軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

望んで人を殺したから

「なに逃げてるのよ?」

「のはっ!」

物陰に隠れていたレニーラの背後からホリーは声と一緒に蹴りを見舞った。

彼女の尻にヒットしたホリーの足の裏に押し出される格好でコロコロと前転し、レニーラはスッと立ち上がった。

「驚いた!」

「そんなに転がるのを見せられたこっちが驚いたわよ」

「あはは~」

笑って誤魔化す相手にホリーは呆れたようにため息を吐いた。

「ノイエから逃げ回ってるんでしょう?」

「あはは~」

「何がそんなに怖いのよ?」

「……」

笑っても誤魔化せないと悟ったらしいレニーラは、小さくため息を吐いた。

「怖いよ」

「何が?」

「だってあの子は綺麗なんだもん」

「……」

「私なんかが触れちゃいけないって気になるの」

「思い過ごしよ」

舞姫の言いたい言葉は理解出来る。

ノイエはいつも全力で優しくて真っすぐで……でも泣き虫だ。

「人殺しが触れてもあの子はそんなに穢れないわ」

「そうかな~?」

「ええ」

だからホリーは鼻で笑う。

相手の言葉の偽りに気づいたからだ。

「ノイエは大丈夫よ。ただ貴女がどう感じるかは知らないけど」

「……」

表情から笑みを消したレニーラがホリーを見る。

「結局のところ、ノイエがじゃなくて貴女が……なんでしょう?」

「……」

増々表情を消す相手にホリーは軽く笑うと背を向けた。

「まあ良いわ。貴女がどう思おうがそれは全て貴女の問題よ」

「……そうね」

「でもね?」

足を止めて肩越しに振り返る彼女にレニーラは恐怖を感じた。

無表情で見つめて来るホリーは本当に怖かった。

「私の可愛い妹を泣かせたら許さないから。覚悟なさい」

一瞬その長い髪を震わせ……ホリーはまた歩き出すと遠ざかって行った。

《分かってるんだけどね》

茂みの裏に隠れ膝を抱いてレニーラは身を丸くする。

ノイエはきっと自分が触れても汚れたりしない。それだったら彼女はもう他の色に染まっている。恐れているのは自分の心だ。

あの目に見つめられると……自分の心の奥底を覗かれてしまうようで怖くなる。

きっとあの子は気付いているのだ。自分の本当の気持ちを。

ウジウジと考え続け、体を左右に揺らして……答えが出ているのに悩み続ける。

自分でも馬鹿なことをしていると自覚しているが、それでもレニーラは悩んでいた。

「ん?」

「……」

ふと何かに見られている気がして顔を上げたら目が合った。

相手の目は前髪越しだけど確かに目が合った。

小柄と言うか幼過ぎる感じは最年少のノイエよりも彼女を年少に見せる。

人見知りと言うか臆病過ぎる彼女はファシーと言う。

「……」

「えっと何かな?」

恐る恐る声をかけると、ファシーの背をリスが駆けのぼり頭の上で止まる。

噂に聞くファシーは小動物を愛でていると言うことだが、今の様子を見ていると小動物の方が彼女のことを気に入っているようだ。

「ごめんなさい」

「はい?」

「この子たちを食べないで……」

「……」

リスを食べる文化を知らないレニーラだが、あのカミューならどうにか料理するかもしれない。

「食べないわよ」

「本当に?」

「ただ私以外は分からないから気を付けてね」

「はい」

身を小さくしてファシーは隅に移動するとリスたちと戯れだす。

確かにここなら死角になって目立たないが。

「いつもここに居るの?」

「はい」

ペコペコと頭を下げて来る少女の頭や肩に居るリスたちがレニーラを見る。

『ウチの仲間になんか文句でもあるのか? やるか? あん?』と言われている気がして来るのはレニーラの妄想だろうか?

「可愛がっているなら隠れて無くても」

「でも食べられちゃうから」

「いやいや……みんながみんな食べないって」

「……ノイエが涎を垂らして見つめて来る」

不思議とその映像がレニーラの脳裏に浮かんだ。

涎を垂らしてリスを見るノイエ……可愛らしいが次の瞬間にはモグモグと何かを頬張っていた。

「大丈夫。ノイエだって食べて良い物といけない物ぐらい判断できるから」

「……本当?」

「うん。たぶん……きっと?」

自信を持って答えられないのは何故だろう?

ノイエが『お腹空いた』と言えばあの保護者が捕まえて調理するからだ。つまりカミューが悪いのだ。

「もしかしたらノイエは一緒に遊びたいのかも?」

「……涎は?」

「美味しそうと思いながらも遊びたいんだよ。うん。きっと」

言い訳するレニーラの方が悲しくなって来る。

全ては食事が不十分なこの場所が悪いのだ。

「ねえファシー」

「はい」

「ファシーから見てノイエってどんな感じ?」

「……」

掬い持っていたリスを膝の上に置いた少女は、その前髪で隠す目元をレニーラに向けた。

「わたしと違ってすごく良い子」

「ファシーも良い子だと思うよ?」

そうでなければ自然の生き物であるリスたちがこんなにも懐いたりはしない。

けれどファシーはフルフルと顔を左右に振った。

「わたしは悪い子」

「そう?」

「……わたしは望んで人を殺したから」

ズンと心に来る言葉だった。

ゆっくりとレニーラは視線を動かし改めてファシーを見る。

幼さが残る少女は普段から隠れるように過ごしている。そのせいか誰もがファシーのことを詳しく知らない。

首輪が嵌められているから魔法使いなのは間違いない。

両腕に傷があるからプレートが埋め込まれているのも間違いない。

けれど彼女に関して知っているのはそれぐらいで、あとは名前と年齢ぐらいだ。

「ファシーはどうして人を殺したくなったの?」

喉の奥が自然と渇き唾を飲み込んでレニーラは少女を見つめる。

微かに顔を傾けたファシーは……そっと自分の腕で自身を抱きしめた。

「わたしは悪い子だから。みんながわたしを捨てたから。わたしは要らない子だから……」

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