軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

殴る前に話を聞いてよ~!

「私は大切に思っていた生徒たちを救うことが出来なかったの」

「……」

「だからもう人に物を教えるのは嫌なの。もう嫌なのよ」

キュッと背後からノイエを抱きしめてミャンは自分の気持ちを口にする。

嫌と言うのは間違いだ。ただ怖い。

自分が大切に思っている、大切にしている存在がまた消えてしまった……そう思うと怖くて怖くて怖くて。

もう一度抱き締めようとしたミャンだったが、腕の中の小さな存在が暴れた。

何事かと視線を向けると、体勢を変えたノイエがミャンに体を向けようとしていた。

けれど股の間に座っているから自分の足がつっかえて……色々と諦めたらしいノイエは体を捩じりその小さな手を伸ばす。

「お姉ちゃんはがんばりました」

良し良しと頭を撫でてくれる存在にミャンは目を瞠る。

「……誰に習ったの?」

「お姉ちゃん」

どうもカミュー以外の名前を覚えられない少女は、ここに居る全員を『お姉ちゃん』と呼んでいる。ただ特徴的な印象の者だけは違った呼び名を得ているが。

「どのお姉ちゃんかな?」

「……」

別に知りたい訳でもない。

きっとノイエも誰かにして貰い嬉しかったから自分にもしてくれたのだろう……とミャンとしてはその程度の認識だった。

「お姉ちゃん」

「ん?」

ミャンはそれに気づき思わず声が出た。

捩じって体を、顔を向けているノイエの目に涙が浮かんだのだ。

「ノーフェお姉ちゃん」

「……」

知らない名前だがミャンはそれとなく知っていた。

ノイエには死に別れた姉が居るらしいと……保護者となっている人物から聞いていたからだ。

「そうか」

キュッと抱きしめ抱き寄せる。

少し鼻をグズグズと鳴らすノイエは素直に甘えてきた。

「ノイエのお姉ちゃんは優しい人だったんだね」

「はい」

大きく鼻を鳴らしノイエはまたミャンの頭に手を伸ばす。

「お姉ちゃんはよくがんばりました」

「……」

優しい言葉が心を抉る。

無邪気だからこそノイエの言葉がミャンの心を貫く。

「……私は何も出来てない」

「どうして?」

「だって私はみんなを死なせたんだからっ!」

耳元で大きな声を上げられたノイエは軽く目を回す。

けれどそれに気づかず……ミャンは少女の肩を掴んでその澄んだ目に向かい、溢れる涙が止まらない目を向けた。

「誰一人として守れなかった! 救えなかった! みんなを殺させてしまった!」

受け持った生徒たちは護ると誓っていたミャンなだけにあの日見た光景は忘れられない。

自分が犯した殺人よりも……自分の預かる生徒たちが殺し合ったあの現場の凄惨さを。

「私は何も出来なかった!」

消えることの後悔の念。

ずっと心の中で渦巻いていた思いをミャンは叫んでいた。

と……ノイエの小さな手がミャンの頭に置かれる。良し良しと撫でて来る。

「お姉ちゃんはがんばりました」

「私は何もっ」

「でもお姉ちゃんは泣いてるよ?」

クリっとした目でノイエはミャンを見る。

いっぱいいっぱい悲しんで苦しんでいるお姉ちゃんを見つめる。

「お姉ちゃんは泣いてる。だから何もしてないは、うそだよ?」

「……」

「いっぱい泣いているお姉ちゃんは泣くことをしている。だからきっとみんな分かってくれる」

「……分かる?」

「はい」

コクンと頷いてノイエはその顔に柔らかな笑みを浮かべる。

「お姉ちゃんがこんなに泣くほどみんなのことが大好きだって……きっとみんな分かってくれる」

「……」

ミャンは思いっきり頬を殴られたような気がした。

まだ幼い少女は、今何と言った?

「大好きだった」

「はい」

「大切にしていた」

「はい」

「けれど……守れなかった」

「はい」

またノイエの手がミャンの頭に置かれる。

良し良しと小さな手が撫でてくれる。

「お姉ちゃんが近くに居たらみんなを守ってたよ」

「違う。きっと私がみんなを」

「そんなこと無いっ!」

声を張り上げノイエがミャンの目を見つめる。

「お姉ちゃんはみんなのことを大切にしてた。大好きだった。だからぜったいに守ってた!」

「でも」

「お姉ちゃんがそんなことを言っちゃダメっ!」

ポロポロと涙を溢しノイエはその口を必死に動かす。

「守るって言ったお姉ちゃんがさいしょにあきめたら、だれも助からない!」

「……」

「わたしのお姉ちゃんもさいごまであきめなかった! 必死にわたしを助けてくれた! だからわたしだけこうして……こうして……」

グズグズと鼻を鳴らすノイエの涙が止まらない。

そんな少女を見つめ……ミャンも涙を止められずにいた。

守ると言っていた自分が諦めていたのだ。

狂ったからと……狂った程度で生徒たちの存在を忘れてしまったのだ。

自分は嘘つきだ。言葉だけで結局は心の底から彼女たちを守ると言う強い意志を持っていなかった。

「私ってダメだな」

本当にそう思った。悲しいけれど覚悟も思いも中途半端だったのだ。

それもそのはずだ。自分は本当に好きな相手を忘れるために彼女たちを愛でていたのだ。

酷い話だが……もしそれがシュシュだったら? あの時隣に居たのが親友だったら?

笑いがこみ上げてきた。本当に酷い話だ。

「ありがとうノイエ」

「ひっく……」

今度はミャンが手を伸ばしノイエの頭を撫でる。

「私は自分が思っているほど傷ついていないと理解出来た」

「本当に?」

「ええ。酷い話だけど」

守れなかったことを理由に悲しみに逃げて現実を忘れていた……それに気づいたミャンは自分が思っていた以上に酷い女なのだと理解した。

「ありがとうねノイエ。もう大丈夫だから」

「はい」

グシグシと涙を拭う少女にミャンは表情を崩す。

「洗って来なさい」

「はい」

言われてパタパタと走っていく少女を見送り、そしてミャンは背後から言いようの無い気配を感じた。

「えっと……カミュー?」

振り返ると静かに怒る人物がいた。

何故か全力で逃げて行く親友の姿も見つけた。

「ミャン」

「……」

「どうしてノイエがあんなにも泣きながらここから駆けて行ったのか……それを理解できる言葉で説明してくれるかな?」

怒りの余りに完全にどこか遠くに逝ってしまった視線を向けて来るカミューは、バキバキと指を折るのではないかと思うほどの音を立てていた。

「説明をするからちゃんと聞いてくれるよね?」

「ええ聞くわ」

ギランと逝ってしまっているその目から『交渉の余地なし』という文脈をミャンは本能で読み取った。

「貴女の口がちゃんと機能すればね」

「殴る前に話を聞いてよ~!」

全力で逃げ出したミャンを追いカミューも走り出す。

その様子は死神が獲物を追っているかのようにしか見えなかった。

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