軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お姫様を呼んで来るっ!

「お姉ちゃんっ」

「あらノイエ。久しぶりね」

抱き付いて来て甘える少女をセシリーンは優しく抱き締める。

毎日自由に駆けまわっている少女は、草木や太陽の匂いがする。

「それでお姫様。今日はどのようなご用で?」

「ええ。ノイエに歌を教えて欲しいの」

「……」

目を閉じて微笑んでいるように見えるセシリーンの表情が少し強張った。

「別に貴女に歌って欲しいとは言わないわ。代わりと言うには語弊があるけど、ノイエの為に歌を教えて欲しいのよ」

「この子の為?」

そっと抱きしめているノイエが甘えん坊な面を見せてセシリーンの胸に頬を擦り付けて来る。

ノイエは抱きしめているだけでも母性をくすぐる天性の甘えん坊なのだ。

「貴女は特別な力があるとかで日々の鍛錬を免除されている。ノイエはまだ鍛錬の意味を理解していないからと言い訳をして私たちが守っている。

けれどそれが許されない環境になったら?

貴女は罪を犯して処刑された身だから良いでしょうけどノイエは違う。この子は過ちを犯していない」

「そうね」

ノイエはこの場に似つかわしくない存在なのだ。

誰よりも優しくて、誰よりも元気で、誰よりも明るい。本当にいい子なのだ。

「私はノイエを救う為ならどんな汚名だって被る覚悟がある。だからその子の為に歌を教えなさい」

「……でも私はもう歌えない」

「ええ。知ってるわ」

セシリーンの必死の叫びをグローディアは一刀で切り裂いた。

「歌えないから教えられない?」

「……」

ジロリと見つめて来る相手にセシリーンは返答に困った。

そんなことはない。教えることは出来る。

「答えは出たかしら?」

「……」

ギュッとノイエを抱きしめると甘えん坊の少女が顔を上げる。

「お姉ちゃん苦しいの?」

「平気よ」

「本当に?」

「ええ」

姉と呼ばれる以上セシリーンとしては弱音を言いたくない。

「分かったわ。私がこの子に歌を教える」

「そう。任せたは」

スタスタと歩いて行くグローディアの背を見つめ、セシリーンはそっと少女を抱きしめ直した。

「最近レニーラとセシリーンとがノイエを奪い合ってるみたいね?」

「そうなのか?」

朝食の準備をしているカミューの元にホリーがやって来た。

手伝いなら歓迎だが、会話だけならもう少し時間が過ぎてからの方が嬉しいのがカミューの本音だ。

食材の無駄使いに気づいた元王女様の命令で調理は一括となったのだ。

結果としてカミューの仕込み量は全員分となり、はっきり言って朝夕は大忙しでもある。

真面目に手伝ってくれるのは数人居るが、その数人とて毎日暇な訳でもない。鍛練もある。

「カミューは良いの? ノイエを取られてて?」

「あの子は夜になれば必ず私の所に戻って来る。だから心配などはしないが……」

お玉で寸胴をかき混ぜながらカミューは少し遠くを見た。

「正直誰かが様子を見てくれているならあの子が井戸に落ちたり、屋根に上がったり、壁を昇ったりと……そんな心配にイライラしないで済むからな。私としては奪い合いをしているくらいの方が良い」

あの少女は1人にしておく方が本当に危ない。何をしでかすか分からないからだ。

「それに2大姫に奪い合いをされるだなんて、ノイエは本当に凄い」

「そうね」

差し出されたお玉の中身を小皿で受けたホリーは味を見る。

「塩が足らないわね?」

「その辺の調味料は結構前から絶望的だ。野草の類で味を調えるとか狂気の沙汰だと思う」

それでも味付けをどうにかするのだから、これはカミューの隠れた才能の一端なのだろう。

「それでその2人はどうしてノイエを奪い合っているんだ?」

適当に彩り様の野菜と野草を追加しながらカミューは相手に問う。

「何でも『ノイエは私の弟子』だそうよ」

「何だそれは?」

呆れながらお玉で肩を叩きカミューは相手を見る。

肩を竦めて見せるホリーも理解不能な様子だ。

「何にせよ舞姫と歌姫の弟子が出来るのなんてノイエぐらいよ」

「違いないな」

料理が完成したと判断し、カミューは近くに置かれている鍋底を叩いた。

「今日も美味くない飯の時間だ。食う気のない奴はずっと寝てな」

乱暴な言い方だがそれがカミューらしい。

どんなに喧嘩をしている者にだって配膳の時は悪さなどもしない。

何よりカミューは喧嘩ごとを次の日に持ち越したりなどしないが。

木皿を持ってやって来た者たちにスープを配っていると、最年少の少女が彼女の前へと来る。

特別に大盛にしてやるが周りからの不満はない。

その分彼女から『姉』と呼ばれる者たちの分が少しずつ減らされるのだから。

「うん。完璧だよ」

「はい」

満足気に笑うノイエをレニーラはギュッと抱きしめる。

手拍子で2人を見守っていたセシリーンは柔らかく笑う。

2人の弟子であるノイエは本日完璧な歌声を披露した。まだ肺活量が足らず声量に不安な部分もあるが、これほどの声が出せるならノイエも歌い手として舞台に立つことぐらい出来る。

そう師であるセシリーンが判断する中、ノイエの歌声で踊ったレニーラも満足していた。

このまま少女を鍛えて一緒に踊りながら歌えれば楽しいかもしれないと考える。

問題はレニーラの歌唱力に難があり……歌姫が言うには『私は好きだけど万人には受けないかもしれないわね』と言う慰めにならない言葉を得た。

「ところでセシリーン?」

「何かしら?」

レニーラの次はセシリーンへと。ノイエが甘える相手を変えてその胸に頬を寄せている。

抱きしめ返す歌姫はレニーラの視線に気づき顔を向けた。

「どうしてノイエを弟子に?」

もう何日と一緒に行動をしていて今日聞かれた言葉にセシリーンは内心でため息を吐いた。

「お姫様にノイエが歌えるようにするよう命じられたのよ」

「何で?」

「……」

そう言われると具体的な説明など受けていない。

ただノイエが生き残るのに必要だと……今にして思えば歌えるようになったら生き残れるなど意味が分からない。

「レニーラ」

「了解。お姫様を呼んで来るっ!」

軽い足取りで走って行った舞姫の足音を聞きながら、セシリーンは改めてノイエを抱きしめる。

本当に頬などプニプニしていていくらでも触っていられる気になるのだ。

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