軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

狼煙を上げろ~!

「これが東部の穀倉地帯か」

「……」

地面に突っ伏しているエレイーナからの返事はない。

僕はノイエと一緒に鷲の背に居たから平気だったけど、文字通り鷲掴みされた彼女はとても残念な状態で着地することとなった。着替えって大切だな。あと水とか。

適当に掃除して着替えを済ませて麻袋に詰めて連れた来たけどまだ復活しない。

「どう?」

「……大丈夫。ちょっと計算がね」

ノイエの色をしてお姉ちゃんがそう言って来る。

「今日は宿で休んで明日から頑張ろう」

「そうね」

意識をノイエに戻したのか、彼女は駆け寄ると僕の腕に抱き付いた。

ウリウリと腕に頬を擦り付けて来る姿が可愛い。

「さてと。宿に戻って休もうか」

「……」

荷物と化していたエレイーナが立ち上がった。

その表情からは感情が抜け落ち、ただ一点を見つめてフラフラと歩き出した。

たぶんまだ大丈夫だな。精神的に強い人で良かった。

宿でお湯を使わせて貰い徹底的に体を綺麗にした。

仕方ない。あんな鷲で空を飛んで移動だなんてエレイーナは想像もしていなかった。

漏らしてしまったのはただの事故だ。

これでもかと磨き上げて嫌な記憶も濡れた感触もお湯の中に捨て去った。

寝間着に着替え宿泊している部屋に向かう。

今日はそんな大きな街で無かったこともあって、部屋はごく普通の物だ。

それでも1番良い部屋ではある。普段自分が使っている密偵たちが暮らす寮の個室に比べると豪華と言える。

「……限界なの」

「落ち着こうか?」

不意に聞こえた言葉にエレイーナは足を止め、瞬間的に横に移動し壁に耳を押し付けた。

「ダメ。もう限界」

「お~い」

「甘いものが食べたいの」

食いしん坊らしい彼女がまた食べ物を求めていた。

この旅行で1番エレイーナが驚いたのは、ドラゴンスレイヤーの底無しの胃袋である。

夕飯だって5人前も食べたのにまだ食べたらないらしい。

呆れつつ壁から耳を離し、

「それと、アルグちゃんのアルグちゃんを寄こしなさい」

「ちょっと! それは……あ~」

また壁に耳と言うか頭をぶつける。

物凄く卑猥な声が響いて来る。普段あんなにも静かなのにベッドの上ではこんなにも豹変するのか。

ゴクリと唾を飲み込みエレイーナは2人が寝静まるまでずっと聞き続けた。

徹夜に近い状況から軽く仮眠を取ってエレイーナは食堂に来た。

しょぼしょぼする目を擦り、彼らが待つテーブル……今朝は眠そうな彼が1人だった。

「おはようございます」

「おはよう」

「あの……奥様は?」

「散歩に出てます」

「1人で?」

「そっ」

欠伸を溢しながら彼は紅茶を啜り眠そうにぼ~っとする。

エレイーナも彼と同じように欠伸を溢しながら紅茶を啜る。

長閑な時間を過ごしていると、食堂の外が騒がしくなった。

『何だろう?』と視線を向けると、職種も何も関係なく街の人たちが騒ぎ走っている。

お祭りには見えない。どう見ても誰もが必死の形相だ。

「何があったんですかね?」

「穀倉地帯の土地が腐って使えなくなったんだろうね」

「……はい?」

反射的にそう返事してしまった。

耳からはっきりとその言葉が届いているのに、頭がそれを受け付けなかったのだ。

あの広大な穀倉地帯が腐るって……?

意味も分からずただ呆然と相手の顔を見ていると、食堂の入り口から彼女が歩いて来た。

いつも通りのドラゴンスレイヤーのはずなのに雰囲気が違う。圧倒的な女王の貫録を見せるかのように歩いて来る彼女からは気品すら感じる。

真っすぐゆっくり歩いて来て彼の横に座ると、普通に戻った。

いつも通りに夫の腕に抱き付いて頬を擦り付けだす。

緊張した面持ちだった彼も笑顔になって妻の頭を撫でだすと、『朝からそんなに?』と言いたくなるほどの量の食事を注文する。

ペロリと全て食べた彼女はやはり人間では無い別の生き物だとエレイーナはそう思った。

セルスウィン中央都市

「穀倉地帯が……本当か?」

報告を受けたハルツェンですら、いつもの澄ました表情を作れず呆然となった。

共和国の命綱であり、最大の商品である穀倉地帯の土壌が大規模に腐り使用できなくなったと言う。

その報告すら疑いたいのに、続けて何か所からもその報告が上がる。

会議を始まる前に文官たちが集まる報告を元に大至急計算したところによると、自国で消費する分の穀倉地帯は残って居る。何より南部の東側の穀倉地帯は現状無事だ。

「……」

故にハルツェンは悩んだ。

南部は無事だ。ならこのまま南部に兵を向けて防衛に努めれば良い。

本来ならそうすることが正しい。

だが西部から姿を消したあの2人は現在まだ見つかっていない。

《何を企んでいる?》

ギリッと奥歯を噛んでその形相を凶悪な物とする。

簡単に捕らえ自分の前に連れ出されるはずだった。それなのに面白くない。

「ご報告です」

「何だ」

「はっ。また穀倉地帯の土壌が……」

駆け込んで来た伝令の言葉に参加している部下たちが言いようの無い怒りに身を震わせた。

伝令が指し示した汚染地帯は東部の北東側だった。

大陸の東側に存在するセルスウィン共和国の東部は海岸線に接している。その海岸線を北上するように南から中央、そして北へと存在する穀倉地帯が腐って行くのだ。

敵はもう東部を横断し終え、北部にまで到達している可能性もある。

「北部に兵を向けよ。急げ」

「……」

操られていると全員がそれを感じるが打つ手がない。

ハルツェンは目の前の盃を思いっきり殴り飛ばした。

ユニバンス王国王都外周部ノイエ小隊待機場

「うわ~。本当に西部の兵が北部に移動を開始しましたよ」

その目を窪ませ普段の倍ほどの汗をかきながら、ルッテは次から次へと焼き菓子を口に運ぶ。

今回の監視にはドラグナイト家から無償で焼き菓子の提供が成されている。これほど嬉しい仕事は無いのだが……まるで予言のように上司が残して行った言葉が現実になっているのだ。

「つまり狼煙を上げろってことだね~」

くわわ~と欠伸をして一緒に待機していたミシュは体を起こして外に出た。

「ほれ野郎共! 狼煙を上げろ~!」

彼女の指示に部下たちがテキパキと狼煙を上げだした。

青い空に向かい伸びる白い煙は、王城からもはっきりと見て取れ……国王シュニットは国軍に対して一つの命令を発した。

『同盟に従いウシェルツェンの救援に向かえ』と。

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