作品タイトル不明
追憶 カミーラ ①
私の人生なんて語れたもんじゃない。
上級貴族のクロストパージュ家に拾われたのはただの幸運だった。
偶然にも魔力があったから魔法戦士隊の練習生として拾われた孤児だ。
魔法と武器の扱いを習いながら集団生活を送る。
集団生活は好きでは無いが、食べ物と寝床を得るには必要だった。
いつだったか魔法戦士隊の偉いさんに呼ばれた。命令だった。
クロストパージュ家のお屋敷の近くにある小高い丘に行って、そこに居る少年の相手をしろと言うことだった。
『どうして自分が?』と思ったが、同年代で頭一つ抜き出ている実力を買ったと言われると悪い気はしなかった。
だから行って偉そうにしている少年を軽く締めてやった。
帰ったら見張りからの報告が届いてたらしくこっぴどく叱られた。
それでも私は自分のやり方を変えなかった。
女に負けるぐらいで挫けるなら剣など握らない方が良い。
だから勝ち続けていたら……あの馬鹿は私を男だと思っていたのだ。
相手の隙を見つけていたぶって、帰ると叱られるのが私の生活になった。
彼がこの国の王子だと知ったのは……結構最初からだ。
こっちがそんな肩書で怯んでいたら練習相手なんて務まらない。だから気にせずいたぶっては、帰ってから諸先輩方に教育的な躾を受け続けた。
楽しかったと言えば楽しかった。
練習の後は年相応に夢を語り、気づけば彼の婚約者候補まで混ざって3人で過ごすようになっていた。
だからかもしれない。私はこの2人を守りたくなった。
魔法戦士になるには魔力が足らない。ならば軽く魔法が使える騎士になろうと決めた。
決めて私は王都に向かった。
目の前に抗うことの出来ない絶望が立ちふさがるなんて知りもせずに、甘い希望を抱いてだ。
「いいかっ! お前たちの年齢なんて関係ないっ! 性別なんてそこの着替え袋の中に捨てて来いっ!」
腹の底から発する訓練教官の声に、私たちは一歩も動かず整列した姿勢を維持する。
もう何回と同じ話を聞かされ、不意に命じられて着替えをする。
年相応の男女が服を脱いで、下着一枚になって服を着直すのだ。
最初の頃は恥ずかしさから着替えられない者が出た。女子だけでなく男子だって。
1回や2回なら許される。それ以上は上官たちが首根っこを掴んで訓練場から追い出す。
つまりは失格だ。素養無しだ。
「生きたければ必死にもがけっ! 小便をしてても大便をしてても飯を食ってても、敵が目の前に姿を表したら迷わず殺せっ!」
過激な言葉だが私はその言葉を胸に刻む。
戦場帰りの人物が無駄なことを教える訳が無い。
実際に尿意を催す者が退出を願い出て訓練場から放り出された。
正解は周りの目など気にせずに垂れ流すことだ。
今は普通の訓練の時じゃない。戦場の実戦形式の訓練なのだ。
「生き残りたければ殺せ! それが出来ない奴から戦場では死ぬっ! いいなっ!」
「「はいっ!」」
返事は1つ。後の言葉は必要ない。
「今日もきつかった~」
「そうだな」
「何だ。カミーラは相変わらず冷めてるね? あの日?」
「どの日だ」
手早く汗を拭って着替えを済ませる。急いで行かないと食堂が混む。
ただ私に話しかけて来たスハは器用だ。話しながらも手を止めない。
だから私と同時に着替えを終えて食堂に向かう。
「そろそろ武器を握った実戦形式の訓練がしたいわけ」
「……」
「そうすれば私の実力を軍の偉いさんが知って、私を騎士とかに取り立ててくれるはずなのよ」
「……」
「聞いてるカミーラ?」
「黙って飯を食え」
「面白くない」
告げると彼女は黙々とご飯を食べる。
正直美味しくは無い。塩味の肉と野菜のスープと硬い黒パンだ。
量はそれなりにあるが、毎日これだと食事と言うよりも餌だ。
ただ1日2回の餌を貰えるだけ私たちは恵まれているのだろう。
普通ならこれの半分の量で2回か1回かだ。
「ねえカミーラ?」
「……」
「この戦争って勝てるのかな?」
スプーンを咥えて天井を見るスハは凛とした少女だ。
顔立ちだって決して悪くないし、黄色い長い髪を後ろで束ねて流している姿など男子の目を集めている。こんな場所に不釣り合いな存在だ。
「お前なら戦わないで結婚することでも考えれば良い。そっちの方が国の為だ」
「何よう? 私が弱いとか言いたいの?」
「そうじゃない」
食事の手を止めて私は彼女を見た。
黄色い綺麗な瞳など私と違って本当に女性らしく見える。
「剣を振るうようには見えない。良い服を着れば貴族の令嬢のようにも見えるさ」
「何かカチンと来るな」
腕を組んで彼女は起こる素振りを見せる。
「私だってこの国を護りたいと思っているのよ。大切な人が居るし両親だって居るしね」
「そうか。両親よりも大切な人を護りたいのか」
「揚げ足を取るなっ!」
憤慨した彼女は立ち上がると、フンッ! と唸って机の上に脚を置いた。
「上等よカミーラ! 入隊試験で一番だったという貴女に決闘を申し込むわ!」
「断る。上官に叱られる」
「何よっ! なら許しを得たら私とやるってことねっ!」
鼻息荒く言う彼女に私はため息を吐いた。
まあ良い。そんな許可など下りる訳が無い。
「分かった。ちゃんとした許しが出たらな」
「約束よカミーラ!」
「ああ。分かった」
私は食べ終えた食器を手早く片付けると、盆を持って立ち上がった。
「ちなみに今からの許しも1人で得てくれ。私は関係ない」
「何を言ってるのよカミーラ? 今からのっ……ひぃっ!」
スハの背後に立った食堂のおばちゃんが、彼女の頭を掴んでグルッと回した。
よく首の骨が折れなかったものだと思うほどの勢いだ。
「何処に足を乗せてるんだ! このガキがっ!」
「ごめ、ごめんなさいっ!」
「許すわけが無いだろうがっ! バツとしてこの食堂の机全部をピカピカになるまで磨くんだ! 良いね!」
「はっはひ」
その日は夜遅くまでスハは机を磨き続けたらしい。
ただ唯一の予定外は……そんな彼女の姿に軽く飲みに来た上官たちが同情し、私との決闘の許可が下りてしまったことだ。
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