軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

また溶けなさい

「まあ良い。さて仕事をしよう」

両手に抱えた物に対して囁くように不思議な言葉を紡ぎながら、エウリンカがクルクルと踊り出す。

持っている雑貨に淡い光が宿り出し、それに対して腕を動かし水あめでもかき混ぜるように手を回す。

伸ばして戻してを繰り返し、エウリンカは光を弄びながら鏡の前に立った。

クルクルと胸に抱く光を掬ってノイエの折れているアホ毛に巻き付けていく。

しばらく作業をしたエウリンカは、ピンと立ったアホ毛を鏡越しに確認して『良し』と声を発した。

「これで完璧だ。久しぶりに良い仕事をした」

満足気にクルッと回って彼女はベッドに飛び込む。

「それにしても空腹が半端無いな。それに疲労も酷いし……自分はもう休ませて貰うよ」

「あっ」

頭の中を真っ白にして居たらエウリンカが帰ってしまった。

まあ仕方ない。うん。先生の件は後で考えよう。

ノイエをベッドに寝かせて何か食べ物でもと部屋の外に出たら、何故かお盆に食事を乗せたポーラが立っていた。

「あっ……にいさま」

シュンとした感じでポーラが身を竦める。

たぶん1人で寝ていて寂しくなったんだろうけど、部屋に入りにくくて立っていたのか? それとも毎晩こうしてとかじゃないよね?

ポーラは生い立ちがあれだから後者の可能性が拭えない。

「こんな時間に悪い子だ」

「ごめんなさい」

「ダメです」

泣き出しそうな顔をポーラが作りだす。

「だからそれをノイエに食べさせなさい。出来なかったらお説教です」

「はいっ」

その目をウルッとさせながら、それでも笑顔でポーラがベッドへと向かう。

ノイエに食べ物を与え、満足したらしい彼女はそのまま抱き付いて眠りについた。

どうやらまだまだ甘えたい年頃らしい。

「ノイエ……早く起きないと甘えん坊ポジションをポーラに取られるぞ」

笑ってから厨房にノイエの食事の追加を求め向かった。

ふと目覚めたら朝だった。

ノイエの中の人たちってこっちの都合関係無しで夜中に出て来るから困るわ。

広いベッドで身を起したら、膝枕したポーラを撫でているノイエと目が合った。

「おはようノイエ」

「おはようございます。アルグ様」

フワンとアホ毛を揺らし、ノイエがいつもと変わらない無表情を向けて来た。

「アルグ様」

「なに?」

「ゆーは?」

辺りを見渡しノイエはまた僕を見た。

寝ぼけている訳じゃなさそうだ。ある意味ノイエならボケていても……それはお嫁さんに対して思ってはいけない言葉だな。

「何処まで覚えているの?」

「ゆーが……」

一瞬視線が宙を彷徨った。

「消えた」

「色々と消えてるな」

「大丈夫」

何故かギュッと拳を握ってノイエがアピールして来た。

たぶん大丈夫じゃないけどね。でもノイエが通常運転だから安心したよ。

エウリンカの性格や思考は別にしてその技術は凄かったらしい。

あっ先生の1件を思い出してしまった。

たぶんあれはエウリンカのジョークに違いない。そうしよう。

「ノイエこっちに」

「はい」

ベッドから降りて立ち上がろうとしたらノイエの抱き付きを食らった。全力のハグだ。

良し良しと頭を撫でてどうにかベッドを出て机と向かう。

そこには木箱が置かれている。底に白い布を敷いてあって、中には桃色の髪が何本かある。

ノイエはそれが何であるのか気づき、恐る恐る手を伸ばしてユーリカの髪に触れた。

「ゆー?」

「そうだよ。ノイエの家族でしょ?」

「はい」

そっとユーリカの髪を一本手にしてそれを抱きしめた。

目を閉じてしばらく沈黙していたノイエだが、パチッと目を開くと髪を箱に戻す。

「お墓を作るにもノイエに一言言わないとね」

「はい」

「ノイエはどうしたい?」

「?」

アホ毛が復活している。綺麗な歪曲を披露して『?』を作りだした。

「これをお墓に入れてしまう? それともこの部屋に残す方が良い?」

「……」

静かに視線を動かし、ノイエがある一点を指さした。

「あれが良い」

「額に入れて飾る?」

「はい」

確かにそれならいつでも見えるか。ただ髪の毛をそのまま額に飾るとかどうなんだろう?

その辺は経験豊富なスィーク叔母様にでも相談してみようかな。

「ならノイエが気に入るようにするね」

「はい」

ノイエがそのまま抱き付いて来てキスして来た。

ユーリカの髪を見て色々と思い出したのかもしれない。そう思おう。

しばらく仲良くしてからノイエが不意にその顔をベッドに向ける。

『ふわわ』と声を発して顔を真っ赤にしたポーラがベッドに顔を押し付け隠れた。

もう丸見えだから。存在を忘れてキスしてた僕らも悪いけどさ。

「お姉ちゃん」

「はい?」

「お姉ちゃん、する」

トトトとベッドに近づいたノイエは、そのまま上がるとポーラをウリウリと撫でだす。

目覚めた時に見た方がお姉ちゃんっぽい感じだったけど、でもノイエが頑張っているなら陰ながら応援しないとね。

「お姉ちゃん」

「そうだね」

ウリウリと顔を隠しているポーラを撫でるノイエはお姉ちゃんになりたいらしい。

「ゆーみたいなお姉ちゃんになるには大変だぞ?」

「大丈夫」

僕を見たノイエはポロッと涙を溢した。

それでも彼女は僕を見て言葉を続ける。

「必ずなるから」

「そうだね」

その先に母親の道があると思えば、遠回りだけど悪くない。

今はノイエの好きにさせよう。それが彼女にとって必要だろうから。

「無事にノイエが目覚めたようだ」

一仕事を終えたと言わんばかりにエウリンカは背伸びをした。

「ええそうね」

「どうかしたのかね? アイルローゼ?」

治療の魔剣のお陰で幾分か回復した術式の魔女は、その表情に恐ろしい笑みを浮かべる。

余りにも凄惨な笑みに傍に居たリグが逃げ出した。

「エウリンカ?」

「……」

相手の恐怖に飲まれエウリンカも凍り付いた。

「言って良い言葉と悪い言葉がこの世にはあるのよ?」

「……あれか? 彼に君が告白したがっていると」

スッと向けられた魔女の手にエウリンカは防御を忘れ見入ってしまった。

余りにも美しくそして断定的な魔法を作るその力にだ。

「また溶けなさい」

威力と範囲を限定した腐海を食らい、魔剣の魔女はドロドロの液体となった。

「あれだね~。エウリンカが~床を這うのって~アイルローゼが~こうして~溶かすから~だろうね~」

「煩い。さっさと奥底に捨てて来て」

「へ~い」

液体を集めて封印したシュシュは、それを転がし奥底へと向かうのだった。

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