軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

追憶 ミャン

私には魔法使いの素質があった。

運良く母親が乳母として通っていた代官様の娘も魔力があったらしく、一緒に育てて貰えた。

こんな田舎の街で同時期に2人も魔法使いが誕生するのは大変に珍しいらしい。

お陰で私は魔法使いとしての勉強を受けさせて貰えた。

ただ……一緒に学ぶ相手は才能の塊だった。

私は毎日穴が開くかと思うほど本を睨みつけてはその内容を記憶していく。

けれどあの子……シュシュはパラパラと読んで行くだけで全てを吸収していくのだ。

一緒に学ぶのは辛かったけれど悔しくは無かった。だってシュシュは本当にいい子だから。

フワフワとして落ち着きがないけれど優しくて良い子で……だから私も彼女のことを嫌いになんてなれなかった。

もし私が男だったら間違いなくシュシュをお嫁さんにする。

お嫁さんに出来なくてもシュシュの初めては全部私が頂く。

それぐらいにシュシュのことが好きだった。

けれどそれは同性の相手に抱いてはいけない感情だ。

だから私は可愛らしい男の子に恋をすることにした。

恋人を作りシュシュへの気持ちを断ち切るのだと決めた。

「ミャン?」

ずっと部屋に籠っている私を案じてシュシュが家にやって来た。

本当にフワフワとして可愛らしい幼馴染だ。そうだ。やっぱりシュシュが良いんだ。

「うふふ……気づいたわシュシュ」

「えっと~。何が?」

3日3晩泣き続けた私は悟った。やはり男なんてダメだ。

この私がいっぱいの愛情を捧げたと言うのに、あの男は別の人を好きになった。挙句男をだ!

「私はもう男なんて愛さない。これからは女の人だけを愛して生きて行くからっ!」

「うん。ミャンなら出来るよ~」

「……」

そう真っすぐ言われると言葉を続けられない。

『シュシュが好きだからずっと一緒に居て』とか……相手の地位を考えれば無理か。

「私はこれから女の人を恋人にして生きる!」

「おう。頑張れ~」

フワフワと応援してくれる幼馴染の様子に私は心の中で泣いた。

有言実行と言うことで、それから私は可愛い女のことばかり付き合うようになった。

シュシュを交えて3人で遊びに行ったり……時にはシュシュと2人で魔法の勉強をしたりと忙しかった。

たぶんシュシュのお陰だと思うけれど、私も一緒に魔法学院への入学が許された。

これからもずっと一緒に居れると……内心で私は凄く喜んだ。

故郷を離れる前日はシュシュの家に泊まり、一緒のベッドで眠った。

昔から寝つきの良いシュシュは一度寝るとなかなか起きない。これを最後に我慢するからとそっとシュシュの唇を奪ったのは私だけの秘密だ。彼女には教えられない。

入学してからは自分の才能の無さを痛感する日々だった。

周りはシュシュ並みの天才児だらけで、そんな中を才能の無い私が必死に頑張る。

毎日が肉体的にも精神的にも苦痛で……けれどシュシュには甘えられないからと増々可愛らしい女の子に声をかけては寂しさを紛らわす。

たぶん私は頭の中の何かが壊れているんだ。

幼馴染を性欲の塊のような目で見つめるなんて……どう考えても普通じゃないのだから。

学院の生活は楽しかった。

毎日馬鹿騒ぎがあって、煙が立ち上り怒声が響き渡る。

化け物染みた魔女が魔法を使っては破壊と鎮圧が行われる。そんな日々だった。

けれど幸せは長く続かない。

私たちの国であるユニバンス王国は、2つの大国に攻寄られ存亡の危機に達していたからだ。

「ここも随分と寂しくなったわね」

「そうですね」

配給された食材を抱えて私たちは女子寮へと向かう。

前線が苛烈になる度に学院から生徒の数が減り……悲しいことに戦死者の報告ばかりが届けられる。

その戦死者の中には私の知り合いだった子も居るし、仲良くしていた子の名前もあった。

前線がどんな場所なのかは知らないけれど、あの子たちが苦しまずに死ねたかどうかが気になる。

「ミャン先生。明日はどうするんですか?」

「そうね」

先生の数がだいぶ減り、私は学生と兼任でまだ年若い少女たちの先生役を務めていた。

誰もがまだ幼く私の食指を動かすのには抵抗があるけれど、全員が慕ってくれるこの環境は決して悪くない。

何より可愛い教え子たちだ。無条件で全員が可愛い。ただし女子に限るけど。

「まずは食事ね」

明日の新年は生徒たちと過ごしと決めている。

戦乱の為に治安が悪く一時帰郷を諦めた生徒が学院内には結構残っている。

「それから軽く勉強をして……あとは夜が明けるまで自由時間かな」

「それだと先生の奪い合いが起きて大変ですよ」

クスクスと生徒の1人であるリリスが可愛らしく笑う。

私が預かる生徒の中で一番の年長者であり、生徒たちのまとめ役をお願いしている子だ。

ただ彼女は私のことが好きらしいので、頑張ってくれたご褒美は決して忘れない。

「なら夜が明けてから就寝にしないとね」

「寝れるんですか?」

まあ何人か起きて騒ぎ続ける子もいるだろうがそれは仕方ない。

「寝ないと貴女を可愛がってあげられないわよ」

「……」

そっと耳元に唇を寄せて囁きかける。

ポッと顔を赤くした彼女は本当に可愛らしい。

けれど……私の心の中は最低だ。全ての相手はシュシュの身代わりなのだから。

決して愛してはいけない相手の代わりなのだから。

「さて。まずは今日の勉強よ」

だからこそ私はこの子たちをちゃんと守らなければいけない。

自分の欲望の捌け口に、身代わりにしているこの子たちを愛して守らなければ。

そうしなければ私はただの人で無しだ。

「どうして?」

何が起きたのか分からない。

夜が明けてから一度だけ建物の外に出たら……意識が途切れた。

眠ったのかと思ったのに、周りには死体の山が出来ていた。男の人が死んでいた。

「うぷっ」

込み上がって来た吐き気に居の中の物を全て吐き出し、私はそれに気づいた。

女子寮から響く悲鳴だ。

震える足を動かし必死に駆けて行くと……中は酷いことになっていた。

みんな死んでいた。私が護ると誓った生徒たちが。

床に転がる死体を手に取り血で濡れた頬を拭う。

まだ仄かに感じる温もりが私の胸を締め付ける。

「どうして?」

「……あはは……あひゃひゃ……」

笑い声に顔を向けると、あの子が狂っていた。

全身を血で濡らし、焦点の定まらない目でリリスが笑ってた。

「どうして?」

何度目かの呟きに彼女は答えない。

代わりに手を振り上げ私に向い魔法語を綴る。

寸前の差で私の方が早かった。

拘束の魔法がリリスを包んで彼女の動きを封じる。

「何が?」

「あがっ!」

「えっ?」

拘束したリリスの胸から刃が生えた。

崩れ落ちた彼女の背後には……もう1人笑う少女が居たのだ。

けれどその子は動きを止めると、ゆっくりと顔を上げる。

辺りを見渡し……そして声を上げた。

発狂したかのように暴れ出し、自分の体を至る場所に打ち付けて動きを止めた。

それを眺めていた私も不意に意識を失い床へと崩れ落ちた。

私は結局守れなかった。

生徒を1人も護れなかった。

だからもう誰に対しても何も教えない。教える資格もない。

私はただの人でなしなのだから。

(c) 2020 甲斐八雲