軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

今直ぐに全員死ね

ユニバンス王国南部の街ワヒルツヒ

「王家の馬鹿共がっ!」

初老に近しい彼はその巨躯な体を震わせ暴れる。

体格は良いが戦場での働きは目立った戦歴は無い。彼の肉体を覆う筋肉の多くは日々の鍛錬のお陰だ。

周りの者たちに見下されないように彼は体を鍛えて筋肉を誇るのだ。

正直に言えば凡夫だ。それが彼の甥であるエルダーが叔父に下した評価だ。

「タインツ様。余り声を荒げることの無きように」

「だがなっ!」

「ですが元を正せば貴方様の日々の行いと言動によりこうなったのですよ?」

「……」

激しく口の中で歯を擦り合わせ、タインツと呼ばれた彼は怒りに顔を紅くした。

久しぶりに研究所からワヒルツヒにやって来たエルダーを待っていたのは馬鹿者らしいつまらない話だった。

孫の存在を語り過ぎた祖父のせいで王家が動いたのだ。

「タインツ様」

「何だっ!」

「このような状況になっては私がこの街に居るのは宜しくないと思われます」

「……」

相手には見えない角度で軽く指を鳴らしエルダーは叔父を見る。

カクンと首を前に動かし顔を傾けたタインツに彼は優しく語り掛ける。

「私がこの街に居ると言うだけでアルグスタ様の教育に来たと思うことでしょう。そうでなくても勘繰られます。ですのでしばらくはこの街から遠ざかり姿を隠そうと思います」

語り掛ける言葉は願いでは無い。命令だ。

エルダーから出された指示をタインツは何も考えずに耳にする。

「出来ましたら最後にアルグスタ様への挨拶をしたいと思います。ご許可を」

パチンともう一度指を鳴らしエルダーはタインツの様子を伺う。

「……許そう。会うが良い」

「感謝します」

うわべだけの謝意にエルダーは内心自嘲する。

相手に対して頭を下げるなど愚かなことは無い。もう叔父はただの人形でしかないのだから。

ワヒルツヒ家の離れは堅牢で部外者の立ち入りは容易に出来ない。

それは外からの守りが完璧と言うことであり、見方を変えれば内から決して外に出れないと言うことにもなる。

ルーセフルトの鳥籠とエルダーはその場を称していた。

居るのは自分が仕込んだ人形と、ちょっとした実験動物だ。

「嫌だ。来るな……エルダー」

「何を恐れます? アルグスタ様?」

笑みを浮かべやって来る従兄弟に対し、アルグスタは椅子を盾に逃れようとする。

自分の身を護ってくれるはずのメイドたちは、本当の主の命令によって床に蹲り動きを止めている。

助けてくれる者など誰も居ないのだ。

「もうこれ以上僕を弄ぶなっ!」

「何を言うのですか? 私は貴方が王に相応しい教育を施したのですよ?」

クツクツと笑い……彼は王子である人物の顔を見る。

怯え切った少年は、15となり青年と呼ぶに相応しい姿に成長している。

ただそれは姿形なだけだ。

エルダーはまたクツクツと笑い、今一度従兄弟を見つめる。

彼には優秀な外交官となれるだけの教育を施した。王子とは言わず王になれるだけの教育もだ。

今の彼ならばどこに出しても恥ずかしくないだけの仕事をするだろう。王都に戻り王子として過ごすなら彼ほど優秀な交渉人は居ない。

そうなるように作った。つまらない実験だが、それなりの成果も得た。

エルダーは距離を詰めて彼の髪を掴む。自分と同じユニバンス特有の色だ。

「なに、を?」

「君は最高に面白い存在に育ったよ。だが悪いことに君をこのままにしておくのは面白くない」

笑いエルダーは懐から透明な玉を取り出す。綺麗で透明度の高い玉をだ。

「君は優し過ぎる。きっとこのまま行けば君は王家の者に取り込まれその力を、私が君に授けた"交渉人"としての力を存分に振るうことだろう。だがそれは面白くない」

「止め、ろ。なにを?」

顔に玉を押し付けてエルダーは笑い続ける。

「君は王家の者に殺される未来が相応しい。だから能力を全て忘れて……そうだ。気高く無能に振る舞うぐらいが丁度良い。優秀な兄たちに嫉妬し彼らを恨むくらいの方が良いんだ」

「止めろ。止めて……」

透明だった玉の中にそれは生じる。

爬虫類のモノを思わせる眼球が浮かび上がり、それがジロリとアルグスタを見つめた。

「さあ王子。ぜひとも無能で嫌な人間になって下さい。それが出来れば私は新しい地位を得ることとなる。実験の集大成を是非とも見せてくれ」

「や、めろ……やめて、くれ」

玉の中の目に睨まれアルグスタは自分の何かに蓋をされる感覚を味わう。

足掻いても足掻いてもそれを退けることは出来ず、幾重にも重たい何かを乗せられ封じられる。

エルダーは倒れていた椅子を起こし腰かけると、しばらく相手の様子を見つめた。

床に爪を立てもがき苦しむ青年が内側から変質する様子を眺めるのは実に楽しい。

愉快だと笑みを浮かべていると、床と仲良くしていた彼が自身の両手を見つめて立ち上がった。

「何をしているエルダー?」

「別れの挨拶に来たら、貴方がメイド相手に遊んでいたのですよ。私にはその様子を見ていろと命じたのに……お忘れですか?」

「知らん」

荒れた手つきで乱れた髪を撫で、アルグスタは濁った瞳で師である彼を見た。

「退け。それは俺の椅子だ」

「そうですね。アルグスタ様」

立ち上がり恭しく頭を下げて彼に椅子を譲る。

ドカッと椅子に腰かけた彼は、足を組んでメイドを睨む。どれもこれもが床にしゃがみ込んで動きを止めていた。

「主人の服が乱れているのに何もしないとはこのメイド共はゴミか?」

「必要無いのであれば御処分されますか?」

師の言葉にアルグスタは目を向ける。

「新しいのは直ぐに準備できるのか?」

「ご時間を頂ければ、材料はお屋敷の方から調達して来ますので」

「そうか」

気怠そうな顔を上げてアルグスタは、蹲るメイドたちに向けて口を開いた。

「仕事をしない馬鹿共は要らんな。今直ぐに全員死ね」

命令に応じてその場に居たメイドたちは自ら命を絶った。

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