軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

殺して俺が王になる

「全てを不問にする。手伝う気は無いのか?」

病気治療中ということで王城内に一室を与えられた息子を前に、国王であるウイルモットは静かに語る。

王子であっても今の彼には自由は無い。手錠をされた彼は捕らわれの身だ。

病的に頬を痩せさせた息子……アルグスタはゆっくりと顔を上げた。

相手は父親であっても一国の王だ。その相手を彼は睨みつけた。

「手伝う? 何を?」

「……お前はノイエと言う者を知っているか?」

「ノイエ? 知らん名前だ」

「そうか」

タインツは息子に何も伝えていなかったのだと理解し、椅子に腰かけている王は息子を見つめる。

その目は諭すような温かみを持った物であるが、色んな感情で自身の目を濁らせている息子は何も感じない。

「ノイエはこの王都でドラゴンを退治している伝説の"ドラゴンスレイヤー"だ」

「それがどうした?」

「故に大国がその者を手に入れようと画策している。分かるか?」

「分からない」

話を聞く気のない息子に王は苦笑する。

「我が国はノイエを失えばドラゴンに食い尽されるだろう。それを回避するにはノイエを手放すことは出来ない」

「そうか。なら俺はその女を殺せば良いんだな?」

強がる息子にウイルモットは膝を叩いて笑った。

「笑わすなアルグスタよ。お前ではあのノイエを殺すことなど出来ない」

「出来ない?」

「そうだ。ノイエは誰を殺めても罪を問われない。制限はあるがな」

グッと身を乗り出しウイルモットは、急の接近に慌てる息子の顔を正面から見た。

ルーセフルトの元で好き勝手に育てられた彼は、王子としての資質を失っている。正直に言えば廃してしまった方が良いようにも見える。

それでも第三王子だ。使い方を変えればまだ使える。

「ノイエがその気になれば儂ですら殺しても罪には問われない。アヤツの取得権益を守る為に色々と決まりを作り過ぎた故の弊害であるがな」

「……だから俺をそいつに殺させると?」

「ふむ。"病死"を望まぬのであればそれもまた1つの手だな。だが今回は別の方法で使う」

ゆっくりと椅子から立ち上がり、ウイルモットはその背を息子に向けた。

「お主にはノイエと結婚して貰う。勿論形のみではあるがな」

「……ふざけるな。そんな化け物と誰が」

「そうであろう。あれは化け物だ」

歩き国王は閉じられている窓を開け、木戸を開いた。

外の景色に目を細めたアルグスタは……一瞬それを見た。宙を舞う白い女性の姿をだ。

「あれがノイエだ。よく見るが良い」

言われ見つめたアルグスタは、本物の化け物をその目で見ることとなった。

鍛練でもしているのか、飛んで来る矢を全て回避しているのだ。それも何も無い宙を蹴って。

踊るように飛来する矢を掻い潜り、宙を蹴って空に居る化け物は……しばらくそうしてから視界から消えた。

「お主にあれを見せるために特別にやらせた」

振り返ったウイルモットも内心で言いようの無い冷や汗をかいていた。

何となくノイエの能力が伝わればと彼女の副官のような存在に打診をしたら『なら隊長には宙に居て貰い矢の的としましょう』などと恐ろしい返事が返って来たのだ。

普通そんなことなど引き受けないと思ったが、豚の丸焼きを食べさせると告げただけでノイエは承諾したと言う。

「お主にはあれと結婚して貰う」

「……ふざけるなっ! あんな化け物と共に生きられるかっ!」

憤り立ち上がったアルグスタの言葉はもっともだ。

だが彼は自分が置かれている状況を理解していない。

王の護衛である者たちが動き、暴れる王子を床へと押さえつける。

騎士に押さえつけられ……アルグスタは激しい怒りの目で父親を睨んだ。

「勘違いするな。お前はあれと結婚し、この王城の一室で暮らすのだ」

「何を?」

「分からぬか? お前の祖父はこの儂に弓を引こうとしたのだ。それを生かしてやる替わりにお前にはこちらの駒となり働けと言っている」

最初向けていた優しさをその目から失くし、ウイルモットは何も理解していない息子を冷ややかに見る。

「お前はノイエと結婚し、生きて居る限りあれの夫として飼い殺すと言っているのだ。そうすればお前の祖父も母親も死ぬまで飼い殺すこととしよう」

「ふざっ」

「ふざけてなどいない。お前の理解が足らぬだけだ」

言い捨ててウイルモットは歩き出す。

息子にその目を向けず部屋を出て行く彼に護衛が従い、最後に残った騎士がアルグスタから手を離した。

その者も退出し1人残ったアルグスタは、床を殴りやり場のない感情を激しく向ける。

何度も何度も床を殴りつけ、彼はそのまま転がり天井を見上げた。

「ふざけるな。王も2人の王子も俺が殺す。殺して俺が王になる」

沸々と沸き上がる感情に、アルグスタの脳裏にそれが思い浮かんで来る。

『王城の一室で1人になったら窓を開けて外を見ろ』

誰の言葉だったか思い出せないが、彼は命じられたままで開かれた窓の傍に立つ。

ずっと外を眺めていると、自身の顔の横を何かが通り抜けた。

慌てて振り返れば先を布に巻かれた矢が壁に当たり床に転がっている。それを掴むと紙切れが縛られていた。

『準備は終えています。いつでも決行することが出来ます』

紙切れの内容を見つめアルグスタは思い出す。自分は捕らわれてこの場所に来たのではない。

王と2人の王子を殺し、自身が国王になる為にこの場所に来たことを。

「ふはは……あはははは……」

込み上がって来る笑いにアルグスタは手にした紙を握り締めた。

「殺してやる。全てを、王家の者は全員だ」

「どうかしましたか? 隊長?」

「はい」

半身の豚を持ってモグモグしていたノイエが、急に王城の方を見出したのでフレアは声をかける。

一応離れに暮らしているので彼女があっちに行って暴れないと信じてはいるが……何分ノイエだ。何をするか分からない。

「美味しい」

「そうですか」

意識が食事に戻り、またモグモグしだしたのでフレアは胸を撫で下ろす。

今日は急遽集められた者たちと一緒に肉を焼いてそれを突っつく。食いしん坊な2人が居ないが仕方ない。片方は謹慎中だし、もう片方は家で家族と過ごしている。

「フレア様」

「はい」

「落ち着いたらもう一度お願いします」

「……分かりました」

新年の休みで暇を持て余している男たちは娯楽に飢えていた。

その娯楽解消に、フレアは自身の強化魔法を受けた薪を切った者に金貨一枚と言う遊びを提供した。

結果として剣の刃を欠く者が続出しているが、挑戦者が後を絶たない。

「隊長」

「はい」

「こっちもどうぞ」

「はい」

約束では豚を丸ごとだ。

半分しか食べていないノイエは、もう片方を掴んでモグモグとし始めた。

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