軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

わたし、おさないから

魔女の説明が終わり彼女はポーラに体を返した。

可愛い妹に戻ったポーラが、甲斐甲斐しく看病をしてくれるからされるがままだ。

「にいさまはずっとねてました」

「……ずっと?」

大変背筋の凍る言葉が。

ポーラに確認するとどうやら3日ほど寝ていたらしい。

アカン。大変に宜しくない。具体的には王国軍と近衛の仕事が僕に襲いかかって来る!

どうにかベッドを這い出ようと努力するが、全身の激痛とポーラの妨害で失敗しました。

って仕事が~!

「次」

「はい」

書類の束を差し出すと恐ろしい速度で目を通し何枚か弾く。

誤字や計算間違いなど容赦なく弾くのだ。

クレアはその様子をうっとりと見つめていた。

あの英雄であるノイエが凄い勢いで事務仕事をしているのだ。興奮しない方がおかしい。

「後は?」

「今日の分はそれまでです」

「そう」

スッと立ち上がり彼女は執務室を後にした。

その凛々しい後ろ姿はここ最近ずっと見せていた弱々しい姿とは遠くかけ離れた格好の良さだ。それだけにクレアははふっと熱いため息を溢していた。

「ん~。隙が無いです~」

ただ勝手にケーキを注文して食べていたキャミリーだけは、大変不満そうな声を上げていたけれど。

「この全てをノイエが?」

「はい」

届けられた書類には確かに彼女のサインが入っている。

椅子に腰かけ何とも言えない表情を浮かべるのは国王のシュニットだ。

確かに怪我で自宅待機となっているアルグスタの代わりに仕事をしてくれるのは助かる。助かるのだがその範囲がおかしい。

全てだ。

王国軍と近衛まで確りと指示を出しその全てが完璧なのだ。

恐ろしいほどの才能を見せるノイエを訝しむ貴族が日々増えている。

シュニットからすれば可能性は1つだ。あの魔女がやっているとしか思えない。だが知る限りあの魔女は軍の運用など出来るはずがない。

《ノイエがまだ何か隠していると思う方が正しいか》

そう考えれば2人で共和国を弱体化させた理由も分かる。

「どーんです~」

勢い良く隠し扉を押して王妃が姿を現した。

「どうかしたか?」

「ん~。甘えに来たです~」

「そうか」

やれやれと息を吐いてシュニットは人払いをする。

信の置ける者だけとなってから、キャミリーは軽く咳払いをした。

「陛下」

「ノイエのことか?」

「はい」

静々と歩いて来た王妃は机を挟んで向こう側に立つ。

「彼女は何者ですか?」

「ノイエ・フォン・ドラグナイトであろう?」

「ご冗談を」

冷ややかに笑い、キャミリーは自身の胸に手を当てる。

「でしたら彼女は私以上の嘘吐きでしょう」

「そうか」

「……陛下。彼女は何者ですか?」

「分からんよ」

素直に認めシュニットは軽く両手を挙げた。

「ノイエには私たちが知らない隠し事が多い。そう思っている方が楽であろう?」

「ですが1つ間違えれば」

「それは無い」

不安視する王妃にシュニットは優しく笑いかけた。

「アルグスタが許さん」

「……つまり?」

「ノイエはアルグスタを深く愛している。だからこそ彼を害するようなことは出来ない。つまりアルグスタを取り込んでいる限りはノイエは私たちに牙を剥かない」

「……」

スッとその目を細めキャミリーは思案する。

確かに牙を剥かないのであればノイエは優秀な人材となる。この上ないほどにだ。

「でしたらアルグスタ様に首輪でも嵌めて城で飼いますか?」

「そんな愚かなことは出来る訳が無いであろう? それこそノイエが牙を剥く」

だがノイエの実力を知れば、そう考える馬鹿な貴族は発生しかねない。

「本当に厄介であるが……今しばらくは様子を見るしかないな」

「ええ」

素直に認めキャミリーは咳払いをすると夫である彼の元に移動し甘えだした。

「ただいま」

「おかえりなさい。ねえさま」

「はい」

出迎えたポーラの頭を軽く撫でてノイエは疲れた様子で廊下を歩き出す。

元気は無い。しょんぼりした様子だ。

「ねえさま」

「はい」

「にいさまがおきまし」

『た』を言い終える前にノイエの姿は掻き消えていた。

「のっほぉ~!」

「アルグ様っ」

「落ち着けノイエ!」

「アルグ様っ」

「らめぇ~! 体が~!」

ウトウトしてたらノイエに抱き付かれてこの世の地獄を見た。

ポーラが飛んで来て必死に制してくれたから助かったけど、ベッドの横に居るノイエさんが今にも飛びかかって来ようと待ち構えている。

「もう少し待ってね。まだ怪我がね」

「……」

「おーいノイエさん? 僕の目を見て話を聞こうか?」

とても爛々とした目がこっちを向く。

美味しい料理を前にした食いしん坊のような目に見えるのは気のせいでしょうか?

「ねえさま。けががひどくなります」

「大丈夫」

ポーラの言葉に拳を握りノイエが僕を見たままで。

「気合で平気」

ずっと泣いていたノイエも困るけど、これはこれで大変困ります。

「ノイエ」

「はい」

「怪我は気合じゃ治らないからね?」

「治る」

断言しないでお嫁さん。

「カミューがそう言ってた」

くたばれあの糞がっ!

両手を拳にしてふんふんと鼻息荒いノイエを必死に制するポーラの頑張りに期待するしかない。

「と言うかリグはどうした? こんな時はあれの出番だろう?」

もうノイエが認めているから正直に名を呼んでみるが反応は無い。

あれ? ノイエが能力を使えるんだから出て来れるよね? ねえ?

「おーいセシリーン。リグを出して」

リクエストしたけど反応が無い。

ふんふんと鼻息を荒くしているノイエを必死に制するポーラだけが首を傾げるのみだ。

ああ。ポーラは知らなかったな。まああれが住み着いている時点で普通な暮らしとは無縁か。

どんどんポーラが不憫な子に。

「ってお~い?」

何度か呼びかけるが反応は無い。

「しばらく謹慎するそうよ」

「……何でさ?」

代わりにポーラが右目に模様を浮かべて反応した。

「迷惑をかけたから夫婦2人で仲良くなさいって。代わりに貴方の仕事は全部しておくからって」

「何だかな~」

思いやりの方向を間違えて無いですか?

「ってノイエから手を離さないで!」

「無理よ。わたし、おさないから」

棒読みの言葉にイラッとした。

そして接近して来るノイエに……らめ~! ノイエさん! だからまだ~!

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