軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

馬鹿も大概にするが良い!

「連日あのような異形が王都に押し寄せるなど異常であろう!」

大声を発し議場に年配男性の怒号が響く。

「それもこれもあのお方が各地でやり過ぎたが為に大国の怒りを買った物だと私は思う!」

すり鉢状の議場の底で声を上げるのは外務を司る大臣だ。

怒りの余りにその顔を紅くし、唾を飛ばして絶叫するにも理由がある。

好き勝手に色々と悪さをするとある上級貴族のお陰で彼に回ってくる苦情の件数は、ここ1年で何倍にも増えたのだ。朝から晩まで苦情処理をさせられ、落ち着いたと思えばまた増えて……挙句に共和国を相手に喧嘩をして来たとも噂されている。どうやらその噂は事実のようで、膨大な数の苦情が共和国から正規ルート、裏ルート問わず押し寄せてきたのだ。

もう限界だった。あんな厄介者など全ての仕事から外して監禁するべきだ。

直接的な表現は避けながらも言葉の端々に殺意にも似た感情を伺わせる。それを支援するように大国に小銭を掴まされている者たちまでも合流し無視できない勢力を造り上げてしまった。

唯一の救いは南部に属する貴族の多くが代理を立てているために積極的に敵対行動を見せていない。必要に応じて強い方に付くように命じられているのが良く分かる。

「私としては早急にあのお方を全ての役から外すべきだと思います!」

議場の机を叩いて大臣は出来上がった派閥の席へと戻る。

数にして2割ほどがアルグスタの敵に回っていた。

それを眺め苦笑するシュニットは、アルグスタ擁護派に目をやる。

こちらは全体の5割ほどだ。上級貴族の数が少ないが中級や下級が意外と多い。何よりあの弟は部下を労わることに対して金に糸目をつけない。

ことあるごとにお菓子を送り、何より武官たちの書類軽視を正したいきさつもあって文官たちからの支持は意外に多い。

誰が出て来て今回の茶番を正すのか……シュニットはそんな軽い気持ちで居た。

最悪自分が出て『戦時特例』で全てを誤魔化すことすら視野に入れていたからだ。

だが出てきた人物を見て国王は軽く腰を浮かした。意外といえば意外だったのだ。

ゆっくりと全体を見つめた彼は、上級貴族の当主ではあるが無役に近い存在である。

ただ圧倒的な地位を持つ。『王族』と言う地位だ。

議場の底に立ったイールアム・フォン・ハルムントは軽く咳払いをした。

それを見てシュニットは静かに自身の両耳を塞いだ。

「馬鹿も大概にするが良い!」

大音量。

議場全体がビリビリと震え、反アルグスタ派は瞬時に沈黙した。

彼が儀式などで進行役を務めるのはその声量を買われてのことだ。

「先ほどから聞いていればこの国の、この王国の臣下とも思えない言葉ばかり聞こえてくる」

一転して静かな声音だが良く通る声で彼は語る。

「あの方……きっとアルグスタ・フォン・ドラグナイト氏を指しての言葉だと思うが、彼を全ての要職から外すと? 現状彼は王国軍と近衛の最高責任者である。それを外すと言うのですね? ならば無役となった彼は喜んで屋敷に籠るでしょう。ですが連日襲いかかる異形の化け物は誰が倒す?」

言いながらイールアムは反対派の企みを理解していた。

アルグスタを廃し自分たちに与する者をその地位に付ける。簡単だが愚策過ぎる。

「この国では代理の場合、上位官の許しも無く任命することは出来ない。アルグスタ殿は国王陛下と大将軍並びに近衛団長の許可を得て代理を務めている。その両名の許しが無ければ何人たりもその地位に就くことは出来ない。つまり空白が生じる」

ざわざわと反対派が部下を捕まえ確認を急がせる。

それくらいの法などそらんじて欲しい物だが、イールアムは言葉を止めない。

「空白が生じた時にあの異形が来たら誰が迎え撃つ? アルグスタ殿は自らの地位を失ったと同時に妻であるノイエ夫人にこう言うだろう。『一緒に屋敷に居よう』とな。さあ誰がドラゴンを討つ?」

ざわつく反対派から『国王命令で』と言う声が聞こえてきた。

「忘れている者が多いようだから今一度ここで言おう。

現状ノイエ夫人は『名誉騎士』だ。それは彼女が騎士としての職務を勝手にしても良い許しであり、その地位で彼女を縛る物では無い。つまり彼女はこちらの命令を無視して夫である彼と一緒に屋敷に居ることを選んでも王国としては何ら手出しが出来ない」

本当に馬鹿が多くて困る。

イールアムは反対派に冷ややかな目を向け続ける。

『王都で余り仕事などするな。馬鹿の多さに嫌気を覚えるからな』

それがイールアムが成人した時に実父であるウイルアムから教えられた言葉だ。

だから彼は極力役職を避けた。実父の言葉が正しかったからだ。

「それとあの夫婦を武力で屈服させるなど愚かな方法を陛下は決して許さない。理由は言わなくても分かると思うが……強いて言おう」

これでお終いと言いたげにイールアムは軽く笑った。

「この国ならあの2人は何日で共和国のように出来るか……貴殿たちの申し出が正しければそれ程凶悪な力を持っているのでしょう? それが自分たちの首に刃を向けるとなぜ考えない?」

それはただの脅迫だ。それもアルグスタ本人を無視して名を使った物だ。

「そろそろ考えるべきでしょうな? もし貴殿たちの申す通りにあの夫妻が凶悪な力を持っているのならば、誰に尻尾を振るべきなのか……自分でしたら恐ろしくて彼に歯向かおうなど微塵も考えませんよ。寝ている隙に屋敷ごと全てを腐らせることも出来るのでしょうからね?」

沈黙し身を縮めて足元を向く反対派は、たった1回の話し合いで瓦解したのだった。

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