軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

私の弟子になる気はある?

「だからわたしは悪い子なの……」

グッと何かを耐えるようにしているファシーの表情から色が失せる。

無に近い顔をし、何かを察したリスたちが少女から離れて木々を駆け上る。

最初に聞こえたのは『バチッ』と言う何かが破裂する音だ。

背筋に冷や汗が走り、何かを察したレニーラは反射的にその場を飛び退く。

パチパチパチパチと響く音にファシーの周りが弾け飛ぶ。

不可視の何かが少女を中心にして広がり穿って行く。

どうにか物陰に飛び込み様子を伺うレニーラだが正直生きた心地がしない。

話をしていたファシーが魔法語を綴る様子など無かった。腕は自分の体を抱きしめていてプレートに魔力を流す様子も見えない。つまり無意識に魔法を使ったと言うことになる。

しばらく待機してからゆっくりと近づくと……ボロボロと涙を溢しているファシーが居た。

地面に両手を着いて何かを見つめている。そっと覗き込んでレニーラはそれが何かを理解した。

不運にも逃げた先で魔法を食らってしまったリスが死に絶えていたのだ。

「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……」

「……」

居た堪れない気持ちになる。

きっとファシーは優し過ぎるくらいに優しい子なのだろう。

相手の言葉に逆らわず何かあれば自分が悪いのだと言い聞かせ納得して来たのだ。

けれど……それが彼女を追い詰めた。追い詰めてあの声を聞いて弾けてしまった。

自分以上に心の傷は大きい。

「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなっ」

ひょいと息絶えたリスを何かが掴んだ。

慌てたファシーはその人物に目を向ける。

両手でリスの亡骸を持つのは……ノイエだった。

「止めて」

「ん?」

怯えたようにファシーがノイエを見つめる。

また自身の体を抱くように震えだすファシーを見て、レニーラは判断に悩んだ。

もしあの魔法が暴発でもするのならノイエを連れて逃げるしかない。

けれどさっきは運良く無傷だったが、その幸運が二度も続くとは思えない。

「その子を食べないで」

震えるファシーの声にレニーラも心の中で祈る。

《ノイエ。食べないで!》

2人の願いを受けたノイエは、小さく首を傾げた。

「お墓」

「えっ?」

「お墓作ろう」

「……」

迷いのない言葉にファシーはただ呆然と少女を見つめる。

「ここじゃ暗くてさぴしいから、もう少し明るいばしょで作ろう」

「……はい」

震えを止めてファシーは立ち上がる。

そっとリスの亡骸を胸に抱いて歩くノイエと一緒に日の当たる場所へと出て、2人でお墓に相応しい場所を探し始める。

乗り掛かった舟と言うか、乗っていた船と言うべき状況なのでレニーラはそんな2人の後を付いて一緒に回り……そしてお墓が完成するまでをずっと見ていた。

「リスさん」

真新しいお墓に手を合わせるノイエがふと口を開く。

「いっしょに遊びたかった」

「……ごめんなさい」

「うん。でも平気」

スッと立ち上がりノイエは辺りを見渡す。

物陰に隠れるようにリスたちがこちらを見ている。ファシーを見ている。

「お姉ちゃんすごい」

「えっ?」

突然の言葉にファシーは驚きの声を上げる。何が凄いのか分からない。

けれど何やら興奮したノイエは、リスの血とお墓作りで汚れた手をギュッと握り締めてファシーを見る。

「お姉ちゃんは動物をあやつる人?」

「……違うよ」

確かにそう言った魔法があるとファシーも知っている。

自分としてはそんな魔法が使えたらと……先生の元で何度も夢を見た。

「わたしは人を傷つける魔法を使う」

「でも動物さんはお姉ちゃんのことが好きだよ」

「……」

そうなのか? と考えれば、確かにそうなのかもしれない。

子供の頃から小動物たちがずっと自分の傍に居てくれた。

「お姉ちゃんも好きでいてあげなきゃ」

「……そうだね」

一刻の感情に流され暴発してしまった自分の行いは取り消せない。

だけどもファシーは真新しいお墓を見つめて心に誓う。

『次からはこの子たちを守るようにしていこう』と。

「ごめんなさい」

もう一度お墓に手を合わせるファシーにノイエも一緒になって手を合わせる。

2人の少女……1人は年齢的にそう呼ぶには問題のある人物だが、それでもそう見える2人を見つめてレニーラは何となく頭を掻いた。

きっと自分はファシーのように、あの日の出来事を真面目に向き合って居なかったのだと教えられた気がした。

上辺だけで償いをし、業を背負い……そして出来もしない誓いを立てて嫌なことに封をした。

本当の自分は人殺しに対してそれ程の罪悪感を抱かず、やってしまったことと割り切っている。

やってしまったことをいくら悔やんでも何も解決しない。それはあの頃の自分が嫌と言うほど抱いた考えであり感情だから。

だから自分は今日より明日を求め、願い……前進すると決めたのだ。

「ねえノイエ」

「はい」

レニーラが呼びかけると、お人形さんのような少女が振り返る。

本当に愛くるしいほどに可愛らしい存在だ。

「貴女……私の弟子になる気はある?」

「弟子?」

「そう」

軽く笑ってレニーラはその場で軽く飛んだ。

大丈夫。自分の体は思っているよりも動けると確信する。

「弟子になるならこの舞姫の鎮魂の舞を見せてあげる。御備えも無くただお祈りをするだけじゃ……リスさんも可哀想でしょ?」

「はい」

可哀想という言葉に反応しノイエは頷く。そして、

「弟子になる。だから見たい」

「良し。ならば今日からノイエは私の弟子だ」

フッと息を吐いてレニーラは覚悟を決めた。

この弟子の為なら喜んで死ねる。

常に先頭を進んで矢避けでも何でもすると。

本当の自分がしたいことを思い出させてくれて、そしてその道を指し示してくれた存在だから。

「なら2人して見なさい。舞姫と呼ばれた女の今の実力を」

正直自分では満足できない動きだった。けれど2人の少女はその舞に感動してくれた。

踊りながらレニーラは思う。

自分は酷い人間だと……けれどこうも思う。やっぱり踊りが大好きだと。

弟子入りしたノイエは徹底的に鍛えられ、レニーラに次ぐ踊りの才能を見せたという。

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