作品タイトル不明
この変態上司がっ
正式な手続きを踏んで面会を求めて来た相手は思いもしない人物だった。
相手の言葉ももっと想像していないことでもあったが。
「1つだけ伺いたい」
「どうぞ」
「……ウイルアム殿は本当に?」
「ええ。夫が例の2つの施設を作りました。世迷言かもしれませんが……我が夫は本当にこの世から争いを無くそうとしたのですよ。強大な暴力を用いて」
深く深く息を吐き、ユニバンス国王であるシュニットはゆっくりと目を閉じた。
目の前に座る夫人……スィーク・フォン・ハルムントは王族に名を連ねる数少ない存在だ。
そんな彼らの前当主が"あの"施設を作ったのだと言う。
本来なら見逃せない。身内だからと言って無罪には出来ない。
「アルグスタが画策したのですか?」
「ええ」
「……」
だが目の前の夫人は大きな功績を上げている。
ユニバンスに逃亡していたウシェルツェンを捕え王城まで連れて来ているのだ。
そのお蔭で王国の北東部に新領地を得た。
一応ウシェルツェンが統治する共和国の一部となっているが、運営に必要な人員を送り込んだこともあり、彼の領地は実質ユニバンスの物となっている。
北西部の新領地と同じく、いずれ彼の者たちが力を持てば独立する可能性はある。
ただそれまでにユニバンス王国内の内政に努め、国を豊かにしておけばこの国はまた戦うことが出来る。
侵略者として名を残しそうなシュニットだが、これからの仕事は内政なのだ。
何よりそれは彼が得意としている分野であり、本来の力を発揮できる。
その土壌を作りだしたハルムント家の功績は大きい。大き過ぎるのだ。
「もし誰かがそれに気づき騒いだら……私は全力でハルムント家を護るしかない訳だな」
「ええ。貴方が恩知らずの国王と呼ばれることをいとわないのであれば……わたくしたちを斬り捨てるのもありでしょう」
「それをしたら我が王家はもっとも敵に回してはならん家を敵に回す」
「ええ。アルグスタを敵に回すのは得策では無いでしょう」
ドラグナイト家が持つのは個の力と王国随一の資金力だ。
優れた物を持つ上級貴族など王国内に幾つも存在するが、彼の家だけは本当に別格なのだ。
何せたった2人で共和国を攻め、国家運営を傾け内乱寸前にして戻って来たのだから。
国王として決して敵に回してはいけない存在である。
彼の者を信じられないなら暗殺すら考える存在だ。
だがシュニットは弟であるアルグスタを信じている。
彼は『家族』や『親しき者』に害をなされなければ決して動かない。逆を言えば何かあれば大国であっても喧嘩を売り殴り込んで来る馬鹿者だ。
「私が王をするよりアルグスタが王をした方が良い気がするのだがな」
「それはどうでしょうね」
「?」
自分の言葉に異を唱える叔母にシュニットは目を向ける。
夫を喪ってから喪服のような黒いドレスを着て過ごす彼女は、洗練された動きで紅茶を口にしていた。
「あれはこれからも何かあれば、この国を出て何処までも行って喧嘩をすることでしょう。そう考えれば国王などしていたらそれが足枷になります」
「ならば今のままで好きにさせよと?」
「ええ」
ソーサーにカップを戻しスィークは王を見た。
「あの2人であれば、この大陸を制覇してもおかしく無いでしょうね」
「……そっちの方が大問題な気がするがな」
額に手を当てシュニットはやれやれと頭を振るのだった。
「……この変態上司がっ」
激怒したクレアが腕を振り回して突進して来た。
いや待て新妻よ。一応君だっていずれは、そういうことになるはずだろう?
ブンブンと腕を回すクレアの額に手を当て腕を伸ばしつっかえ棒にする。新〇劇だな。
「どーんです~。あれ? 何してるです~?」
クレアと遊んでいたらチビ姫までやって来た。
「聞いてよチビ姫」
「言うです~」
何故か無い胸を張ってチビ姫が踏ん反り返ったぞ?
「この1年ノイエと頑張っているのに子供が出来ないのです。どうしてでしょうか?」
「……知らないです~」
ブンブンと腕を回してチビ姫まで突撃して来た。〇喜劇の追加は想定して無かった。
とりあえず馬鹿2人の突進を耐え忍んでいると、開いたままの扉の前にメイド姿の女性が立った。
「失礼しますアルグスタ様」
「どうも」
こちらの様子をチラッと確認すると、メイド長が自分の仕事を済ませて退出しようとした。だが逃さん。
「メイド長~」
「……何でございましょう」
嫌々といった感じで足を止めた彼女がこっちを見た。
「この1年ノイエと頑張っているのに子供が出来ないのです。どうしてでしょうか?」
「……ご回数は?」
「ほぼ毎晩?」
ピタッと突進を繰り返す馬鹿2人が止まった。
「重ねてご回数は?」
「ほぼ毎晩……複数回?」
馬鹿2人が逃げるように離れると互いを抱きしめ合って震えだした。
ちょっと待て。そのリアクションは流石に傷つくぞ?
「ですと、どちらかが子供を作れないお体の可能性が高いかと」
少し真面目な顔をしてフレアさんがこっちに来た。
「ノイエ様はまだ若かったから子を作りにくいと思っていましたが」
「そうなの?」
僕から見たら十分大人だと思いますが? 色々な部分で本当に。
「むしろこっちの2人の方が幼過ぎると思うのですが?」
「ええ。御二人は子を作らない方が良いかもしれませんね」
「ちょっとお姉様っ!」
「今はただのメイドです」
抗議する元妹に塩対応するメイド長。
でも何となくフレアさんの言葉が正しい気がする。こっちの世界には帝王切開とか……あの医者の先生なら切らなくても手掴みでどうにかしそうだけどね。
ただ我関せずとソファーに座ったチビ姫が紅茶を啜る。
あ~。そっか。ここの夫婦は子作りしないんだよな。
と言うか陛下は種無しになる薬を飲んでるから子供が出来ないのか。
「チビ姫は子供を産んだりって言う希望とか無いの?」
何となく気になったから質問したけど……しちゃいけない言葉だったかな?
「はいです~。私は子供を産みたくないので出来ない方が良いです~」
「それは何故?」
クスッと笑ったチビ姫が、いつもの笑顔とは違い凄く冷めた表情を見せる。
「私はセルスウィンの血が大嫌いなのです。本当に滅びれば良いと思っているので……です~」
思わず語尾を忘れるくらいガチギレしていらっしゃいます。
「……ケーキ食べる?」
「はいです~。だからアルグスタおにーちゃんは大好きです~」
笑顔に戻ってチビ姫はケーキのメニュー見つめだす。
クロストパージュ家の2人は……クレアの突進をフレアさんが腕を伸ばして耐えていた。
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