軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

良しっ! 休むかっ!

最短で最速の行程でイールアムとキャミリーはアルグスタの執務室を目指す。

遠巻きに不測の事態に待機していたハルムント家に仕える者たちは、主の移動を知って阻止に回るがことごとくメイドたちの手により道を塞がれてしまう。

アルグスタがフレアに今回のことを頼んだのは、彼女がイールアムと古くからの知り合いであることと、何より"メイド長"であることが大きい。

城中のメイドを支配下に置くメイド長という立場はかなり特殊だ。故に普通の者ではメイド長に立ち向かえないと言う不思議な状況がユニバンス王城内では発生しているのだ。

驚くほど妨害に合わずイールアムはずっと訪れたかった場所の前に立った。

「戻ったです~。ケーキです~」

自分の部屋のように王妃であるキャミリーが突撃して行くのをイールアムは見つめ、そして一度息を吸ってはいた。

緊張を覚える。足が動かない。

「どうぞイールアム様。アルグスタ様がお待ちです」

「……そうだな」

『曲者。厄介者。暴君』など色々と呼ばれている従兄弟が作ってくれた折角の機会だ。

彼は覚悟を決めてその部屋に一歩踏み込んだ。

「誰が一個丸々と言ったっ! このっこのっ」

「なぁ~です~」

会いたかった従弟は……王妃様を脇に抱えてその尻に平手をお見舞いしていた。

軽く卒倒しかけたイールアムが床に倒れなかったのは、フレアが事前に魔道具『影』を使っていたからに他ならない。

「ミイラとか頼んで無いんですけど?」

「……それが何かは知りませんが、人が苦労して色々と手配したと言うのに……」

呆れを通り越して笑って来るフレアさんが心底怖いっす。

とりあえず尻を叩いて躾をしたチビ姫の盾を装備し、相手が装備しているミイラの盾と対峙する。

黒い包帯のミイラだ。フレアさんのスカートからワラワラとそれが這い出して纏わり付くのを見た。なかなかの恐怖映像だった。

「で、それがイールアムさん?」

「ご自身の親族に『それ』は流石に」

「だってそんな人を拘束しちゃっている人に言われても」

「それ以上に高貴な方の尻を叩いていたアルグスタ様には遠く及びません」

「あっ大丈夫。陛下からも『ほどほどなら』という許可を得てるので」

「……」

一瞬額に手を当てたフレアは色々な何かを振り払い諦めた。

「でしたら私の仕事は終わりましたので失礼します」

「は~い。このお礼その内何かしらの形で」

「いいえ」

スッと背筋を伸ばしたメイド長が、柔らかく一礼して来た。

「メイドは主人の命に応えることが至高の喜びですので。これ以上の何かは余計になります」

クスリと笑ってフレアさんが部屋を出て行く。

慌ててポーラが何かメモを取っているが、メイド長は特殊な人がなるのであの人たちの言語録はかなり屈折している気がするんだけどね。

「まっとりあえず従弟さんとご対面と行きますか」

目の前にミイラか。

「誰か~。とりあえずナイフ的な物を持って来て~」

解いてから帰れと言いたいっす。メイド長。

実に有意義な交渉でした。

やはり僕の来世は交渉人だな。これで後顧の憂いは無い。

一礼し部屋を後にしたイールアムさんとは本当に良い話し合いが出来た。

「良しっ! 休むかっ!」

「でしたらわたくしとの会話をする時間があると言うことですね? アルグスタ」

スッと壁の一部が開いてスィーク叔母様が現れた。

もうメイド長じゃ無いんだから普通に廊下を歩いて来ればいいのにと思う。

「何かご用で?」

「ええ。イールアムの傍仕えたちが飛んで来て話を聞きましたので」

その目を冷たくして叔母様が僕を見る。

「楽し気なことをしているのにわたくしを誘わない理由を……心行くまで語って欲しいのですけれど?」

何て欲張りさんなんでしょう? 決して楽しくは無いんですけどね。

「正直叔母様が来るのは時間の問題だと思ってました」

「そうですか」

勝手にソファーに座りって、チビ姫は座布団の類じゃ無いんですけど!

何を言っても聞いて貰えないだろうから、ここはチビ姫の尊い犠牲に一任しよう。

僕も向かい側に座り叔母様と相対する。

「それでアルグスタ……どこまでやるのですか?」

「いつも通りですね」

「つまり気が済むまで?」

「ええ。ただ叔母様には個別に話し合いたいことがありまして」

懐から紙を取り出しそれを叔母様に手渡す。

受け取った物を一瞥して彼女はそれを手を振るだけで消してみせた。

ってどんな魔法? マジックの類か?

「ここに誰が?」

「前共和国の残念内務大臣」

「……」

増々その目を細くして彼女がこちらを見る。

「捕らえる日時は叔母様に任せます」

「わたくしに手柄を寄こす理由は?」

「ん~。やっぱり色々とあれしても隠し切れないと思うんで」

ホリーはハルムント家の関与が明るみになるのは時間の問題だと言ってた。

馬鹿兄貴が指揮するユニバンスの密偵は本当に優秀らしい。

「なら大きな手柄って便利ですよね?」

「……でもあれを捕えて終わる気は無いのでしょう?」

ニヤリと笑って叔母様は腕を組んだ。

「最近ノイエを大陸西の者たちと戦わせたとか。そんなことをすれば国軍の者たちがノイエを戦場でと言い出すことでしょうね。何せドラゴン退治なら貴方が居れば十分出来る」

「ええ。たぶん大将軍の所にはそんな意見書が回っているかもしれないですね。ただあの人がノイエを戦場に出すとは思えないけど……でもノイエは戦場に出ません」

断言だ。その答えにスィーク叔母様はニヤリと笑った。

「分かりました。ならばこの者はわたくしが捕らえましょう」

「お願いします。スィーク叔母様」

叔母様に狙われる残念内務大臣にちょっとだけ同情した。

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