軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

追憶 カミュー ②

「神殺し? なにそれ」

「興味を持って貰えたのがその言葉なのはどうかと思うけどね」

クスクスと笑う相手に、カミューはようやく自分の体が自由となったのに気付いた。

自然と動く右腕の具合を確認し、いつでも逃げ出せるように身構えておく。

「貴女は神を知っている?」

「知らない」

「あっそう。説明するのは難しいのだけど……不可能がない存在かしらね」

「不可能が無い?」

「ええ。そうよ」

そっとミイラの横に立ち、栗色髪の女性は岩壁に背を預けた。

「その存在に不可能は無い。どんな不可能も可能にし、天から人々を支配していた」

「……もう居ないの?」

過去形で終わった言葉にカミューは自然と問うていた。

「ええ。たった1人の魔女がそれを消し去った」

「魔女?」

「貴女は知っているかしら? 三大魔女の1人、始祖の魔女を」

「……ユーア」

「そうよ」

優しく微笑み、彼女はその顔を洞穴の天井へと向けた。

「彼女はこの地にやって来てから色々なことがあって全てに絶望した。全てを恨んだ。結果として神に挑んで神殺しをなした。そして全てを支配してこの世界を、全てを無くそうとした」

「無くす?」

「ええ。人も木も水も風も何もかも消そうとしたの」

カミューはその言葉に違和感を覚えた。

「……でも消えていない」

「その通りよ。彼女の前に敵対する存在が現れた。刻印の魔女よ」

「……イーマ?」

「ええ。貴女はイーマをどこまで知っている?」

問われてカミューは昔に聞いた話を思い出す。

「刻印の魔女は、栗色の髪を持った女性。その目には不思議な模様がっ」

カミューの言葉が止まる。

目の前に居た女性がゆっくりとその瞼を開いたのだ。

瞳の中に金色の模様を浮かべる存在。彼女は特にその模様が有名である。

「刻印の魔女?」

「世間的にはそう呼ばれているわ」

認めて刻印の魔女……イーマはカミューに微笑みかける。

「私が必死に始祖の魔女の暴走を封じ込んだのよ」

「……どうして殺さなかった?」

「殺せなかった。邪魔が入って」

「邪魔?」

「ええ。彼女の双子の妹……召喚の魔女リーアによってね」

苦笑しイーマはため息を吐く。

「私に協力してユーアの暴走を封じようとしていたのに、あの子ったら土壇場になって姉を救いたくなった」

「ちょっと待って」

自然と進む話にカミューは疑問を抱いた。

「何かしら?」

「三大魔女は生きた時代が違うはず。そう聞いた」

「そうなっているわね」

素直に認めてイーマは自分を指さした。

「私は幾つに見える?」

「20代中頃?」

「おおう……これでもまだ20よ」

地味に傷ついて魔女は胸を押さえる。

『老けたの? 老けたのかな? でも私は齢を取らないし……』などと言う声がしばらく続き、小さく咳払いをしてイーマは硬い笑みを少女に向けた。

「私はずっと年を取っていない。面倒臭いから齢を取ることを止めたの。3人一緒にね」

「……ならズレは?」

「簡単よ。目立った時代が違うだけ。

最初にユーアが魔法を作って広めた。でも暴走し私たちと争った。

次は私が頑張った。あの馬鹿のせいでこの世界は酷く歪んでしまったから。でも私はあの馬鹿との戦いで体に無理が出てて半ば強制的に舞台を降りた。

1人残ったリーアもまた暴走した。召喚魔法を駆使して姉と私を呼び出そうとした。出来ずにあの子も姿を消した」

小さく頭を振ってイーマはカミューを見つめる。

「色々と話が脱線してしまったけど、貴女にお願いしたいことがあるの」

「……なに?」

「私をここから連れ出して欲しい」

「……貴女を?」

「ええ。そしてユーアの復活を阻止する手伝いを」

「断る」

即答しカミューは相手に背を向ける。

洞穴を出て行こうとして……自分の背中に何かが抱き付くのを感じた。

「逃がさないわよ?」

「離せっ!」

「無理。と言うかまた何十年と待つの嫌なのっ! こんな岩山だらけの場所は飽きたのっ!」

「知らないっ!」

必死に抵抗するが刻印の魔女が剥がれない。

肘や足で相手を打つが、当たった実感すら湧かない。

ブヨブヨとした何かを蹴るようなそんな感覚に襲われる。

「逃がさないわ~」

「何か怖いっ!」

「い~っひっひっ」

悪乗りした魔女は少女の全身を撫でて確認する。

やはり素材としては申し分ない。何より魔力を得ているのにそれに気づいてさえいない。

拾い物だ。気紛れに数年振りに起きた自分を褒めたくなるほどの大当たりだ。

「大丈夫大丈夫。痛いのは最初だけで、後は激痛で気絶するから」

「そんなの嫌だっ!」

「あ~。人は諦めが肝心だと思う」

「この化け物がっ!」

反動を付けて背後に飛び、背中から床へと倒れ込む。

だがカミューは自分の背中を強かに打ち付け息を詰まらせた。

「良かった。これでやり易くなった」

「げほっ……何を?」

馬乗りになった魔女が覗き込んで来る。

ゆっくりと動いた彼女の手が顔の前に来て……3本の指が目の前へと来た。

「綺麗な茶色の目だけれど……ごめんなさいね。今回は準備不足でこの色を残してあげられない」

「やめ、ろっ!」

押し込まれて来る指が眼球を押し込む様に眼窩へと入って来る。

言いようの無い痛みに全身を震わせ……カミューはそれでも相手を睨んだ。

「この目を"私"と取り替える。でも安心して……しばらくは使い方を教えるから」

押し込まれた指に掴まれ引き抜かれるような勢いを目に感じる。

間違い無く片目を引き抜かれたのだ。

「うあぁぁあああ~!」

「ごめんなさいね」

絶叫し血液が溢れて少女の顔を濡らすのを魔女は見つめていた。

「でも準備を急がないと……あの馬鹿がそろそろ動き出しそうだから」

引き抜いた目玉を投げ捨て、次いで隣りの目玉へと指を伸ばす。

「何かあってこの世界がまた歪みでもしたら……あの魔女は今度こそこの世界を消してしまうから」

容赦無くカミューの無事な方の目に彼女は指を突き刺した。

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