軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

心が荒れてるわよ?

「旦那君も呼んでるし出せ~」

「だぞ~」

レニーラとシュシュが騒ぐのをアイルローゼは睨み一発で追い払った。

中枢の中核。

いつもの台に陣取り、術式の魔女は決して動かない。

彼女が動く時はホリーがそこに座る時だけだ。

そのホリーも決して遊ばずに真面目に仕事をしている。

今は隅で両膝を抱いてコロコロと転がっているが。

「私だってアルグちゃんと逢いたいのに。逢ってお姉ちゃんの包容力で看病を……身動きの取れないアルグちゃんの看病を……ハアハア」

独り言の内容は表のノイエと大差ない。

あれがノイエの精神を引っ張ているのかとすら思えるほどに。

「ああ。辿り着いた。ありがとうファシー」

「は、い」

幼げな少女に手を引かれやって来たのは化け物の1人であるエウリンカだ。

「何しに来たの?」

「ああ。刻印の魔女に呼ばれてね」

「そう」

台に座り見張りを続けるアイルローゼは、リグが眠っている場所に目を向ける。

『御用の方はここに立ってね!』と書かれた看板の下には丸く平らな白い石のような物が存在していた。右目に居る刻印の魔女が呼び出した者を強制的に拉致する仕掛けだ。

『転移の魔法だと思うけどサッパリよ』と確認したグローディアですらお手上げの魔法らしき何かしらの力で動く物だ。

エウリンカはその石の上に立つと、足元から姿を消していき……完全に消えた。

「ノイエの中がおかしなことになって来たわね」

「そうね」

普段通り隅で座るセシリーンは穏やかな表情で外の様子に耳を傾ける。

あんなに大人しく可愛らしかったノイエも十分に大人になっていた。うん。少し激し過ぎる気もするが。

「あれほどの怪我を負っているのに……大丈夫かしら?」

「死にはしないでしょう。死にそうになれば刻印の魔女が止めるわ」

小さな少女の体を借りた生粋の化け物である魔女は、ニマニマと笑い夫婦の営みを覗く行為をしている。

エウリンカが向かったはずなのに同時に2つのことを完璧にするのだから……自分など足元にも及ばないとアイルローゼは軽く怒った。

「心が荒れてるわよ?」

「……」

歌姫に指摘され軽く息を吐く。

「そんなにあっさりと負けたことが悔しいの?」

「……あの人数で簡単に制圧されたのは面白くないわよ」

少なくとも自分を含んで魔眼の中ではそこそこの実力者たちが居たのだ。

それをあの魔女は小犬と戯れるかのようにあっさりと制圧してみせた。本当の意味で子供扱いだ。

「またよ」

「……」

再度の指摘にアイルローゼは自身の頭を掻いた。

「あんな化け物が『同格』と言う相手に私たちかが束になって本当に敵うと思うの?」

「分からないわよ」

圧倒的な力で負かされたアイルローゼが弱気になっていることなどセシリーンは気付いていた。

彼女自身もそれに気づいているから心がささくれ立ったイライラとしているのだ。

「外に出て彼に甘えて来れば?」

「あん?」

「らしく無い気配を向けないでよ。冗談なんだから」

1人で徹底抗戦しているアイルローゼが居るお陰で、誰も彼の前に出ることが出来ない。

逆に言えばアイルローゼが出てしまえば出たいと思っている者は全員出ることが出来るのだ。

変化を求めてまた戻り、ひょこっと顔を覗かせこちらの様子を伺ったファシーが……変わり映えしない現状にため息を吐いて諦めて遠ざかっていく。

「何より彼の怪我ぐらい治しても良いでしょう?」

「リグの専門は裂傷の類よ。打撲や骨折は実質治せない」

「……」

『大変言い訳が上手で』と、セシリーンは内心で手を挙げる。

と、白い石が点滅して……エウリンカが戻って来た。

「アイルローゼ」

「何よ?」

呼ばれ視線を向けたアイルローゼは、エウリンカが抱える宝玉を見て軽く目を瞠った。

「どうしたの?」

「刻印の魔女から『ご褒美』と言って渡された」

エウリンカは抱いていた宝玉をアイルローゼに手渡す。

それを手にした術式の魔女は……膨大に刻まれている魔法の式に増々目を凝らす。

「何これ……凄い」

「ああ。正直次元の違いを感じるね」

その場に座り、エウリンカは軽く欠伸をする。

「自分が呼ばれたのはその宝玉の加工の手伝いだ」

「二重になっているわね?」

「ああ。内側の本体を護る外殻の製造を頼まれた」

透明な玉の中にもう1つ透明な玉が浮かんでいる。

ただエウリンカが言う通り、外殻には強化の魔法だと思われる物が恐ろしいほど刻まれている。

「それでこれは何なの?」

「それを解いたら自由に使って良いとの話だ。自分にはさっぱりだけど」

「分かったわ」

フワッと立ち上がりアイルローゼは歩き出す。

「刻まれている魔法の式の様子からシュシュとグローディアかしらね。2人を手伝わして……」

ブツブツと呟いて歩いて行くアイルローゼの頭の中から『台を死守する』と言う思いは完全に消え失せていた。魔女の宿命と言えばそれまでだが……自分の未知を目の前にして好奇心を止められる魔女は居ない。

一度座ったエウリンカだったが、彼女も立ち上がると『待ちたまえアイルローゼ』と彼女の名を呼んで追いかけて行った。

結果として無人となった台の様子にいち早く気づいたのはホリーだ。

お嫁さんに襲われ激痛に目を回したアルグスタであったが、不意に髪の色を青くして襲いかかって来たホリーにも襲われ……もう数日自宅治療の日数が増えたという。

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