作品タイトル不明
異世界魔法よ
「お~し~え~て~」
「ダメよ。貴女には向いていない」
「ど~う~し~て~」
今日も懲りずにアイルローゼの元に来て我が儘を言っているノイエが居る。
彼女は天才的な魔女に『魔法』を習おうとしているのだ。しかしアイルローゼには教える気が無い。
「お~し~え~て~」
結果として、ノイエが癇癪を起して魔女の足に自分の頬を擦り付けて甘えている。
本人的には必死に説得しているのだろうが傍から見ると甘えているようにしか見えない。
実際『最近のノイエって魔女に甘えてばかり』と言う意見が施設内に広まっている。その言葉に機嫌を悪くする者が複数居るが。
「何しているの? グローディア?」
通りかかったレニーラは物陰に隠れ怪しい空気を出している姫様に気づいた。
何となく今すぐにでも人を殺しそうなそんな空気だ。
「少し休んでいただけよ」
「そっか~。うん。そっか~」
露骨に嘘だと分かる言葉にレニーラは生温かな視線を彼女へ向けた。
休んでいるだけならどうしてそんなにも凶悪な視線を離れているノイエとアイルローゼに向けているのかを聞きたくなる。
「ノイエ~」
グローディアと違い隠れて相手を見守るという性格ではないレニーラは、軽い足取りだ少女の元へと駆け寄った。
「そんな化け物と一緒に居るとノイエは食べられちゃうぞ?」
魔女の足に抱き付いて頬を擦り付けていたノイエをサッと抱え、レニーラはその場をクルッと離れる。
「今日はお姉さんと踊りの練習だよ!」
「む~」
「練習が終わったらまたお願いすれば良いんだよ」
「む~」
納得いかない様子のノイエが拗ねる。
実はノイエ以外にも拗ねている人物が居た。アイルローゼだ。
ノイエを取り上げられて拗ねだし、次いで奪ったレニーラに凶悪な殺意を向けて来る。
ノイエを困らせて甘えさせるなどと言う高度なことをやっている魔女も少女を独占したい1人なのかもしれない。
「ならアイルローゼ。少しノイエを借りるね」
「勝手になさい」
不機嫌の気配を氷のような冷たい表情に隠し、アイルローゼは遠ざかる2人にそう告げた。
「フンッ!」
「覗き見の後にそれは流石に品が無いと思うわよ? お姫様」
読んでいた本を畳んで術式の魔女は寄って来た相手を見る。
着ている服は同じ布を使った物だが、彼女の場合は取り巻きが徹底的に綺麗に洗うのかとても白く感じる。
腕を組んで薄い胸を張った元王女様は……大変不機嫌な様子を前面に出していた。
「どうして毎日ノイエを邪険に扱うのかしら?」
「言わなければ分からないの? あの子には能力があっても才能が無い。魔法語を理解出来ないのよ」
特殊な例なのだ。
アイルローゼが軽く調べた結果として……ノイエは魔法語を、その文字を理解出来ないのだ。
魔法語は未知の言葉。
魔法の式はただのいたずら書き。
それがノイエの魔法に対する認識だ。
魔力に関する祝福を持っていてもノイエは魔法を使えない。
不釣り合いと言うよりも宝の持ち腐れだ。
「でもあの子はやる気を」
「やる気だけでどうにかなると思っているの?」
グローディアの言葉を魔女はさえぎる。
「確かにやる気があればどうにか出来るわね。ノイエの体に沢山のプレートを埋め込んで使わせればいい。そうすればあの子は1人で高出力の広範囲術式だって使えるわ」
「アイルローゼっ!」
柳眉を逆立て激怒する元王女にアイルローゼは冷ややかに笑う。
「なら私にどうしろと? ただ貴女が私に対してノイエが甘え過ぎるのは腹立たしいとか思ってそんなことを言っているなら口を閉じなさい」
「……」
深くため息を吐いてアイルローゼは相手を見た。
「あの子には剣の才能もない。魔法も使えない」
「ええ。そうよ」
「それで貴女は案じているのね?」
気持ちは理解出来る。
このままではノイエはこの場所に必要無い存在となる。
どんなにここに居る者たちの心を癒す存在でも使えない兵は邪魔なだけだと始末されてしまう。
少し前のアイルローゼなら『仕方ない』と切り捨てたかもしれない。
でも魔女の心の中は過去に戻っていた。『先生』と呼ばれ弟子を慈しんでいた頃にだ。
「……方法は無くはないわ」
「本当に?」
「ええ」
それはあくまで苦肉の策だ。
けれどアイルローゼとてあの子に死んで欲しいとは思わない。
自分たちがどんな人生を歩むか分からないが、穢れを知らないあの子だけは清く生きて欲しい。
「異世界魔法よ」
「っ!」
息を飲みグローディアが一歩後退する。
それを使い恐ろしい何かを呼び出したグローディアには、良い方法とは思えなかった。
「貴女が見せてくれた本の中……貴女が使わなかった異世界召喚。ただ異世界から"魔獣"を呼び出し使役する魔法よ」
「……あんなことをしでかした何かをまた呼ぶことに?」
一応声を潜めグローディアは周りで聞き耳を立てている者が居ないか確認をする。
「貴女が何を呼んだのかは知らないけれど、たぶん違うものよ。純粋に異世界の魔獣と呼ばれる生き物を呼び出して命令するだけの魔法。その召喚方法は魔力を込めた歌声よ」
「……それだったらノイエにも扱えるかもしれないわね」
「ええ。問題はノイエがどれ程歌えるかって心配よ」
「だったら丁度良い人間が居るわ」
グローディアは何となく肩を竦めた。
「私はその歌声を聞いたことが無いけれど、この場所には歌姫と呼ばれたセシリーンが居る。今の彼女は歌うことを捨ててしまっているけれど歌を教えることは出来るはずよ」
「それだったら確かに可能性はあるわね」
セシリーンと言う名をアイルローゼも知っていた。
噂通りの彼女ならノイエに歌うことぐらい教えるだろう。
「なら決まりね。今からノイエを連れて歌姫の元へ向かうわ」
告げてグローディアはレニーラと踊りの練習をしていたノイエを強奪すると、抱きかかえて歌姫の元へと向かった。
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