軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

わたし、のこと

今日の仕事を全力でやっつけて帰宅した。

ポーラは常に僕らの後ろに居て、泣き出してしまいそうな表情でノイエの背中を見つめていた。

優しい義妹がこんなにも心配しているのだから、お姉ちゃんにも頑張って欲しいところだが……今はノイエの気が済むまで泣かしてやりたい。

だけど手を離したらそのまま消えてしまいそうなほど弱っている彼女を見ると不安になる。

それを理由にしている訳じゃ無いが、本日は終始彼女と一緒だ。出来たらトイレも一緒に行きたいぐらいの気持ちだったが、メイドさんたちの全力阻止を受けて諦めた。

馬鹿兄貴が南部調査を開始したらしく、国の南部に領地を持つ貴族たちから大ブーイングが上がったそうな。ウチは西部に属するので気にしない。そんなイベントなどナレーションベースで勝手に済ませろと言いたい。

帰宅すると近衛の小隊が屋敷の護衛についていた。陛下の指示らしいので僕が異を唱えることは出来ない。飲み食いだけでも自由にして欲しいと思い、メイドさんたちに『存分にやってしまえ』とだけ命じて置いた。食事に手を抜かないドラグナイト家の本気を見るが良い。

お風呂はノイエと2人で済ませようと思ったが、ポーラも一緒に入り一生懸命お姉ちゃんのお世話をしていた。

体を洗い髪を洗いと、普段ノイエにして貰っていることを彼女がする。

されるがままのノイエは時折涙を溢れさせては泣き出してしまう。

それを見つめ我慢出来なくなったポーラも泣き出すし……普段より大変なお風呂になったけれど、何故だか家族を感じられた気がした。

「ノイエ」

「……」

抱き付いたままのノイエから何ら反応は返って来ない。

それでも僕は彼女の頭を撫でてやると、涙を浮かべたノイエの目がこっちを見た。

「大丈夫。明日からもっと頑張るからさ」

「……」

小さく口が動いたが声は無い。

また僕に顔を押し付けてノイエは肩を震わせる。

彼女の頭に手を伸ばし抱きしめながら僕は口を動かした。

「何してるんだよ。少しは根性見せろよ……全く」

こんな弱ったお嫁さんが相手だと子作りなんて出来ないだろうが。

「ふー。ふー。ふー」

荒い呼吸を放ち、顔の半分を血で濡らしたジャルスは目の前に居る藁の化け物を見据えた。

施設で学んだことを実践してみせる馬鹿共たちのお陰でどうにか敵の数は減らせた。

それでももう限界だ。

左腕の回復は間に合わず、何より今までの戦いで右腕も失くした。

棒立ちになって相手を睨みつけるだけの存在……そんな相手に藁の化け物はゆっくりと包丁を構えた。

「わるいこは」

「わたし、のこと」

静かに響いた声に藁の化け物が振り返る。

とても小柄な少女が立っていた。栗色の前髪で顔の半分を隠す少女だ。

「わたしは、わるいこ。だから……ふふふ。あははっ」

弾ける魔力に藁の化け物は逃げ出そうとした。

しかし足が動かない。違う。足の甲に目に見えない何かが突き刺さり床に固定されたのだ。

咄嗟に包丁を投げつけようと身構えた藁の化け物は、自身の背後から長い紫の髪が纏わり付くのを見た。

「やらせないよ。一緒にやられな」

自分の髪を化け物に纏わり付かせ、解かれないように噛み締める。

ニヤリと笑ったジャルスは、その目を小さな化け物に向けた。

「やりなファシー!」

「千切」

放たれた魔法でジャルスと一緒に化け物は無塵にされた。

魔法を放ち終えたファシーは大きく体を揺らすと前のめりに倒れる。

魔力の使い過ぎで限界が来たのだ。

「ほっほっほっ……めり~くりすま~す」

フラッとやって来た髭面の存在にファシーは必死に右手を向ける。

だが髭の化け物は『ほっほっほっ』と笑いながら歩いて来ると、少女の右手を踏み潰し……そのまま捕らえて袋の中に放り込んだ。

「あら? なまはげが全滅か……」

想定外だったが、問題はない。

刻印の魔女は新しく捕まえた2人を確認し、魔眼の中を確認する。残りは2人だ。

「私の能力を使っても良いのだけれど、それだとつまらないわよね」

クスクスクスと笑い魔眼その物を使うことは止めにする。

自身の肉体である魔眼を使うのはフェアじゃない。

静かに視線を天井に向け、刻印の魔女はその口を動かした。

「そろそろ動くかしら……システムの管理者様?」

クスクスクスと笑い魔女はそれを待った。

管理者……神の代行者が動き出すのを。

ノイエを慰め続ける。

泣き疲れて眠ってくれれば良いのに、祝福が発動して疲れ知らずのノイエさんなのだ。

ウリウリと頭を撫でて彼女の気が済むまで……うん。気が済むまで付き合ってやる。

覚悟を決めてまた頭を撫でると、ピクッとノイエが反応して僕の胸を押して離れた。

もしかして戻ったか?

ベッドに押し付けられた格好から脱し、顔を上げたらノイエはベッドの上で座っていた。

ただ視線が窓の方に向いている。『誰か来たのか?』と思ったが、こんな時間に誰が来る。来るとしたら暗殺者の類かっ!

慌ててノイエを護ろうと彼女を背中から抱きしめる。

今のノイエは祝福を2つしか持たないただの女の子だ。

だが彼女はこっちに目も向けず窓に……揺れるカーテンを見つめたままだ。

「ノイエ?」

抱きしめて居るから分かる。彼女は震えている。

「……お姉ちゃん」

ポツリと呟いた声にカーテンが大きく揺れた。

ローブ姿の人物が姿を現した。

「カミュー……お姉ちゃん?」

ノイエの声に『カミュー』と呼ばれた彼女が小さく笑った。

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