軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

本当に面倒臭い奴らだね~

独身女性用の寮の自室で、フレアは火照っている体を夜風に当てていた。

今日は可愛らしい恋人であるアーネスと一緒に過ごした。2人きりで自室でだ。

先日王都にある屋敷に出向いた折りに彼を両親に紹介し、婚約の流れとなった。

魔法学院で教壇に立つこともある実力者の彼を両親は認めてくれた。一般の出であると言うのにだ。

クロストパージュ家は元々魔法使いの一族だ。その為家柄を抜きにして実力ある者を一族に招くことなど過去から良く行われたことだ。

1つ上の姉も下級貴族であるが魔法に達者な者の家に嫁いでいる。

《運良くアーネスが実力ある魔法使いだったから……》

外に向けていた視線をそっと動かし、決して見えることの無い方角に目をやる。共同墓地の方だ。

普段なら新年に必ず足を運ぶ場所。あの場所には大切な親友が2人と……それとあの人が眠っている。

《ミローテ。ソフィーア……貴女たちが居ないから私がこの国で上位に入る魔法使い扱いよ》

親友だからこそ許してくれるだろうと、フレアは愚痴の1つも溢した。

ブルッと体を震わせ、フレアは上着を掴んでそれを羽織る。

夜風で体が冷えてしまったが、それでもまだ木戸を閉じたくない。まだ室内に匂いが残って居て少し嫌なのだ。

《……私は本当に最低の女ね》

自嘲気味に笑いフレアは頭を振る。

アーネスとはまだちゃんとしていない。『結婚してから』と言い訳をして、挙句に彼に色々と見知った知識を実践している。

『男性を喜ばせる手管は数多く知っていて損はない』

それがクロストパージュ家の女に代々伝えられる家訓のような物だ。

酷い言葉もあったものだと思うが、それでも貴族の間でクロストパージュ家の娘が求められるのはそう言うことなのだろう。

《本当に私は最低だ……》

結局彼のことを忘れることが出来ずにずっと引きずっている。

未練がましいと言えばそれまでだが、心の底から愛した相手をあっさりと忘れることなど出来ないのだ。

フレアとしては恋多き女性に聞きたくなる。『どうしたら前の恋愛を忘れられるのか?』と。

いい加減に木戸を閉じようと手を伸ばした瞬間、咄嗟に窓から飛び退き右手を背中に回す。

まだ少し濡れている背中に魔道具は無く、フレアは魔法に切り替えようとして意識を止めた。

「……何よ?」

「お~。届いた」

「何してるのよ」

見知った馬鹿が窓枠にぶら下がり這い上がって来る。

新年になる前にお見合い相手に襲いかかり、謹慎を食らった同僚だ。

「ちょいと出るんで挨拶?」

「……そう」

話は彼女……ミシュから聞いていた。

ここ最近届けられているワヒルツヒの動きに密偵衆の総動員が決まったのだろう。

猟犬と呼ばれる暗殺者を動かしてまでの仕事が。

「土産は期待しないで」

「分かってるわよ」

「……」

「何よ? 寒いから閉じたいんだけど?」

上着をかき寄せフレアは相手に冷めた目を向ける。

「まあ良いか」

「だから」

「急遽だけど現場の指揮で第二王子も一緒に行く。正直に言うとコンスーロのオッサンより気楽で良いんだけどね」

フレアの呼吸が止まった。

何とも言えない感情が胸の奥から溢れ、寒さでは無く体を震わせる。

「……そう」

「まあ一応護衛は付くけど、ワヒルツヒには魔剣の工房があるからね」

「……」

震える唇を軽く噛んでフレアは相手の顔を見つめた。

「もし仮にあれに何かあったら、暫定的にフレアが近衛団長の代理とかあり得るからさ~。一応準備と言うか覚悟ぐらい決めておいてね。じゃあ寒いから消えるわ」

枠から腕を外してミシュは消えた。

呆然と誰も居なくなった窓を見つめ、フレアはゆっくりと近寄り辺りを見渡す。

真下を覗いても馬鹿が転がっている様子は無かったので、どこかに移動したのだろう。

木戸を閉じ……フレアは上着を投げ捨てるとベッドに飛び込んだ。

近衛団長となった彼は今回の"掃除"に出向くことは無いと思っていた。

現場の指揮は副官であるコンスーロが執り、実行部隊を猟犬が動かす。

だから大丈夫だと。危なくないからと……気にもしていなかった。

頭から布団をかぶり、震える体を抱きしめ……声を押さえて涙をこぼす。

『大丈夫』と自分の心に言い聞かせる。それでも震えは止まらない。

止まらないのだ。

「どうした馬鹿王子? 早すぎて寝不足か?」

「ああ。昨日は昂って妾相手に頑張り過ぎた」

「言ってろ」

やれやれと肩を竦め、ハーフレンとの馬鹿話を終えたミシュは自分の馬に飛び乗る。

昨夜はらしくないことをしたせいでどうも良く眠れなかった。お蔭でワインがひと瓶空いた。

悪いのは馬鹿な上司だと決め……その内奴の財布から小銭を仕入れて補填させると決めた。

「お~い。馬鹿王子」

「ああ」

辺りを見渡していたハーフレンが手綱を引いて馬を操る。

新年の休暇中と言うこともあって彼女に今日のことは伝えていない。別にこれが最後の別れになる訳ではないと理解していても……つい視線が探してしまう。

情けない男の姿に蹴りの1つでも入れてさっさと出発させようかと考えたミシュだが、視界の隅にそれを見つけたので止めることにした。

いつもの皮鎧姿で無く、私服姿で走って来るのは本当に馬鹿な同僚だった。

「やっほ~。見送りに来てくれるなんて私は嬉しいよ」

気づかせるためにミシュ声を上げながら手を振る。

少し俯き加減だった馬鹿な男が顔を上げた。

「何を言ってるのよ」

あくまで違うと主張したいらしい相手に、ミシュは内心でため息を吐いた。

「じゃあこんな早朝に何してるのさ?」

「隊長よ。寝ぼけてまた暴れたって」

「あ~。新年だからかね~」

これぐらいで相手の言い訳は十分成立しただろう。

"隊長"と言う単語から逃れるようにミシュは手綱を操ると『私は現在謹慎中ですから~』と呟いてその場から退散する。

「お出かけですか? ハーフレン様」

「ああ。少しな」

「そうですか。お気をつけて」

素っ気無く軽く頭を下げてフレアは王城に向かい走りだす。

それを見送ったハーフレンは、微かに笑うと手綱を引いた。

「さてと。行くか」

供の数は20名ばかり。その誰もが優秀な密偵だ。

ハーフレンの護衛としては十分過ぎる数を揃えたミシュは、最後尾で大きな欠伸をした。

《本当に面倒臭い奴らだね~》

(c) 2020 甲斐八雲