軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

必要なのは厳しさです

「エルダー」

「はい?」

「このメイドたちはどうやって作っているんだ?」

教科書替わりに一般的な貴族たちが使っている教本の内容にダメ出しをし続ける。ただしそのダメ出しも理論を持ってダメ出しさせることで頭を使わせ学ばせると言うエルダー独自の授業に飽きたのか、教えを受けているアルグスタは、ただ人形のように飲み物を運んで来るメイドに感じている疑問を口にした。

「これですか?」

「そうだ」

「これはとある場所で研究されている魔法の技術を応用した物です」

「とある場所?」

「ええ」

メイドに毒見をさせた飲み物を改めて口にし、教育係であるエルダーはゆっくりと椅子に腰かけた。

「正直に言えば自分はこんな場所で貴方の授業などしていたくない」

「それ程の研究か?」

「ええ」

クスリと笑い彼は少年に夢を語る。

「自分たちの研究はドラゴンを倒せる者を作りだすことです」

「それは……出来るのか?」

「ええ出来ます」

言葉使いや立ち振る舞いなど、王となるのに相応しい教育をいくら施されても彼はまだ子供だ。だからこそエルダーは目の前の少年が興味を持つならばと普段なら話さないことを話す。

何よりこの場に居るメイドは強い暗示と洗脳を魔法で施され、言葉を話すことを忘れている。書くこともだ。本当の意味で人形であるメイドが外で誰かに告げ口をする心配は皆無。

過保護すぎる彼の祖父や母親が作り上げた 鳥籠(はなれ) の最大の欠陥とも言える。

「ドラゴンはその皮膚も厚く硬い。人の振るう剣などでは傷1つ付けることは出来ない。ですがある種の魔法ではそんなドラゴンの皮膚も破り肉を割いて骨も砕けるのです」

「魔法か」

どこか興味を失った感のある少年にエルダーは軽く笑いかける。

「貴方もいずれ魔法を学べるでしょう」

「祖父は反対しているが?」

「ええ。あの人は教育係となる魔法使いが貴方に余計なことを吹き込むことを恐れているのでしょう」

「ならエルダーが教えてくれれば良い」

「残念ながら人に魔法を教えられるほど自分は優れた魔法使いではございませんので」

軽く頭を下げてエルダーはやんわりと断る。

事実ルーセフルト家の当主であるタインツからも要請を受けているが、同じ言葉で断っている。

エルダーとしてはこれ以上アルグスタと付き合う時間を増やしたくなどない。出来れば今の職も辞めて研究施設へと戻りたいのだ。

あの場所でならどんな禁忌に等しい行為をしても許される。

材料や素材は勝手に届けられるし、生じた死体も勝手に始末してくれるのだから。

「色々と話は逸れましたが、あれは自分が携わっているその研究で生じた技術の1つ。当主様にはあくまで自分の幻覚魔法であのようにしたと言ってるだけです」

エルダーは軽く指を鳴らす。全てのメイドが姿を現し一列に並んだ。

「魔法を知る者ならこのようなことが幻覚魔法で出来ないと知っていますが、この屋敷内には自分ぐらいしか魔法に精通している者はおりませんからね。服を脱げ」

もう一度指を鳴らす。本来ならアルグスタの命令のみに従うメイドたちが一斉に服を脱いで肌を晒す。

突然のことで驚いた少年は、メイドたちから顔を背けて赤面した。

「それとアルグスタ様もあと2年で15の成人でしょう? 女遊びを学べとは申しませんが、裸を見るぐらいでそのような初心な反応をしていると周りの者たちに笑われますぞ?」

「そう言われても……」

意を決してメイドを見ようと視線を動かすが、少年の顔と視線は動かない。

彼の母親が誘惑されるのを恐れ女を遠ざけた弊害だとエルダーは理解している。

彼の祖父のように新しく来たメイドは一度は抱くといった好き者になるのも困るが、これではルーセフルト家の将来が心配になる。

心配はするがこの家が長くはないと理解しているからこそ、どうにかしようとは思わない。

「お前たち……ご主人様を誘惑すると良い」

「エッエルダーっ!」

パチンッと鳴ってしまった指の音にメイドたちが少年に群がる。

アルグスタに危害を加えることは絶対に無いが、触れたりしてくるので少年の顔は増々赤くなる。

「やっ止めろ! 命令だっ!」

ピタリと動きを止めメイドたちは動きを止める。

「ご命令が遅すぎますよ。アルグスタ様」

クスクスと笑い立ち上がったエルダーは、メイドたちの手の中から彼を引っ張り出すと……また指を鳴らしてメイドたちを一列に並べた。

軽く確認をするがどの 人形(メイド) も傷1つない。何よりちゃんと世話をされているのか汗臭さも無い。

「ここに居る者たちは全て貴方様の玩具なのですよ。そんな玩具を貴方は大切にし過ぎます」

「……汚れているのは困る。臭いのも嫌だ」

「だからちゃんと食事を与え、排便もさせ、風呂にも入れると?」

「僕の玩具だと言うなら勝手にやって良いことだろう」

年相応の反応を示すアルグスタは頬を膨らませて拗ねる。

穢れを知らない無垢な存在に……エルダーの胸の内で黒い気配が目を覚ました。

「そうですね。ですが上に立つ者は厳しさを覚えなければいけません」

エルダーは指を鳴らし、古い2体の人形に命じる。

「相手が死ぬまで首を締めろ。相手が死ぬまで手を離すことは許さない」

「なっ!」

突然のことにアルグスタの制止は間に合わない。

2人のメイドは互いに向き合うとその手を動かし首を絞め合う。

顔の色が赤くなり、赤紫へと変化していく。

その様子に顔を背けようとする少年をエルダーは許さない。

彼の頭を掴み力尽くで殺し合う2人のメイドの姿を見せた。

「よく見なさいアルグスタ様。これが人を殺すということ。そしてこれが人が死ぬ姿です」

「止めろエルダー! 離せっ!」

暴れる少年を彼は離さない。ますます力を込めて良く見させる。

「人の死を恐れませんな。貴方は場合によっては王になる人物……自らの手で人を殺すことを求められる立場へと昇るやもしれない人なのですから」

「止めろエルダー!」

泣き叫ぶ少年の前で2人のメイドは息絶え床に転がる。

それでも手を離さない様子に……少年は恐れ失禁する。

鼻で笑いアルグスタを離したエルダーは、残ったメイドに命じて床に転がる死体を運ばせ掃除させる。

呆然とした表情でアルグスタは従兄弟を見た。

「どうして……こんなことを?」

「何を言います? 自分は貴方の教育係ですよ」

ニヤリと笑いエルダーは少年を見る。

「人を殺すことに躊躇するような者は王にはなれません。優し過ぎる貴方に必要なのは厳しさです」

恭しく一礼をし、エルダーは今日の授業を終えることとした。

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