軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

追憶 カミュー ①

その少女は大陸中央に存在する小国で拾われた。

両親の顔など知らない。知る訳が無い。

産着に包まれ放置されていた彼女を拾ったのは乞食の老婆だった。

育てれば売れると思い拾われた少女は愛情とは無縁の環境で育った。

それでも最低限の栄養は与えられていたが……拾われて3年が経ったある日、老婆が寝床の掃除をする為に表に出して置いておくと、少女は忽然と消えたのだった。

以降少女の姿を見た者は居ない。

「良いか? 飯が欲しければ殺せ」

「……」

『 頭(かしら) 』と呼ばれる男の命令に少女は躊躇わない。縛られ転がされているモノに歩み寄ってナイフを振るう。

一刺し、二刺し……と先端を人体の急所に迷うことなく押し込んでいく。

両手が生温かな液体で濡れ、鼻を血液特有の臭いが刺す。

グギッと安物のナイフが折れた。

手入れなどしていない粗悪品が物言わない肉塊に挟まり折れたのだ。

迷わずナイフの柄を捨て、少女は握り締めた拳で肉塊を殴り出す。

鈍い音が響き、死体と化しているモノを殴り続ける様子に頭ですら息を飲んでいた。

ここまで殺すことを迷わない存在は珍しい。

「もう良い。止めろ」

「……」

手を止めた少女は死体に冷たい視線を向け続ける。

何かを確かめているようなその視線は……まだ生きているのか確認しているようにすら見えた。

頭と呼ばれる男性は背筋に冷たい何かが走り、体をブルッと震わせながらも少女に笑いかける。

「よくやったカミュー」

「……」

「飯を食って良いぞ」

「……」

返事もせずに歩き出した少女は、そのまま食事へと向かった。

ボソボソの黒パンと屑肉と屑野菜のスープ。

いつも通りの食事を栄養として吸収し、彼女の食事は終わる。

味など気にしない。何を食べても味など感じないからだ。

使い終えた食器を片付けカミューは外に出る。

今居る場所が何処かなど知らない。ただ岩山の中腹に存在する洞窟の1つだ。

外に出ても何も無いが、椅子代わりの石ぐらいはある。

それに腰かけて空を見ながら眠るのがカミューの日課だった。

雨の日も、曇りでも……彼女は必ず外に出て空を見上げる。

自覚していた。今が底なのだと。

絶望のどん底。これ以下は"死"だけの場所だ。

だから下は向かない。下を向けば自分の手で作りだした躯と同じ存在になる。

上を見て足掻くしかないのだ。

と、少女は弾かれたようにその場から離れて身構える。

基本はナイフだが相手の油断を誘うために武器を携帯しないことも多い。

握り締めた拳が最も信じられる武器なのだ。

だから固く握りしめてカミューは気配を探る。

確かに感じた。嫌な気配を。

静かに辺りを見渡し……何も居ないことを確認して、少女は自身の武器を降ろした。

「甘いわね」

咄嗟に握った拳を背面に振るう。

足を引いて上半身を回しながら放った拳は空を切る。

「これで2度死んだ」

また相手の手が首の後ろを触れる。

拳では無くて蹴りを背面に叩きこむが空を切る。

見えない相手に……カミューは内心で激しく動揺しながら拳を握る。自分の武器はこれしかない。

「どっちでしょうか?」

コツっと音がした。左右、同じような距離からだ。

咄嗟に視線を左に向けて右の拳を振るう。だが空を切る。

「はい残念。逆でした」

「くっ!」

改めて左の拳を硬く握り、右に向けて体を振れば……相手は居ない。

また虚しく空を切る拳をそのままに、カミューは動きを止めた。

「諦めたみたいね」

また声がする。

どんなに耳を澄ましても、声以外の音は拾えない。

『相手は本当に人なのか?』

その疑問を抱いたカミューの突き出したままの拳にに、そっと何かが触れた。

ジワジワと滲み出るように姿を現した存在……それは栗色の髪が特徴的な女性だった。

「私は強いから無駄な抵抗は止めなさい」

姿が見えたから一発と考えたカミューだが、相手の言葉に従った。

本能が告げて来るのだ。相手が"化け物"だと。

「良い子ね。こんなに死臭を身に纏っているのに」

クスクスと笑う女性は目を閉じていた。

「実はちょっと困ってて……助けて欲しいの」

「……」

「お礼はするわよ?」

「……」

「もしも~し? 聞こえてますか~?」

返事を寄こさない少女に、栗色髪の女性が覗き込む。

目を閉じたままで覗き込んで来た相手に対し、カミューは拳を握り殴りつけた。

「はい。無駄無駄無駄~」

ヌルッと回避されてイラッとしたが、相手の手が伸びて来て額に何かを綴られた。

両腕に何か重たい……重石のような物を付けられたかのように感じ動かせない。でも足は普通に動いた。

「無駄な抵抗は止めなさい。さっ……こっち来て」

命じて歩き出した相手をカミューは見送る。ついてなど行かない。

スタスタと歩いていた相手は軽く振り返ると、また空中に何かを綴ってそれを指で弾いた。

「ついて来るの。とっておきを貴女にあげるから」

今度は勝手に足が動き出し……カミューは強制的に彼女の後をついて歩き出した。

それからカミューは小さな洞穴へと案内され、そこでミイラ化した遺体と出会う。

岩壁に寄りかかり眠るように死んだ女性の死体だ。

「この子も頑張ってくれたんだけどね……突然の持病の発作には勝てなかったみたいで」

その横に立った栗色髪の女性は、ミイラの頭を撫でながら呟いた。

「だから貴女に引き継いで欲しいの」

「……何を?」

言いようのない不安にカミューの口が動いていた。

クスリと笑った栗色髪の女性は、そっとのその閉じた瞳を少女へ向けた。

「神殺しの手伝いかな? そんな感じのことよ」

クスクスと笑って女性は閉じていた目を開いた。

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