軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

本当にあの男は、男は、男はっ!

「ですから彼女は近衛などでは無く国が管理するべきなのです」

「何を言うか? 近衛とて国の一部であろう。近衛が管理して何の不都合がある?」

「ですが近衛は王都の警護。並びに王城の守備が仕事。ドラゴンを退治するなど」

「だからこそ近衛であろう! 彼女を使い王都に迫るドラゴンを排除する。そのことに何の不都合がある?」

「そうは言いますが、王都の近くに居るドラゴンなど少数。地方に目を向ければ王都以上にドラゴンが居ます。それらを退治するのは誰がするのですか?」

「それはその地方の領主の仕事であろう? 仕事もせずに領主を名乗るなど貴族の風上にも置けん」

「つまり地方などドラゴンの食い物になっても良いと言いたいのか!」

「食い物になるもならないも領主の努力次第であろう!」

喧々諤々と地方の貴族代表と近衛の代表とさせられた文官が叫びあっている。

形式的な物だとしても毎度毎度本当に面倒臭い。

ただ本来の近衛代表であるハーフレンは、表情を引き締めて不毛な話し合いが終わるのを待った。

「一応ノイエは近衛所属と言うことになったな」

「ああ」

壮絶な話し合いを終え、ようやく解放されたハーフレンは帰ることも許されずに宰相が待つ部屋へと向かった。

メイドから紅茶を受け取り2人きりとなったのを機に、互いに地位を忘れて気持ちを楽にさせる。

「問題はこれからだ」

「まだ何かあるのか?」

「ああ」

苦笑いをしてシュニットは1枚の紙を取り出した。

それはルーセフルト家からの物だった。内容は王都に存在する工区での商業許可だ。

「陛下は知っていたが私たちにはそれを話さなかった」

「自分たちで気づけということか。親父らしいがこれで国が傾いたらどうする気だ?」

「その時はルーセフルト家が主体となったアルグスタ国王が誕生するな。陛下は前王として地方に屋敷を与えられ王妃様と一緒に悠々自適な生活を送ることだろう」

「つまりどっちに転んでも隠居して平々凡々と過ごせる算段か? 本当に食えない人だな」

実の父親であっても恐ろしい人物である。

ひと通り書類に目を通してハーフレンはそれを兄に戻した。

「工区の土地をいつの間に買い漁っていたんだ?」

「施設からノイエを連れて来て彼らが預かった頃から動き出していた」

「動いていたのはエルダーか?」

「そうだろう」

「厄介だな。あれは」

ガリガリと頭を掻いてハーフレンはソファーの背もたれに背を預ける。

ルーセフルトの天才。

交渉ごとに滅法強く、彼が出向けばどんな不可能な交渉ですら纏めると言われる。

ただ一か所に留まるのが嫌いなのか、ふらりと出かけると追っ手を撒いて姿を隠してしまう。

「今はワヒルツヒに居ると聞いているが?」

「ああ。密偵からの報告だと領主屋敷に居るらしい。アルグスタの教育係を兼ねているから国王に相応しい教育を施しているとか。タインツが派閥の貴族たちに酔って語る姿が見られているそうだ」

「そうか。それは厄介だな」

切れ者と言われる存在が付きっきりで教育を施している。

何より病気と言うことで故郷で静養しているはずの弟がそんな教育を受けているのはどうか。

「ならばそれを逆手にとって仕掛けるべきだろう?」

「教育を受けられるほど元気ならば王都に戻って来いと?」

「ああ。王家の者は本来王都で暮らすべきだ。今は戦時中でも無いから避難命令も出ていない」

「確かにな」

腕を組んでハーフレンはニヤリと笑う。

「工区を整備して金儲けを企んだ。そこの負けは素直に認めよう。だが負けっぱなしは性に合わん」

「なら決まりだ。必要な情報は集められるな?」

「ああ。数日で纏めて届けさせる」

「任せた」

テーブルの一点を睨みシュニットはその表情を正した。

「私たちは負けられない。ルーセフルトの独裁はこの国の終わりを意味する」

「まあな。確かにあの女好きが国を牛耳るのは面白く無いな」

やれやれと肩を竦めてハーフレンはソファーから立ち上がった。

「勝つぞ兄貴」

「当たり前だ」

兄弟は互いに笑い合った。

「……」

「申し訳ございません。フレア様」

本当に申し訳なさそうに声をかけて来る彼の副官の言葉に、フレアは一瞬だけ眉間に皺を寄せた。

相手は自分の上司だ。命令をされればそれに従うのは当然だ。でも現状自分は新設部隊の創設に奔走させられ、何よりあの人外の化け物であるノイエと言う存在の相手を毎日しているのだ。

それなのに報告書を整理して必要な情報を宰相に提出して欲しいだなど……ふざけている。

「ええやります。やりますとも……ご心配なく」

「……申し訳ございません」

深く頭を下げて退出した彼が十分離れたのを確認し、フレアは相手が売って来た喧嘩を全力で買うことにした。完璧な資料を作成して提出してやる。その間あの無自覚暴走少女が何をやらかしても知らない。自分はこんな資料だらけの部屋で仕事をしているんだから。

「少しはあの子がどれ程異常か知れば良いのよ。本当に」

羽ペンを握るように持ち、フレアは机の上の紙にペン先を突き立てる。

魔法で強化したのでペン先が壊れることは無かったが、机の端に小さな穴が生じた。

「ええ。分かってるわよ。これが終わったらまた命じて来るんでしょう? 私のことが嫌いなら嫌いだとはっきり言えば良いのに……本当にあの男は、男は、男はっ!」

ザクッザクッザクッとペン先で机を抉り……フレアはドロドロとした感情をねじ伏せた。

(c) 2020 甲斐八雲