作品タイトル不明
追憶 カミーラ ④
雨が降っている。
パチパチと雨粒が燃えカスに当たり弾けた音が辺りに広がる。
カミーラは一点だけを見つめずっと息を潜め座っていた。
疲労回復に努めているのだ。まだ戦いは続くのだから。
「カミーラ」
声と共に投げつけられた物を掴み、カミーラは握った物を確認する。
無骨な感じの槍だ。ずっしりと重く壊れないことを前提に造られた戦場向けの武器。
「敵の落とし物だけどそれが一番まともだよ」
「そうか」
息を吐いてカミーラは立ち上がると軽く槍を振るう。
重い分重心が軽く流れるが許容範囲内だ。
「悪くない」
「ならマルクに感謝しな。それを拾ったのはあれだ」
「そうか」
息を吐いてカミーラは腰に差していた鞘を抜く。
剣の方は先の戦いで寿命を迎え半ばから折れてしまった。
迷うことなく鞘を投げ捨てるカミーラにスハもまた息を吐く。
「大切にしてたと思ったんだけどね」
「壊れた武器を愛でてどうする?」
「そうだね」
認めスハも自分の腰に差す魔剣を叩く。
前線で奮戦を続けるカミーラたちには王国軍の上層部からの期待が大きい。
武器や魔道具の供給は多く、スハの魔剣も新しい物が次から次へと届けられる。
稀に剣と呼ぶには形状しがたい物が送られて来ることもあり、『前線に試作品を送るな』とスハは愚痴って部下に押し付けている。
「補給はどうなってる?」
「そっちもマルクに押し付けた」
「働けスハ」
「はんっ! 私は殺すことしかしない隊長さんの面倒を見てるよ」
「……そうだな」
気の無い返事をしてカミーラは歩き出す。
やれやれと肩を竦めたスハも彼女の後を追って歩き出した。
ユニウ要塞とバージャル砦の間に広がる平原。
そこがカミーラたちの主戦場だ。
難攻不落と名高いユニウ要塞を回避し、バージャル砦を落とそうと迫る敵軍を迎え撃つ遊撃隊。
クロストパージュ家が保有する魔法『剣山』を武器とし前線で串刺しと呼ばれるカミーラと、魔剣使いと呼ばれる双剣使いのスハの2人は攻め寄る共和国から恐怖の象徴と扱われている。
その部下たちも歴戦の雄である。新兵の頃からカミーラと共に前線で武器を振るい生き残って来た者ばかりだ。当初の数に比べれば6割ほど死している。
上層部からは何度も新兵の補充を申し込まれているが、『足手まといは要らない。それに邪魔をされ過ぎると殺したくなる』とのカミーラの声に増援はなされないままだ。
それでも部下たちからの不満は無い。
同期で一緒に死地を見て来た仲間だからこその連帯感がカミーラ隊の強みでもあるのだ。
補給と言う名の休息をしている部下たちの前に戻ったカミーラは、相変わらずの死にぞこないたちの顔を見る。
「馬鹿共。仕事の時間だ」
素っ気無い声にやれやれと部下たちが立ち上がる。
「やることは分かっているな?」
隊長のカミーラが発する指示はいつも簡単だ。
「殺して生き残れ」
手にした革製の水筒に口を付け、カミーラは中身を喉に流し込む。
隊長特権と言うことで、ワインを手に入れることが出来るがいくら飲んでも酔いもしない。
それでも今日、旅立った仲間たちへの手向けは必要なのだ。
軽く地面にワインを撒いてもう一度口にして封をした。
「今日はもう寝たかったんだがな……誰だ?」
槍を掴んで立ち上がり、水筒はベルトに引っ掛け辺りを見渡す。数は8人程度か。
「串刺しのカミーラか?」
「そう呼んでる臆病者たちが居るらしいな。私はただのカミーラだよ」
槍を短く持って話しかけて来た男に体を向ける。
「暗殺者など大半が臆病者だよ。だから強者を恐れて闇討ちする」
「確かにな。間違っていない」
悠然と構える前線の化け物に、暗殺者と名乗る者たちが身構えた。
「殺す前に1つ聞きたい」
「何かね?」
「アンタ等は共和国の者か?」
恐ろしい気配を放つ少女に……暗殺者たちは身構えたまま間合いを詰めた。
リーダーらしき男はうっすらと笑った。
「死ぬ者に所属を言うと思うかね? 我々は臆病なのだよ」
「そうかいっ!」
タンッと爪先で地面を叩くと同時にカミーラは横に飛んだ。
戦場で彼女の戦い方を研究していた暗殺者たちは、自分の足元に土の槍が出る物だと思い動く。後方に飛べば標的との距離が開く。だから回避しながら前進することを選んだのだが……カミーラはそれすら読んでいた。
土の槍は確かに姿を現した。カミーラが居た場所にだ。
そして土の槍にヒビが走り、辺り一面に破片が飛び散る。
槍の強化を強めて自壊させることで武器とする。
塹壕に身を隠しながらカミーラは成功した魔法に苦笑していた。練習無しのぶっつけ本番だったのだ。
《まあ時間稼ぎか》
致命傷を負わせるような攻撃では無い。それは分かっている。
塹壕を這い出て運良く両目に破片を受けたらしい相手の急所に穂先をねじ込む。
《まずは1人か》
それからは静かに息を殺して、命を奪い合う。
明かりは天にある月のみ。普段なら十分だが戦場の足場の悪いこの地では正直辛い。
故に襲撃者も互いを攻撃しない程度に距離を取ってカミーラを索敵する。逃げるカミーラとしては気付かれれば敵の攻撃が殺到するから動くに動けない。
だからこそ……カミーラは少ない確率でも勝てるかもしれない方を選んだ。
大きく息を吸ってゆっくりと吐く。
狙うは視界の先の先……ただ一点を見て全ての魔力を解き放つ。
《後は運次第だな。文字通り》
苦笑しカミーラはその場から飛んだ。
数本のナイフが突き刺さるが、自身の体には届いていない。
ブンッと槍を回して追撃をけん制し、月明りの元に姿を現した。
「隠れん坊は終わりかね?」
「ああ。性に合わないからね」
「ふむ」
相手の余裕にカミーラは薄く笑う。
今確実にやられる可能性が高いのは自分だ。だからこそ楽しくなる。
「私は追い回す方が好きなんだよ」
「なっ!」
護りを捨てて前に出る。それがカミーラが選んだ行動だった。
槍を棒のように振り回し襲撃者の胸を打つ。咄嗟に散開するが、彼女は狙った獲物を逃さない。
確実に1人の命を奪いまた構える。
「どうやら……串は使えないようだな?」
胸を打たれたリーダーらしき者が、口の端に血の泡を浮かべ嗤う。
「全員で包み込み殺す。良いな?」
「「はっ」」
統率の取れた良い部下たちだ。カミーラは苦笑する。
敵に比べると自分たちは本当に酷い。好き勝手に動いて、言うことも聞きやしない。
「言い忘れてた」
「何だ?」
カミーラの声に彼は掲げた手を止めた。振り下ろせば全てが終わる手を。
「うちのスハはああ見えて恥ずかしがり屋でな」
ニヤリと笑ってカミーラは視線を動かす。
釣られて動かした襲撃者たちはそれに気づいた。
両手に火柱を思わせる炎を掲げて走って来る存在にだ。
「用を足している所を邪魔でもされたら烈火の如く怒るんだよ」
「カミーラ! 今日こそ消し炭にしてやるっ!」
駆け込んで来たスハが魔剣を振るう。
カミーラでは無く襲撃者たちにだ。
カミーラが全ての魔力を費やし放った魔法は簡易便所の天幕を狙った物だった。
ついでに天幕付きを使うのは基本女性で、何よりスハは照明替わりに魔剣に淡い火を灯す。
結果として天幕に影が見えたカミーラは、彼女の短気を信じて魔法を放ったのだ。
「ちっ! 仲間かっ!」
スハだけでは無く見張りらしき者も走って来るのを見て、リーダーらしき男は撤退を選ぶ。だがカミーラがそれを逃さない。
自身の意識を失う覚悟で魔力を絞り出し、爪先で地面を叩いた。
ザンッと伸びた土の槍に男の顔が削られた。
襲撃者たちはリーダーを回収するとそのまま逃走を選んだ。
その後ろ姿を見つめカミーラは小さく息を吸う。
「スハ」
「良し殺す」
魔剣を振りかぶる彼女にカミーラは口を開いた。
「……助かった」
同時に意識を失い、彼女は倒れ込んだ。
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