軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

結局私はそれだけの存在なのよ

「これは凄いな。お嬢さん」

それでも必死に抵抗を見せる青髪の女性が苦悶に満ちた顔になった。

あの監視は口調は軽いが優しくも甘くもない。

後ろ手に回していた女性の腕を捻って肩を外したのだろう。その証拠に女性は脂汗を流し震えていた。

「これほどの胸とその美貌があれば男なんて選びたい放題だったろうに」

「うるさ、いっ!」

女性の腕を手に取りグルッと回して外した関節を入れる。

初めてあれを味わったのであろう女性は、ボロボロと涙を溢して苦悶する。

「まあお前さんがここに来た理由はいまいち分からんが、精々食われないように気をつけるんだな? 殺人鬼のホリーさんよ」

言って監視はその場を出て行く。いつも通りだ。

残されたホリーと呼ばれた女性は、外された左肩に手をやりブルブルと震えていた。

ちゃんと入っていればしばらく痛むが問題はない。ただちゃんと入っていなければ、しばらく激痛が彼女を襲うだろう。

と、小柄な少女が肩を押さえる彼女の元に歩み寄る。褐色の肌を持つ異国の少女だ。

「腕は動く?」

「うるさい」

肩を押さえて震える彼女は、その少女を睨んだ。

だが少女は彼女の背後に回ると外された肩に手をやり軽く触れる。

「大丈夫。入ってる」

手を離し自分に向けられた相手の攻撃からも逃れる。

すると少女は自分が纏っている服のスカートの裾を割いて布地の包帯を作りだした。

「固定すれば痛みは和らぐから」

「勝手にっ!」

治療を開始する少女の顔に彼女の掌が襲う。

バチンと大きな音がした。

それでも少女は肩に手製の包帯を巻くと確りと固定する。

「出来たら左手も動かさないよう」

「……」

叩かれても治療し、少女はその場から離れ木陰に移動すると横になった。

見ていて分かった。きっと叩かれた衝撃で気を失いそうになりながらも治療を優先したことが。木陰で丸くなって寝た振りをしているのは気絶を誤魔化す為だ。

やれやれとカミューは髪を掻き上げて新入りの元に向かう。

「……何だ?」

「お前に用はない。あっちに用があるだけだ」

「……」

今にも睨んでいる相手に襲い掛かり殺しでもしそうな気配を見せるのは、ここに来た者の一般的な反応だ。

ここに来るのは大半が絶望を抱えている。唯一場違いなのは彼女を治療したあの異国の少女ぐらいか。

彼女は絶望などしていないように見える。しいて言えば使命感を抱いている。

怪我人や病人が居れば何を置いてもそれを優先して治療する。異質な存在だ。

カミューは止めていた足を動かし木陰へと向かう。

「ああ。ここの食事は朝夕の2回。それと逃げ出そうとした者は例外なく殺される」

「私たちはもう死んでるのよ」

「そうだな」

相手の皮肉にカミューは冷ややかに笑う。

足を止めて相手に体ごと向き直ってスッと右手を動かし指さした。

釣られて顔を動かした青髪の女性はそれを見た。

「確かに私たちは処刑された罪人だ」

カミューが指さしたのは壁の上に立てられた木製の十字架だ。

それには前回新入りを連れて来た監視を襲い脱出を企んだ男が括りつけられていた。

生きたまま喉を潰され十字架に張りつけられて壁の上に置かれたのだ。

「鳥葬って知っているか? 鳥に死肉を啄ませて処理する方法だ」

向けていた指を相手に向け直してカミューは告げる。

「それを生きたままであそこで体験できる。処刑台で絞殺されていた方がどれ程楽だっだろうな?」

言葉を失った相手に背を向けカミューは歩き出した。

別段木陰の少女の身に何かあっても問題はない。問題は無いが治療の知識と腕を持つ少女は出来る限り失いたくない。少しでも長生きをするには彼女は必要な存在だからだ。

「理解して頂けたかな?」

「……ええ」

椅子に縛り付けられた美人の首には、二重に魔法封じの首輪を付けられていた。

赤毛の魔女に対して、施設の責任者と自己紹介した男が下卑た笑みを浮かべる。

ユニバンス王国において優秀で有能……何より最強と謳われていた魔女が目の前に居るのだ。自分に逆らえない状態で。これで少しも興奮しない男は余程欲のない者であろう。

「我々は君の力を借りたい」

「魔法を封じて?」

「ああ。魔法が使えなくても君の知識は大変に貴重だ」

「そうね」

見え透いた嘘に魔女は笑うのをこらえる。

相手はたぶん理解していない。魔法封じの首輪を作ったのが誰かを知っていても、それがどんな物なのかをだ。その気になればこのままでの魔法行使は可能なのだ。

「協力する見返りは?」

「ここのでの暮らしで他の者と比べ優遇しよう」

「それだけ?」

「十分だろう」

両腕を広げて自慢げな相手に魔女は薄く笑う。

どうせ自分はもう何人と殺しているのだから目の前の醜い生き物を殺しても心に来るものは無い。

思い実行しようとして……魔女は自分の右肩に手を置かれた。男性の物だ。

「胸が無さ過ぎるな。これほどの美人はそうそう居ないのに」

「お前か」

監視役の男の登場に責任者は渋い表情を見せる。

彼は自分とは違い『あのお方』の子飼いなのだ。

背後から正面に回り、責任者が使っている机に寄りかかり監視は魔女を見た。

「お前はリグと言う異国の娘を知っているな?」

「それが?」

「手伝えばそれで良い」

はっきりと言って来ない相手に、責任者と名乗った男よりも厄介な相手だと魔女は理解した。

「知っているけど関係無いと言ったら?」

「ならその娘がどうなっても関係無いな。死体になってからお前にはその顔ぐらい見せてやる。確認できる程度に原形が残れば良いがな」

話し合いは終わりとばかりに彼は机から腰を浮かせる。

「……分かったわ。でも条件がある」

「聞くだけ聞こうか?」

足を止めた監視に魔女は息を吐いてその鋭い視線を向けた。

「貴方は私が必ず殺すわ」

「ならば契約成立だ。お前はここで飼い犬たちの道具作りをするんだ。良いな?」

「ええ」

スッとその表情に影を帯びながら魔女は笑う。

「結局私はそれだけの存在なのよ」

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