作品タイトル不明
かくれんぼしよ
「ノイエって凄いわね」
「そうだね~」
薬草を洗って干しているパーパシの手伝いをしているシュシュは、少し明るくなった彼女を見る。
先日『かくれんぼしよ』とやって来たノイエに散々追い回され……遂には自身の祝福まで使い少女を撃退したパーパシだったが、その代償は結構大きかった。
化け物である保護者が拳を握り固めてやって来て、今度は命からがらの追いかけっこが始まったのだ。それも復活したノイエの仲裁があって大事に至らなかったが、代わりにノイエの相手を命じられたパーパシはしばらく少女と一緒に薬草作りをしていた。
子供が嫌い……と言うより避けている節のあったパーパシだが、何かあればドジをして怪我を負うノイエの相手をしているうちに自然と笑うようになっていた。
『こうやって怪我の手当てをしてたのよ』と昔話を聞かせるほどにだ。
慌ただしいが平穏な日々を過ごすうちに、パーパシは自然とノイエのことを思い出しては笑うようになっていた。
『昨日あの子ったら』と言う始まりの言葉を何度聞いただろうか?
本当にノイエは不思議な少女だ。
心の弱っている者の元に来ては一方的に慕い希望に満ち溢れた感情を向けて来る。
絶望に身を浸す自分たちは、その希望に心も体も温められるのだ。
「これで傷薬はしばらく大丈夫~?」
「ええ」
改めて干した物の様子を見つめ、パーパシは並んでいる薬草に目を向ける。
この場所には天才的な医者の卵が居た。けれど監視たちに連れて行かれて戻っていない。
何があったのかは知らされていないが、結果としてその代りをパーパシが務めている。
「骨折や打ち身、擦り傷ならどうにかなるんだけど」
「だね」
それ以上の怪我は正直お手上げだ。
現状病気にでもなったら手の施しようもない。
簡単な看病をしてあとは運を天に祈るしかない。
「最近監視たちがピリピリしてるわね」
「だね」
何となくでシュシュも中央の建物に目を向ける。
その場所に居るであろう施設の管理者たちが向けて来る視線が厳しい物になって来た。
「あまり睨まないで欲しいわ」
「ジャルスが不機嫌なんだよね」
「……ノイエでも差し向けてみようかしら?」
「止めた方がいいよ。カミューとジャルスとの殺し合いが起きるよ?」
「下手をしたら王女様まで乱入しかねないし」
武闘派の2人の喧嘩に、何故かノイエを『妹』と呼んで溺愛しているグローディアまで加わったら……色々と大変なことになる。元々貴族の子弟だった者たちがグローディアの手伝いに入るだろうから大混戦になる。そうなれば赤毛の眠れる獅子が目を覚ます。
「て、今日のノイエは?」
「レニーラと2人して『限界の向こう側まで踊るぞ~』とか言って騒いでたよ」
「……また変な騒ぎが起きなきゃ良いけど」
ボヤキながら傷薬の在庫を頭の中で数えだすパーパシもある意味で毒されていた。
軽く微笑みシュシュはそんな彼女を見つめる。
「パーパシも良い意味で変わったね」
「そうかしら?」
「うん。前より笑えるようになったよ」
「……そうかも」
近くにあんなに笑顔を振りまく存在が居たのだ。
何をするでもなく問題を起こして呆れさせられるが、それでもノイエはいつも全力で向かって来る。こっちも全力で応じなければあっと言う間に圧倒される。
だからこそ彼女の笑みを見ると笑いたくなる。本当に不思議な存在なのだ。
「シュシュもノイエと話してみたら?」
「ん~」
一瞬返答に困りシュシュはフワッと体を震わせる。
何度もそれを考えたけれど……実行に移せていない。
結局のところ、自分の臆病な部分が避けているのだ。全てを知られることを。
「考えておくよ」
「そう。手伝ってくれてありがとう」
「どう致しまして~」
まだ少し重い足取りでその場を離れたシュシュは、何とはなしに敷地内を歩き出す。
最初四か所に分けられていた施設だが、今では内側の壁が全て壊されグルッと一周できる敷地へと変貌していた。運動不足解消にその敷地を一周走る者も居たりするが、基本最初に居た場所を拠点に皆が生活をしている。
シュシュは途中から住む場所を変えた身だが、今使っている場所を出たいとも思わない。
出てしまい元の場所に戻れば……親友が居るからだ。
幼馴染で一緒に魔法の勉強をして来た大親友だ。
けれどそんな親友の両親を殺してしまったのは自分なのだと……思い出すたびに胸が締め付けられて息苦しくなる。
こんなにも苦しいのなら胸を引き裂いて楽になりたい。
今までだって何回も死にたいと思った。寸前まで実行したのは数知れずだ。
この場所に来た頃などはその衝動が顕著だった。
幸運なのか不幸なのか……その度に誰かに見つかり自死することは出来ずに居た。
今だって不意に死にたくなる。けれどそうすると不思議とあのノイエがやって来る。
何する訳じゃ無くファシーにしていたように膝枕を要求されてそれをするのだ。
自分らしくないことをしていると自覚はしている。けれど寝ているノイエを見つめ、その頭を撫でていると心の中の嫌な気持ちが霧散して消えて行く。
確かにみんなが言う通りあの子は不思議な存在だ。だからこそ怖くなる。
あんなにも他人に希望を振り撒く存在が。
このまま希望を出し尽くし燃え尽きててしまわないか不安になる。
《でもノイエだしな~》
きっと何を言っても彼女は止まらない。優しさと思いやりの大暴走だ。
今日だって踊りの練習とか言っていたが、何かあればあの子はまた暴走して……不意にシュシュはそれを見つけ足を止めた。
ノイエが居た。1人で居た。厳密にはもう1人居る。
寄りにもよってあの問題児は……眠れる赤毛の獅子に話しかけていたのだ。
(c) 2020 甲斐八雲