。天が遣わしたその美貌。

自分には不釣り合いだと分かっていたけれど何か言わないと一生後悔すると思った。

結果、告白の言葉となって口を出た物は……刃となって帰って来た。

自滅して学院内で辱めを受けることになった。だから俺は研究に逃げた。

必死に学び必死に研究を重ね……それでも先の見えない道筋に明かりを照らしたのはあの天才だった。ただその光は俺の目には眩し過ぎた。

異国の失われた魔法を元に開発された魔法式が発表され、俺はそれを見て絶望した。

自分が出来ないことをあの天才はあっさりとやってのける。

次から次へと奇跡のような行いをし続け、遂には魔女の称号まで得た。

遠すぎる存在だった。霞んで見えもしない存在だった。

けれど彼女は不名誉を得て学院から消え失せた。

『禁忌の魔法を作り出した』

彼女ならあっさりと出来るだろう。

禁忌と言うより彼女なら不可能と思われる魔法ですら作り出せるはずだ。

けれど俺は目標を失った。

勝てない。追いつけないと分かっていても彼女の背を追っていた。

どんなに遠く届かなくても……その背を必死に追ったんだ。

目標を失った俺が転がり落ちるなんて簡単だった。

世間的に『あの日』と呼ばれる日だって俺からすればただの1日の出来事だ。

狂って魔法を使った。

魔力を介する魔法を扱う俺は、相手の魔力を暴発させることなんて簡単だ。だから魔力を武器にする。相手の魔力を凶器にして人を殺して回った。

それで処刑されて終わりのはずだったのに。

「ノイエ?」

「はい」

「呼ばれたら返事をするぐらいなら最初から隠れないの。良い?」

近くから聞こえた声に彼は目を覚ました。

頭に枝を刺し茂みの中から顔を出したのは、この施設に居る最年少の少女だ。

ひょこひょこと頭の枝を動かす少女と目を合わせた彼は、呆れたように息を吐いた。

「邪魔だ。どっか行け」

「……」

茂みの中から姿を出し、トコトコと歩いて行ったその背を見送り彼はまた目を閉じようとして、

「いてっ!」

背中を蹴られて完全に目が覚めた。

「何しやがるっ!」

体を起こして蹴ったであろう相手を見た彼は凍り付いた。

胸の前で腕を組んで女性の背後には先の少女が張り付きこちらを見ていた。若干涙目でだ。

それを意味することは、少女の過保護すぎる保護者の1人の逆鱗に触れたということを意味する。

「どうやら死にたいらしいわね? シューグリット」

「……アイルローゼ」

凶悪な気配を発する魔女に彼は全身に冷や汗を浮かべる。

怒らせて勝てる相手などでは無い。

バキバキと指を鳴らし迫る化け物を前にして……彼は最も確実な戦法を選ぶ。

全力で逃げ出した。後ろを振り返ることもせずただ必死にだ。

その背に対して左手を向けたアイルローゼだが、ギュッとノイエが腰に抱き付いて来たので魔法を使う振り止めた。

「全く。あの馬鹿は」

「……ばか?」

「そうよ」

振り上げていた手をノイエの頭に乗せ、術式の魔女は深く息を吐く。

「才能はあるのに自分で蓋をしてしまった大馬鹿者よ」

優しく少女の頭を撫でてやる。

「だからあそこでもここでも燻っているのよ。馬鹿だから」

ノイエに微笑みかけアイルローゼは、とりあえずつまみ食いをして逃亡していた少女を確保した。

「最近ノイエの成長が著しいね」

横合いから覗き込んだレニーラは、目をグルグル回している少女の様子を確認した。

ロープで椅子に固定されノイエは、与えられた課題を延々と続けている。

『みんなして甘やかすからあの子の才能が伸びないのよ』と言った魔女により、ノイエは何かミスをするとこうやって文字を書き続けるのだ。

「ノイエ。あと何枚?」

「いっぱい」

「そっか~」

同情するが手を貸せない。

怖い魔女が読書しながらこちらの様子を伺っているのだ。

仮にノイエの手助けでもしようなら……考えるだけで恐ろしい。

レニーラとしては出来るだけ関わりたくない相手の1人がアイルローゼなのだ。

魔力封じの首輪をしていても魔法を使う彼女を止められる人間などこの場所には居ない。

監視たちもアイルローゼが逆らうことなく従っているから魔法の件は目をつぶっているようにも見える。もしかしたら自分の知らない弱みをあの魔女が握られている……一瞬想像したレニーラだが首を振った。

傍若無人を絵に描いた魔女の弱みなど想像も出来ないからだ。

「お姉ちゃん」

「何かな?」

「たすけて……」

延々と文字を書き簡単な計算をさせられ続けているノイエは燃え尽きて見える。

可哀想だ。この子は自由に羽ばたいてこその存在だ。

だがレニーラとて怖い物は存在する。あの魔女は容赦がない。

頭の中でノイエと恐怖を天秤にかけ……舞姫はうんうんと頷いた。

「可愛い弟子を愛して何が悪いかとっ!」

ノイエを拘束してロープを外そうとしたレニーラは、頭上から圧し掛かって来た空気の塊によって地面へと張り付くこととなる。

日々そんな地面に伏せる姉たちを多数製造するアイルローゼであるが、何だかんだでノイエの課題が終わるまで決して傍から離れずずっとその様子を監視し続ける。

『屈折~した~愛情~だね~』と通りがかったシュシュの言葉にイラッとして彼女も地面に張り付かせた。

お陰でノイエの知識は大幅に改善されたが……書類を怖がるようになったのはある種の事故である。

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