軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

私がこの地の支配者となれるのですから

「つまらんよ。エルダー」

「そう言わないで下さい。アルグスタ様」

「夜会もつまらんが、こんな部屋に籠るのもつまらん」

王都から移って来てからずっと使っている部屋で、青年はため息を吐いた。

師である従兄弟から学んだ交渉術の実戦と言うことで、夜会に出ては同世代の男女と話をして来た。しかし参加している者の質が悪すぎて馬鹿ばかりだから練習にもならない。

男共はこぞってゴマを刷っては甘い蜜に預かろうとして来る。女共は胸を強調したり、尻を振ったりして"正室"の地位を狙って来る。

こんな低能な相手に学べることなど無い。

「正直に言えば俺は王都に行きたい。祖父は武力で兄たちを廃しようとしているが、俺なら実力で兄たちを廃することが出来る」

座っていた椅子から立ち上がり、彼は従兄弟であるエルダーに詰め寄る。

「そうだ。俺は優れた……選ばれた人間なのだから、こんな場所に隠れている必要なんて無いんだ! 今すぐにでも王都に行って俺の優秀さを知れば、陛下も王位を譲るはずだ!」

「ええ。アルグスタ様は本当に優れた人物ですからね」

「そうだろう」

子供のように目を輝かせる相手にエルダーは内心で嗤う。

よくもここまで計算通りの馬鹿になったものだと感心すらする。

「ですがアルグスタ様。王都に行くことは大変に危険です」

「どうしてだ! 俺ならこの優れた実力で」

「それですよ」

静かに穏やかな声でエルダーは語り掛ける。

「貴方は優秀過ぎる。それを知れば2人の兄は面白く無いでしょうね。きっと憎く思うことでしょう。貴方が居なくなればと思うでしょう」

甘く甘く頭の中に広がる声に、アルグスタはぼんやりと相手を見つめる。

「きっと貴方は暗殺されるでしょう。優秀過ぎるから」

「……嫌だ。どうして俺が?」

沸々と沸き上がる感情は怒りよりもどす黒い。言うなればそれは殺意。明確な殺意だ。

「だからやられる前にやるのですよ」

「やられる前に?」

「ええ」

クツクツと笑いエルダーは言葉を続ける。

「きっと今回、王家の者たちはこの街を掃除するでしょう。ですから貴方たちは余り抵抗せずに掴まるのです。そして王都に行き……王都に仕込んである部下たちを使い2人の王子、そして国王を暗殺なさい」

「全員殺す?」

「そうですとも」

笑いながら、棒立ちになっているアルグスタの耳元でエルダーは囁く。

「ユニバンス王家など滅んでしまえば良い。良いですね?」

「……はい」

軽く指を打ち鳴らし、エルダーは倒れている椅子を起こした。

焦点の定まっていないアルグスタを座らせる。

「大丈夫。貴方の祖父も母親もこの計画を知っています。王都に行き準備が整えば計画を実行するのです」

「分かった」

もう一度指を鳴らすと、エルダーは彼に施した魔法の具合を確認する。

噂に聞いた"魔女"が王都にでも居てアルグスタを見ることがあれば、もしかしたら彼に施した魔法を見破るかもしれない。だが最大の難敵は『皇』がこの地に訪れた時の素晴らしい教えに従い行動した結果……捕らわれ処刑されたと言う。

《まあ生きてもう1つの方の施設に居たとは……生きていればこの上ない素材として遊べたのに》

近衛の副団長だったハーフレンの手により暴かれた施設。あちらには使える素材が集められていた。

それを奪われ、壊れたような者ばかりで研究を強いられた。

《逆恨み……まあ私もまだ人としての感情が残っているのですね》

クツクツと笑い、エルダーはアルグスタの様子を確認する。

不具合は無さそうだ。施した魔法はちゃんと仕事をしている。

机の上のワインに手を伸ばし、瓶を掴んでグラスに注ぐ。

それを従兄弟である彼に握らせると、エルダーは軽く指を鳴らした。

「……どうした?」

「飲み過ぎですよ。アルグスタ様」

「そうか」

飲んでもいないワインに酔ったと思った彼が机にグラスを置く。

エルダーは数歩下がって彼の顔を見た。

「アルグスタ様。貴方はこの国を支配する人物。決して無理をしませんように」

「分かっている」

グラスの縁に指を当て、アルグスタは深く深く息を吐いた。

「やって来る密偵たちは私たちが引き受けます。彼らも分家の者たちの首を取れば満足することでしょう」

「ああ。祖父があんなことを言い出さなければ」

「仕方ありません。それほどタインツ様も追い詰められているのでしょう」

暴走するように仕込んだのはエルダーは、内心で嗤いながら恭しく頭を下げる。

「しばらくは自由に遊ぶことも出来ないでしょう」

「そうだな」

「ならばメイドたちでお遊び暇な時をお過ごしください。必ずや貴方様は王となるのですから」

「……分かった」

言ってアルグスタは遊び尽したメイドたちに目を向け命じる。『自分に奉仕しろ』と。

命令を受けたメイドたちは服を脱ぎ、青年に歩み寄り全てを用いて"奉仕"を始める。

その様子から目を離し、エルダーは1人で離れを出る。

「ムルイト」

建物を出て直ぐに彼はそう声をかける。

背後にフッと気配が湧き、片膝を着いて畏まる細身の男に目をやる。

「王都の方の仕込みは?」

「……」

小さく頷くのみで返事は無い。だがエルダーはその反応に満足した。

「お前は私が作った現時点で最高の人形だ。確りと働き……そして死ね」

「……」

何も答えずに彼はまた頷いた。

「さあ。次は私の偽者を準備することとしましょうか」

クツクツと笑い彼は歩き出す。

もう少し研究を重ねる時間が欲しいのだ。

ただ司祭のバルグドルグは人工的な竜人の研究を邪険にしている節がある。皇の手を煩わせずに先兵が作れることを彼は嫌っているのだ。

《今はとにかく時間が欲しい。そしてこの国は荒れている方が良い》

だからドラゴン共が多く来るように調整したと言うのに……王都に居る少女がそれを邪魔する。

《ノイエとか言いましたね。大した力も無いから材料にしませんでしたが……力を隠していたとは、本当に計算外でしたよ》

歩みながらエルダーは思案する。

《まあ良いでしょう。この国が無くなろうが残ろうが関係ありません》

足を止め彼は北を向く。

「魔竜皇の力を手に入れる。そうすれば私がこの地の支配者となれるのですから」

クツクツと彼はまた嗤った。

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