軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

異世界魔法です

早朝のユニバンス王都に決死行をして来た騎士が転がり込んだ。

急ぎの伝令の場合、5人での行動を義務づけられているのに彼はたった1人で来たのだ。

全身には大きな傷を作りそれでも馬の腹を蹴り続けたのであろう……彼が騎乗していた馬の腹は傷を負い血を滲ませている。

何があったのかはその様子を見た時点で理解出来る。だから正門を守護する兵たちは決まりを破り急いで開門し彼の救出を優先した。

「これをっ!」

顔の半ばを固まった血で覆う騎士は必死に握り締めた物を突き出す。

手紙と言うよりかはただ紙を丸めただけの物だ。

「ブシャールに複数の中型がっ!」

叫び騎士は意識を失った。

「真か?」

寝所で眠っていた国王ウイルモットは急の知らせに軽く上着を羽織り対応する。

最初に来たのはいつ自身の屋敷に戻っているのか分からない宰相であり長子のシュニットだった。

「ブシャール所属の騎士であることは紋章から確認が取れております」

告げながら騎士が必死に届けた報告書を国王へ手渡す。

黒い血痕に染まった紙に目をやりウイルモットは思案した。

「少なくとも中型が6体とな?」

「はい。我が国始まって以来の襲撃数でしょう」

「中型が1体以上など聞いたことも無いがな」

だが現実に起きてしまった。それは確実にドラゴンが増えている証拠でもある。

国軍を総動員して対処出来れば問題無いが……こちらの被害は想像したくないほどの数となり得るだろう。

「何か?」

一瞬自身が思い至った考えに苦笑する国王に気づき、シュニットは質問をする。

「なに……ノイエならば中型も倒せるのかと思ってな」

「可能性はございましょう。ですが彼女がブシャールに到着するまでに砦の方は」

「分かっている。ブシャールが耐え凌げば援軍と共に戦える。だが抜かれれば……近隣の領地は食い荒らされるだろうな」

「はい」

いくらドラゴンスレイヤーが居たとしても無理なこともある。

流石に今回は息子に対応を丸投げさず、国王ウイルモットが判断を下した。

「大将軍を中心に急ぎ兵を集めよ」

「はっ」

「ノイエも連れて行くしかないであろうな。その間、王都の守護は近衛に任せる。近衛団長にそう伝え準備を急がせるように。以上だ」

ルッテの朝は早い。

夜明け前に王都から出る馬車に乗って、ノイエ小隊の待機所へ向かうからだ。

最初の仕事は薪に火を点け焚火を作る。後は水汲みや料理の下準備をして、そこからようやく本当の仕事を始める。

だからルッテは火を付けて水を汲んで戻って来た。後の水は親切な同僚たちが暇潰しに汲んで来てくれるので、いつも一つの桶に汲んで運び鍋と野菜を洗うのに使うのだ。

ただ今朝は違った。

水汲みから戻って来たルッテは、馬車で運んで来た食料を物色する白い存在に気づいた。

「たいちょ~?」

「はい」

振り返った隊長のノイエは、モグモグとハムの塊をモグっていた。

「って食べないで下さいっ! お昼のお肉が無くなりますよ?」

「……必要」

「はい?」

桶を置いてパタパタと駆け寄るルッテに、ノイエは物色する手を止めない。

的確にパンとハムなどを全て抜き取った。

「これだけ?」

「えっと……あっちに干し肉が」

「使う。全部」

「はい?」

トコトコと普段使いしている小屋に歩み寄ったノイエが扉を開けようとする。

だが鍵が……バキッと音を発して扉の寿命が尽きた。

「たいちょ~! 怒られますからっ! フレア先輩にっ!」

「ん」

「って、本当に全部~!」

木箱に納められた干し肉を箱ごと抱え、ノイエが戻って来る。

先に確保した食料の横に干し肉を置いた。

「隊長? 何をするんですか?」

「……お腹減る」

「はい?」

いつも通りの無表情で、ノイエはゆっくりと頭上に両手を運び空に向けて肘を伸ばす。

歌……抑揚のない淡々とした歌を耳にしたルッテは、それがノイエの発するものだと気付いた。

「開け」

命令だ。命じられノイエの頭上に大きな円形の図が生じた。

突然のことで思考が追い付かず目を剥いて驚くルッテを尻目に、ノイエは生じた図に向かい食料を放り込む。全て投げ込むと一度図を消し、そしてまた歌う。

「出て」

次も命令だ。

また生じた円形の図から大き過ぎる鷲が姿を現す。

屋敷ほど大きく見えるその生き物に、『いっぱいお肉が食べられそう』とルッテは圧倒されて現実逃避をした。

「行く」

「……ってどこに!」

「あっち」

一方的にそれだけを告げ、ノイエは巨躯な鷲の足に掴まると大空を舞って飛び上がる。

『絶対に怒られる』と経験から察したルッテは自身の祝福を全力で発動し……ノイエが北西に向かい突き進む様子を見続ける途中で空腹で倒れた。

「結論として……『巨大な鷲でやって来たノイエが、ブシャールの壁を壊していた中型全部を殴り殺した』と」

父親であり国王である人物から詳しい報告を求められた近衛団長ハーフレンは、自身の眉間の皺を揉んだ。

「良し。このまま報告書を宰相様に届けろ」

「面倒臭がらないで下さい。ハーフレン様」

「だってな~」

頭を抱えハーフレンは体を前後に揺す振る。

「ルッテの報告だと『ノイエがパンと肉を漁ってから大きな鷲を呼び出して飛んで行った』だろ? ブシャールからの報告を合わせれば辻褄が合うんだ。これで納得して貰え」

「そうはいきません」

大変真面目な副官に、ハーフレンは肺の中が空になるほどため息を吐いた。

「……フレアの報告は?」

「少しお待ちを」

告げて副官のコンスーロは横に避けて場所を開ける。

ノックの音が響き、ノイエの実質副官であるフレアが入室して来た。

「ご報告に来ました」

「おう。で?」

「……」

余りの態度に、『一発殴ってやろうか?』と思いながらもフレアは言葉を続ける。

「隊長は魔法が使えます」

「……使えないと?」

「はい。ですが使えます。異世界魔法です」

フレアとコンスーロは魔法に関しては専門家だ。

だがハーフレンは全くの専門外なので素直に白旗を振る。

「説明を頼む」

「はい。『異世界魔法』とは、その昔に召喚の魔女が呼び寄せたと言われる異世界の魔法を指す言葉です。事実彼女は多くの魔法を呼び寄せました。隊長はどうもその内の1つを使えるようです。

現在隊長が使用した魔法が王国が所有している魔法かどうか、学院の方で調査して貰っています」

「そうか」

ハーフレンとしてはたぶん国が保有している魔法だと漠然と思った。

本当にあの施設に関わった者たちは数が多く根が深かったからだ。

「で、その異世界魔法とは凄いのか?」

「はい。本来は個人の魔力量で扱えるような魔法ではありませんが」

肉で釣って……とても根気よく説得した結果、ノイエが大鷲を召喚してみせた。

それを確認したフレアは、彼女が普通の魔法を使えない理由を理解した。

「隊長が扱えるのは召喚だけのようですが」

「それだけしか覚えさせられなかったのか、それ以外を覚えさせる前にあの施設が潰されたのか……」

中型のドラゴンがどうにかなれば、また新しい問題が発生した。

「フレア」

「はい」

「報告を纏めて兄貴に届けてくれ。どうせ『説明しろ』と呼び出されるだろうからな」

「……分かりました」

渋々応じてフレアはハーフレンの机の上に存在する報告書をすべて回収した。

「ブシャールの方の後始末は?」

「ミシュを向かわせた。だからそれに専念しろ」

「……分かりました」

後日ノイエの運用方法に変更が生じた。移動距離が大幅に広がったからだ。

結果として、彼女が国の貴族たちから増々恐れられるようになったのは言うまでもない。

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