軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

みんな……楽しいよ

馬鹿な同僚の回収を部下たちに任せ、フレアは帰還準備をしている王子の元に歩み寄った。

馬の首を撫でていたハーフレンも彼女の接近に気づいて体を向ける。

「ハーフレン王子」

「何だ?」

「隊長の結婚のお話ですが」

「ああ。報告が遅くなったな」

陛下をノイエ小隊の面々と一緒に見送り、待機所に残った近衛団長にフレアは声をかけた。

何も知らなかった事柄を確認しておきたいからだ。問題になりそうな芽は早くに摘んだ方が良いから。

「ノイエに対する大国の干渉を知っているか?」

「ええ。何でも結婚させたいとか何とか」

「そう言うことだ」

面倒臭そうに頭を掻いたハーフレンは、掴んでいた馬の手綱を部下に押し付け、フレアを連れて丸太の椅子へと移動する。

昔とは違い距離を開けて並んで座った2人は……ハーフレンは口を開いた。

「ウチの貴族たちはノイエのあれを知っている。だから怖じ気づいて結婚する者が居ない」

「隊長が持つ免罪符のような許可が厄介ですね。少しでも彼女が相手に殺意でも抱けば……殺しても罪にならない」

クスリと笑い、フレアは妾を5人も持つ相手を見た。

ノイエが妾という存在をどう思うかは分からないが、自分だったら絶対に許せない。

「その対策として『他国から嫁いで来た者でもそれを適用する』と言う一文を慌てて付け加えたが、それでもノイエに対する求婚は後を絶たない」

「結婚させて『家族に挨拶させたいので』と言って連れて行かれる」

「そう言うことだ。それを拒否する法は無いし、何よりノイエの為に法を作り過ぎれば今度はこっちの首が締まる。現状もう首が締まっているしな」

本当に困った状況なのだ。

宰相であるシュニットは『自分の側室にしても良い』と言っているが、それは大臣たちが全員で反対している。大国の息がかかっているのは間違いないが。

「俺の側室にと言う意見もあったんだがな」

「……」

呟かれた言葉にフレアは自分の胸がキュッと締まる思いがした。

息苦しさを覚えながらも表情一つ変えずに居た。もう何年とそうして我慢し続けて覚えた反応だ。

「親父が反対して流れた」

「陛下が?」

「ああ。まああの人が何を考えてそう決断したのかは……こっちの話だ。気にするな」

共和国の姫を正室としたシュニットが仮に子供を作るようなら国が荒れる。だから自身の息子を次期国王とするのは決定事項だ。自分の身に何かあればその考えが崩れる。

一番の問題はシュニットはもう子種を潰す薬を服用している。彼は子供を成すことの出来ない体になっているのだ。

「国を支配する地位って言うのも本当に厄介だよ。何よりアルグスタが拒絶しているしな」

嘆息気味に呟きハーフレンは立ち上がる。

彼の場合は一族を殺され、そして自分は使い捨ての駒になれと言われているのだ。

誰が協力的になるだろうか? 下手をすればノイエと結婚してから問題を起こしかねない。

ガシガシと頭を掻いて苦悩する彼の背を見てふとフレアはそれを思い出した。

自分の親戚であり、とある学院長の存在をだ。

「ハーフレン王子」

「何だ?」

「バローズ様にお頼みするのは?」

ハーフレンはその言葉に胸の内でため息を吐いた。何度も自身が考え拒絶した方法だ。

「弟子である者たちを多く失ったあの人に、これ以上人を壊せと言うのか?」

「ですが国に関わる大切なことですから」

冷たく理知的に彼女はそう言い放つ。

そうなるように 彼(か) の人物に依頼したハーフレンとしては何も言えない。

これが自分の過ちであると理解し後悔しているからだ。

「今のアルグスタを地下牢から出すことは出来ない。それにあの人は王都に来ることは無い。お前の言う方法は使いたくても使えないんだ」

「……そうですか」

「まあ俺と兄貴であの馬鹿な弟を説得するさ」

苦笑しハーフレンはフレアに顔を向けた。

最愛の人は昔と変わらず綺麗な女性へと育った。

彼女の心を壊させた自分が褒めるのは違う気がするが。

「フレア」

「はい」

「彼氏とはどうだ? 婚約したとか聞いたが」

グッと心が軋んだ。フレアは耐えて笑みを浮かべる。

「はい。両親も乗り気なので彼が卒業したらと考えてます」

「そうか。ならそれに備えてルッテを教育しておけ。抜ける穴は自分で補っておけよ」

「……はい」

胸の軋みを表に出さず、フレアは彼の言葉にそう返事した。

「これが正攻法だが……アルグスタが素直に応じると思うか?」

「分からんよ。でもそれぐらいしか選択肢が無いだろう。暴力の類は親父が禁止しているしな」

自決用の毒が詰まった小瓶を手にしたシュニットの様子に、ハーフレンは苦笑いを浮かべる。

生と死を提示し彼にどちらか1つを選ばせる。

観察してきた結果として、牢に居るアルグスタが死を選ぶことは無いと判断された。

まずはノイエとの結婚を認めさせて、それ以降は逐次対応していくしかない。

手の掛かる弟のお陰で……ハーフレンはやれやれと肩を竦めた。

「さてと。親父が気づいて騒ぐ前に片付けないとな」

「そうだな」

2人は立ち上がり地下牢へ向かい歩き出した。

時は静かに流れる。

ノイエはドラゴンを殴り飛ばしている手を止めた。

新年も過ぎて雪の時期も終わった。

ようやく出て来たドラゴンを相手に、本来なら彼女の手は止まらない。

それでもノイエは手を止めて王城へと視線を向けた。感じたことの無い気配を感じたのだ。

今までに感じたことの無い……コクンと顔を傾けノイエの意識が飛んだ。

《嫌な気配ね。まさかまた大規模術式を使用したと言うの?》

髪の色はノイエのままで、赤い目を王城に向けて彼女は思案する。

これほどの魔力を注ぎ込んで使う術式はそんなに多くない。

《今度も始祖の魔女が作ったと言う"時戻しの術式"じゃ無いわよね? まああれは治療魔法と言う名目だから使っても問題はないのだけれど……対象者に変な魔法がかけられて居なければ良いけれど》

苦笑して魔法の気配を確認し、"彼女"は改めて視線を向ける。

前回とは違う魔法の気配だ。この感じは召喚系だろうか?

フッと笑って視線を逸らす。

どうやらこの国も他国を非難できない程度に悪い発想があるらしい。

ゆっくりと意識を手放し、本来の主へと体を返す。

意識を戻したノイエは、王城から視線を逸らしドラゴンが居る方へと視線を向けると同時に飛んだ。

ドラゴンを退治するのが自分の仕事だからそれをする。楽しいから……楽しいはずだから。

「みんな……楽しいよ」

ポツリと呟いてノイエはドラゴンに殴りかかった。

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