軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

あれの姉の墓に

「そうか」

「おうおうおう? 反応うっすいな~」

「そう言っても分かれた女だ。ずっと尾を引く方があれだろう?」

「そうね~」

馬を操るハーフレンの背を背もたれにし、ミシュは腕を枕にして寄りかかる。

図体ばかりデカい相手はどんなに寄りかかってもびくともしなくて丁度良い。

「で、近衛団長が良く王都を離れる許可が取れたね~」

「ああ。チビ姫さんの騒ぎでごたごたしているだろう?」

「……おい?」

「それに一応陛下の許可は取ってある」

「新人の勧誘か~。使える子なら良いんだけど」

「頑張れ」

気軽に言って来る相手に、腕越しで頭を打ち付けミシュは気晴らしにした。

「まあそうでも理由を付けんと馬すら買いに行けないんだよな」

「出世するのも問題だ~ね」

「言うな」

出来れば実物を見て買いたいハーフレンとしては、自分の目で馬を見たいのだ。

エバーヘッケ家の馬なら王都に来た物から選んでも悪くは無いが、本当に良い馬は直接買いに来た者が引き取って行ってしまう。

特に草競馬が盛んな王国東部の有力貴族などは金に物を言わせるから始末に負えない。

「なあミシュ?」

「あんだよ~?」

鼻歌を奏でながら雪雲を見つめていたミシュが欠伸交じりで返事を寄こす。

「お前の実家って余り裕福じゃないって有名だよな?」

「喧嘩か売ってるのか? 股間を抉るぞ?」

本気でやりそうだから面倒臭いが、ハーフレンの言葉は終わっていない。

「あれだけ高値で売り買いされるエバーヘッケ家が貧乏って脱税か?」

「……あの馬鹿親がそんなことする訳ないよ」

よっと声を上げてミシュは体を起こした。

「本当に馬鹿だからさ……柵とか塀とか他所の牧場よりも頑丈に作って、それを毎年定期的に直したり補強したり。ドラゴンが増える前からそんなことをしてるからね~。ウチって本当に馬鹿なんだよ」

「そうか」

軽く手綱を操り駆け足にしてハーフレンは前を見る。

「嫌いじゃないけどな。その手の馬鹿は」

「だね~。それが両親と言うか一族全員じゃ無かったらだけどね~」

くわわ~と欠伸を漏らし、ミシュは口を閉じた。

「帰ったぞ~」

「ミシュエラっ!」

驚きの余りに担いでいた鍬を放り投げて男性が駆けて来る。

男性に向け片手を上げるミシュの様子に馬から降りたハーフレンは首を傾げた。

『ミシュエラとは何だったか……』としばらく悩んで思考を放棄した。思い出せなかったのだ。

「久しぶりだな~」

「お前って奴はっ!」

駆け寄って来る男性は感じからしてミシュの父親か。

下級貴族と言うより牧場主にしか見えない。

もう何年と実家に帰っていないミシュのことだ。父親も心配して……眺めていたハーフレンは、娘の隣で立ち止まった男性が、馬鹿の頭を掴んで地面に押し付けるまでの行動を何も言えず見つめ続けた。

「ウチの娘がご迷惑でもおかけしましたか? もう何でしたら地面に埋めるなり窯で焼くなり好きになさっても良いのでどうか弁償だけはご勘弁して下さいっ!」

全力の土下座だ。ミシュは顔面から地面に押し付けられている。

何となくエバーヘッケ家が裕福で無い理由が別にあるのではないかと、ハーフレンは気付いてしまった。

「うっほ~い」

裸馬の背に跨り走り回っているあの馬鹿の馬上技術はこの国一番なのかもしれない。ぼんやりとそんなことを思いながら、柵に寄りかかり何頭か目星を付けた馬から視線を外した。

牧場主……では無くエバーヘッケ家の当主マルフィが正装に着替えやって来たのだ。

「わざわざ着替えなくても」

「下級とは言いましても一応貴族の身ですから」

照れと言うか苦笑いにも似た表情で彼は頭を掻く。

何を間違ったらこんな人の良さそうな人物の元にあんな馬鹿が誕生するのか? 言いようの無い疑問に自身の傍に来たマルフィにハーフレンは思い切った質問をした。

「失礼な質問をさせていただきたい。あれはいつからあんな風に?」

「……」

大変難しそうな表情に変化し、マルフィは静かに頭を振った。

「あれは子供の頃はただ活発な娘でした。今もその……」

「大変お元気そうで」

「そう言っていただけると助かります」

父親であっても使う言葉を悩ませるのがミシュらしい。

「ただおかしく……そう。おかしくなってしまったのは、彼女が"姉"と出かけ、腕の骨を折りながらも1人で帰って来てからになります」

彼の言葉にハーフレンは違和感を覚えた。

「失礼。自分の記憶が確かなら彼女は長女では?」

「いいえ。あれには姉が居ました」

過去形だった。つまり今は居ないと納得し、ハーフレンはミシュに目を向ける。

「2人で野草を積みに行ったあの子たちは、運悪く狼と出会ってしまったのです。あの子を逃がそうと姉は囮になり足を噛まれ、喉を噛まれ……」

マルフィも視線を遠くに向ける。涙を溢さないように少し上目遣いで。

「あの子は1人で戻って来ました。私たちはとりあえず農具を手に探しに行くと、娘は木陰で寝かされてました。胸の前で手を組んで、その目を閉じて」

「……狼は?」

「5匹ほど離れた場所で死んでました。どれもおかしな死に方をしていました。木や石に顔を打ち付けて絶命していたのです」

ミシュの祝福だろう。

祝福は生まれ持った場合、自然とそれの使い方を知っていると言う。

ただ姉を救えなかったのは……ミシュが誰かを連れて祝福を使っている所を見たことが無い。

そう言うことなのだろう。

「あの子は何があったか詳しいことは言いません。『姉が逃がしてくれた』としか」

「そうか」

柵に預けていた腕を離し、ハーフレンはマルフィを見た。

「良ければ案内して頂けるだろうか?」

服装を正す第二王子の様子にマルフィは戸惑いながら口を開いた。

「どちらに?」

「あれの姉の墓に」

告げられた言葉にマルフィは、こらえ切れずに涙を落として深く頭を垂れた。

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