軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

人の居ない所に

「あめです」

「だね」

馬車の窓に張り付いたポーラが、馬車の外を見て残念そうな声を出している。

ノイエは僕の横で抱き付いて……ある意味で定位置だ。

「きょうはじょうばのれんしゅうができません」

「替わりに室内で勉強すれば良いんだよ」

「はい」

好奇心が強いと言うが、僕の役に立ちたいと言う意思が強いポーラは本当にどん欲だ。

最近では魔法以外に乗馬に何故か弓まで習い出した。

ポーラの背後にスィーク叔母様の影がチラチラと見えるから、あの人が唆しているのは分かる。

それでも何でも学ぼうとする彼女の様子に、お城の中では指導する人たちが『あの小さなメイドに負けたらダメだぞ』と言うのがお約束になりつつあるとか。

確かにメイドに負けちゃいけない気がするけど、ポーラは騎士にしようと……まあ良いです。

「ノイエ」

「はい」

「今日はお昼頃に呼ぶから着替えたら来てね」

「……はい」

今の間は何だ? 最近特に物覚えが悪くなって無いか?

「分かった?」

「平気」

「……」

「本当」

若干泳ぎ目でそう言われても不安になる。

まあ呼ぶ時に着替えを付け加えれば大丈夫だろう。

問題は魔法学院に入る手続きって意外と面倒臭いらしいんだよな。

僕はこれでも一応王族で魔法使いだから提出する書類は少なくて済むんだけど、魔法使いじゃ無い王族とか書く量が倍になるとクレアが前に言ってたな。

「にいさま」

「ん?」

「ねえさまとどこかに?」

僕らの会話が気になったらしいポーラがペタンと座ってこっちを見て来ます。

メイド服姿で女の子座りとか暴力的な破壊力があるな。ロリーな人でなくて良かった。

「今日はノイエと……」

気づけば目の前に魔力持ちのメイド……では無く我が家の暫定的義妹が居るのです。

フハハハハッ! そうだ。ポーラが居たじゃないか!

「ポーラ」

「はい」

「今日は午後から出掛けるので付いて来なさい」

「はい」

置いてけぼりを食らうと思っていたらしい彼女が笑顔で頷いてくれた。

そうだよ。ウチにはポーラが居たんだよ。すっかり忘れてた。

「魔法学院の見学ですか?」

「です。ほらウチのポーラを将来的に預ける可能性もあるからね。保護者として一度ぐらい学院内を見ておかないとダメだと思うんです」

「……1回しか使えない手ですよ? これ?」

「構わん。使える時に使えるモノを確実に使うのが僕の性分です」

「分かりました。これなら申請書類はかなり減らせると思います」

手にしたボードの内容を確認しながら、クレアが必要書類を書きだす。

去年丸投げした印刷機の方は実用化されて使われ出しているけど、刷られるのは使用頻度の高い書類ばかりなので、年に数度しか使わないような書類はまだ手書きだ。

そして何気に字だけは上手なクレアはこうして書類のひな型を作る仕事が主だったりする。各部署に書類の提出回収の業務はイネル君の仕事になってるけどね。

もう流石にクレアをイジメるような命知らずは貴族のお馬鹿な子供たちは居ないと思うが、それでもイネル君は心配なのだろう。

うんうん。立派になったな。

急遽本日の主人公になったポーラは魔法学院に行くと言うことで、テーブルで魔法語の書き取りをしだした。ふらりとやって来る2代目メイド長がその様子を見てはダメ出しをしているけど。

アイルローゼ流の教えは、絶対にスパルタなのだと思います。

「急にどうしたんですか?」

「ごめんねアーネス君」

「いいえ。これも仕事ですから」

ノイエとポーラを連れて魔法学院の門を潜る。

一応身体検査的なモノを受けるが、王族な僕らは形式だけだ。

何より僕は常に剣など持ち運ばない。何故なら隣にノイエが居るから。

出迎えてくれたのはこちらが指定した案内役のアーネス君だ。

彼はまだ学生だけど成績優秀で講師の代理を務めている。

「で、最近はどうよ?」

「……何がですか?」

ちょっとギクッとした感じでアーネス君の視線が泳いだ。

「モミジさんとどうよ?」

だが逃さん。面白そうな話はいつでもウエルカムなのだ!

「……彼女はご実家の都合で王都郊外に出たまま戻ってきてないので」

しょんぼりしながら彼がそう告げて来た。

そう言えばそうだった。ドラゴン500匹退治しないと終わらないマラソンに出てたな。

ただ王都郊外だとノイエと言うドラゴンスレイヤーが居るから……頑張れモミジさん。

「でも郊外に出るまで仲良くしてたとか聞いたよ?」

イネル君やクレアがケーキを買いに行く時とかに2人仲良くデートしている姿を見たとか、目撃情報が上がっているのです。

よってうりうりと肘で突いたら彼は顔を真っ赤にさせた。

「えっと彼女はその……とても刺激的で」

ん?

「フレアとは違った感じで凄いんです」

んん?

「でも彼女の求めが凄すぎて……」

あ~。これは聞いちゃダメなヤツだ。

とりあえずポーラの耳を塞いで、アーネス君がどんな風な飼い犬になったのかを確認した。

「と言う訳でアーネス君」

「……はい」

自分の屈折した性癖を暴露してしまった彼は、何とも言えない表情で僕らから視線を外している。

それを生暖かく見守ってやるのが大人の優しさだと思う。彼の方が年上だが。

「この子がウチのポーラです。まだ魔法の初歩的な勉強しかさせていないけど、何となく将来有望な気がするんでこの学校に預けるかも知れません。そんな訳で軽く学院内を案内してくれないかな?」

「ええ。大丈夫ですよ」

「ポーラも良い子にするんだぞ。なら宜しく~」

ノイエを連れてフェードアウトしようとしたら、アーネス君とポーラが慌てて制止して来た。

「宜しくってどこに行くんですか?」

「ちょっとノイエと人の居ない所に」

「そんな無茶を言わないで下さい」

無茶は言っていない。聞き方によっては卑猥なだけだ。

「大丈夫大丈夫。悪いことはたぶんしないから。人さまに見られたら拙いことはするかもだけど」

「しないで下さい。一緒に来て下さい」

「あはは~。だからちょっとね~」

ノイエを連れて強引にその場から逃げ出した。

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