軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

そんな馬鹿で居たいんです

スィーク叔母様の足のことは正直ショックだけど、あの人はそんな怪我を負ってても顔色1つ変えずに付き合ってくれている。

ならばやっぱり僕が頑張らないとだ。

「ねえ先生?」

「何だ?」

先生も大切なモノを失った人だ。

僕は諦めていないけれど失敗するかもしれない。

それを知れば少しはノイエを勇気づけられるかもしれないし。

「もし仮定の話なんだけどね。仮に先生が何かしらの代償を払って失った物や人を取り戻せるとしたら……何を支払う?」

「失った……か」

ゆっくり腕を組んで先生は視線を窓の外へと向けた。

先生が失った物は多い。物と言うよりも人だ。妹夫婦に何よりリグだろう。

「レティーシャたちを取り戻せるならナーファの心配は必要ない。この命でもくれてやろう」

「リグだったら?」

「……数ヶ月は寿命が欲しいな」

柔らかく笑い彼は僕を見た。

「ここにお人好しな大金持ちが居る。ならばナーファとリグを押し付けてもどうにかしてくれるだろう。だけど……我はリグに対して父親らしいことをしていないからな。少しはそれらしく振る舞いたい」

「そうっすか」

押し付けることが確定っぽいけど、それでもリグとナーファなら引き受けるか。

「だったら数ヶ月と言わずに数年にしてください」

「何故だ?」

「先生の技術を2人に伝えないと勿体無いでしょう?」

祝福が無くてもこの先生は名医だ。

数多くの死を見て来ているけれど、それでも救った人も多いのだから。

椅子から立ち上がり、とりあえずルッテたちに挨拶してから明日の準備だな。

「1つ問いたい」

「はい?」

呼び止められて振り返ると、先生が先生っぽい真面目な表情をしていた。

「貴殿がもし失ったモノを取り戻すとしたら?」

全く同じ質問だった。

「決まってます。そんな馬鹿な選択肢を突き付ける奴を全力で殴り飛ばして根こそぎ奪い返しますよ。で、皆で幸せに暮らします」

「無茶苦茶だな」

「ですね」

本当に無茶苦茶な返事だと思うよ。

「でも僕はその無茶にこの命を賭けられる馬鹿なんです。そんな馬鹿で居たいんです」

「そうか……馬鹿で居たいか」

先生は苦笑して、その手を自身の顔に当ててため息を吐いた。

「ならば生きて帰って来ると良い。多少の怪我なら我がどうにかしよう」

「その時はお願いします」

「ナーファ? 2人は?」

「えっと……ご自分で確認してください」

何その生々しいコメントは?

僕が診察室に居た都合、順番待ちになっていた急患らしい男性の腕に包帯を巻いてるナーファの手つきは素人には見えない。

何だかんだで先生はナーファに技術を伝えているのかな?

『いてえよ~』と弱々しい声を出して運ばれて行った患者さんは……奇声を発した。

ここは初めてなのか? 先生の祝福はぶっちゃけ慣れないからな。

廊下を歩き病室を覗くと……R18なことにはなって無かった。

ベッドの上で体を起こしているルッテとその横で椅子に座っているメッツェ君が2人して顔を真っ赤にしてまだフリーズしている。

初々しいな。ウチにもこんな時期が……ありました。言ったもん勝ちだからあったの!

「お~い。ルッテとメッツェ君や」

ギギギとさび付いた音でも聞こえそうな動きで2人がこっちを見る。

ただお嫁さん(予定)の裸を見たぐらいで情けない。

僕がノイエの裸を見た時なんて……動じなかったぞ。全く全然。何せ言ったもん勝ちですから。

「まず上司命令でルッテはそのままベッドで待機。お城の仕事は陛下に言って何人か人間を送って貰うからここでやって」

「……はい」

モジモジとしているルッテが、まるで女の子のような返事を寄こしたよ。

「で、メッツェ君には副将軍命令でルッテの警護を命じます。馬の世話はこっちでどうにかやり繰りするから任せなさい」

「……はい」

こちらもモジモジとメッツェ君が返事を寄こす。

君は少し自分の姉を見習って図太くなった方が良いぞ? ミシュほどの精神力を持たれると面倒臭いけど。

「僕は帰るけど……」

モジモジしている2人が初々し過ぎる。

「ルッテの両親がこっちに向かっているはずだから一線は越え過ぎないようにね。キスまでで終えるんだぞ?」

ますます顔を赤くして2人が俯いてしまった。

まさか僕の居ない隙にキスまで終えたとか言ったら……今日は許してやろう。ルッテは名誉の負傷だし、僕がフラグを気にし過ぎたのが原因だしな。

診療所を出てナガトに跨り……明日の準備の前に陛下に会って話しないとか。

「おに~ちゃんです~」

「お~チビ姫~」

陛下の政務室に入るやチビ姫が飛びついて来た。

軽く抱えて脇の下でホールドしてから、3回尻に躾を施し床に投げ捨てる。

尻を両手で押さえて『のふぉ~』と色気のない声を出して転がるチビ姫はスルーだ。

これで良いのかこの国の王妃とも思うが……まあお兄様が確りしているから良いか。

「わざわざ時間を頂き感謝します」

「良い。今回は緊急時だしな」

今の出来事をスルーし、お兄さまが苦笑しながら迎えてくれる。

本来なら大忙しの陛下は時間を作ってくれた。

まずはルッテの報告をして診療所付近の警備と彼女の世話役でメイドを送り込む。ぶっちゃけルッテの祝福を隠すための人材だ。厄介なおっぱいだな。大暴れしてやがる。

「後2日……大丈夫か? アルグスタよ」

報告を終えてため息を吐く僕に陛下が表情を崩して声をかけて来た。

「正直騙されている気がしますけど、でも強力な敵ですしね」

「そうだな」

昨日と今日と、変化球と言う名の魔球ばかりだよ。

「大変苦労しているお前には悪いが」

「はい?」

陛下が視線を向けると、チビ姫が丸い布の塊を抱えて来た。

「それをあれに解析するように頼みたい」

「……」

退いた布の下から見えたのは透明な何かだ。

受け取り確認すれば……たぶん間違いなく宝玉だ。

「これは?」

「ハーフレンが南部で発見し昨日届けられた」

ミシュか。そう言えば昨日何か背負っていたけど、これだったのか。

「相手が気紛れなのでお時間を頂くことになりますが?」

「構わんよ。解明して貰えるのであればな」

「ですね」

どんな原理か知らないけど、これが割れれば異世界のドラゴンが出て来る訳だ。

少しでもその仕掛けを知っていれば対処する方法も思いつくかもしれない。

「お預かりします陛下」

「ああ」

宝玉を抱え僕は国王夫妻に挨拶をして部屋を出た。

コホンと軽い咳払いをし、キャミリーは義弟が出て行った扉に目を向けた。

「流石にお疲れのご様子で」

「だろうな。何より2日で2人の戦力を失ったしな」

明日以降の勝算はかなり低いと思われる。

それでも今の弟ならば最後まで足掻き続けるだろう。

ならばそれを信じるのが王としての自分の務めだとシュニットは腹をくくった。

「馬鹿な貴族たちは私が封じ込める。だがもしアルグスタが負けたら?」

「……」

軽く天井を見上げキャミリーは薄く笑う。

「ところでシュニット様。アルグスタ様に申した『あれ?』とは」

「済まんな。王妃相手にも言うことの出来ぬ約束がある」

「そうですか……仲間外れにされたみたいで悲しいですわ」

泣き顔を作る王妃にシュニットは苦笑する。

彼女は優秀だ。恐ろしいほどに優秀なのだ。

だからこそ交渉事も容赦ない。

泣き顔が失せ柔らかな笑みに変えてキャミリーは夫を見つめる。

「でしたらシュニット様。お願いがあります」

「何だ?」

「はい」

顔を向けて来た王妃は、真剣そのものの目をしていた。

「前王妃ラインリア様に逢いに行きたいのです。外泊の許可を」

軽くスカートを抓んでキャミリーは夫にそう告げた。

最終手段ではあるがそれしか無い。

ここで渋れば彼女は『あれ』のことを調べ出すだろう。

シュニットは苦笑し口を開いた。

「キャミリーよ」

「はい」

「協力が得られるなら『8人目』の力を使うことも許す。良いな?」

「感謝します」

軽く頭を下げて、王妃はコホンと咳払いをする。

「です~」

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