軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

追憶 カミーラ ③

人とは慣れる生き物だと知った。

死体の処分を3日もやれば、誰も吐かなくなった。

替わりに数人ほど気が触れたように笑い出し、上官たちが『王都に戻す』と言って引き摺って行った。

彼らが本当に王都に戻れたのかは知らない。そんなことを気になどしていられない。

死体の処理以外にも仕事はある。塹壕掘りや柵作りなどやることには事欠かない。

今転がっている死体なども最前線であるユニウ要塞を抜かれやって来た敵兵を迎え撃った跡なのだ。

最前線では無いがここだって前線だから備えをする。

「カミーラ」

「何だ?」

「この敵兵はどうしてズボンを脱いで死んでるのかな?」

「その辺に女性兵の死体があればそう言うことだろう」

「そうか」

死体の股間に油を撒いたスハが火を点ける。

虚ろな目でそれを見ている彼女を制する者は居ない。私も止める気が起きない。

戦場なんて場所は本当に酷い。

怯えて逃げ出すぐらいなら良いのだが、変な気を起こして女性兵に襲いかかる者が出る。

スハは見た目が女性的過ぎるから私の知らない苦労をしているのだろう。

「大半の死体は処分が終わったわね」

「そうだな」

今スハが燃やしていた死体は数えていない。

後で誰かが引き摺って行ってちゃんと燃やすはずだ。

「後は防御陣の構築かな?」

「それと訓練だろう。一応その為に来たんだ」

「……そうだったわね」

ウンッと背伸びをしてスハが遠くを見つめる。

「ねえカミーラ?」

「何だよ」

「……土煙が見える」

「えっ?」

慌てて立ち上がるのと同時にガンガンと鐘の音が鳴った。

敵襲を告げる音だ。

「お前たちっ!」

駆けて来た上官が私たちの前に立った。

「またユニウが抜かれたらしい。敵の数は少なくないがこちらの兵が配置が間に合わん」

どうやら不意を突かれた様子だ。そのせいで味方の準備が整わず、

「心苦しいが、ここはお前たちが護るしかない」

そう言うことだ。

仲間たちの悲鳴が聞こえるが、早かれ遅かれいつかは来ることだ。初陣なんてものは。

「ランフは一隊を連れて右翼を張れ」

「はっ」

右翼は上官と共に来た者が指揮を執ることになった。

「中央は俺が指揮を執る。そして左翼は……」

上官が私を見た。大人と呼べる人はもう居ない。

「適任者が居ない。お前が指揮を執れ。カミーラ」

「……はい」

命令ならば従うしかない。

正直に言えば私は人の上に立って指示を出す人じゃない。

けれどやるしかない。それが戦場だからだ。

言いようの無い不安に体が震える。歩み寄った上官が私の肩を叩いた。

「命令だカミーラ」

「はい」

「生き残ることを考え時間を稼げ。王国軍が準備して出て来るまでの時間を稼げば俺たちの勝ちだ。良いな?」

「はいっ」

ポンポンと肩を叩いて上官は中央の指揮に向かった。

私は大きく息を吐いて振り返り自分に与えられた新兵を見る。

全員が蒼い顔をしていた。きっと私もだ。

「どうするのカミーラ?」

カタカタと震えているスハの声が上擦っていて……何故か笑いそうになった。

「スハ。声が上擦ってる」

「しっ仕方ないでしょ!」

蒼かった顔を赤くしてスハが大きな声を上げた。

彼女の緊張は解けたようだ。ならばもう心配は無い。

「基本は防御陣。3人一組で相手の攻撃を交わしながら隙あらば狩り取ること」

迷わずに指示を飛ばす。

「スハは私の傍に居て随時命令を伝達すること」

「ちょっとカミーラ?」

「出来ないのか?」

「で、出来るわよ!」

「ならやってくれ」

こっちだって突然隊長を押し付けられたのだ。副官の代わりぐらいで文句は言わせない。

「欲はかくな。確実に自分に出来ることだけをすれば良い」

新兵の私たちに出来ることなんてそう多くないのだから。

「死なずに生き残れ!」

命令としたら酷い物だ。それでも私としては良く言い切れたと思う。

そして地獄が始まった。

襲い掛かる敵兵は目を血走らせて武器を振るう。

こっちだって死にたくなくて必死なのだ。相手だって必死なのだと初めて知った。

必死と必死の打ち合いは、武器の熟練度など関係無い。

どれほど意地汚く生き残るのか必死になった者が勝つ。

土や小石を顔に投げかけるなんて当たり前だ。人によっては口の中に油や泥水を含んでいる者も居た。

必死に武器を振るい敵の返り血を浴びると剣を握る手が滑る。

それでも必死に握っては振るい続ける。

当初は防御陣を使い上手く対処できると踏んでいた。

矢を射かけて牽制してと夢を見ていた。

相手の勢いを甘く見ていた。

穴や柵などあっと言う間に突破して来る。味方の死体を足場にして突き進んで来る。

敵が近づいて慌てて矢を射るが勢いは止まらない。近づき過ぎれば矢は使えない。

武器を握った接近戦は、あっと言う間に乱戦になった。

「スハっ!」

傍に居たはずの魔剣使いが居ない。

襲い来る敵兵の首を飛ばし辺りを見渡すと、スハは相手の兵に組み敷かれていた。

欲望のままにスハを襲おうとする相手を背後から斬ろうとしたが、邪魔が入る。

「邪魔すんなよガキが」

「そこを退け」

「何だ? その声は女か?」

目の前に居た男が下卑た表情を浮かべる。

「だったら穴はあるよな? 色気が無くても構いやしねえっ!」

武器を捨てて襲い来る相手に私の中で何かが弾けた。

ふざけるな。戦場で……仲間が死ぬ気で武器を振るっている場で、ふざけるなっ!

「ひがっ!」

自然と爪先が地面を叩いていた。

私に襲いかかろうとした男は股間から土の槍を突っ込まれ絶命していた。

「何だっ! どうしたっ!」

スハを襲おうとしていた男がこっちを向くが、私は黙って地面を叩く。

土の槍がスハの股間の間から生えて男の胴体を貫いた。

「魔法使いだっ! 魔法使いが居るぞっ!」

敵兵が怯え声を上げる。

でも遅い。私は決してお前たちを許さない。

剣を振るい歩き出した私は敵兵に向かい土の槍を放ち続け、ついでに剣も振る。

結果として敵軍は左翼から崩れ、友軍の援護も間に合いあっと言う間に追い返された。

スハはその間に隊を立て直し私の護衛に回ってくれた。

初めての戦場で私たちはどうにか勝つことが出来た。

全員が無事に生き残ることは出来なかったけれど。

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