軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アルグスタが黙っていると思うか?

ノイエがユーリカの襲撃を受けて2日が経った。

今は屋敷のベッドで眠っている。起きる気配は無い。起きた気配も無い。

あの日は真っすぐ直帰したせいで、色々と問題が発生した。

まずあの日の再来と呼ばれた事件だ。直接は関係していないけど、ユーリカが巻き起こしたそれの原因究明は進んでいる。禁呪と呼ばれる類の魔法が使用され、術者とドラゴンの血を触媒に生け贄とされた子供の命をトリガーにして発動する広域範囲魔法であるらしい。

それを1人で発動させたユーリカは、ノイエと戦う前に大幅に消耗していたのだろう。彼女はカミーラ相手に一度しか魔法を使わなかったし。

次にノイエが突然居なくなったせいでドラゴン退治が止まってしまった。

モミジさんの機転で処理場でドラゴンを焼いてその臭いで集めてくれたお陰で被害は最小で済んだ。

お詫びも兼ねて山盛りでケーキを届けたら、『出来たら罵って欲しいんですけど……』とモジモジしながら言って来るから、『そんな変態を罵る言葉など無い!』と言って捨てたら大満足してくれた。

変態は良く理解出来ない。

ポーラが緊張し過ぎて卒倒したとか細かいことは色々とあったが……最大の問題は、国王陛下への報告とノイエが離脱している今現在のドラゴン退治だ。

「にいさま」

「ん。終わった?」

「はい」

屋敷に居る時は普通の服を着ているポーラは可愛らしい少女の姿である。

コリーさんの見立ててくれた服は良く似あっていて、ウチの屋敷のメイドさんたちが何を着せるかでバトルの日々だ。

そんなポーラだが今日もお城に行くことは無く自宅学習となる。ノイエの看病を頼んでいるからだ。

意識は無いはずだが食欲はあるノイエは、口元に食事を運ぶとバクッと食べる。余りにも可愛らしい様子にポーラが山と料理を運んで来てはノイエに食べさせている。

傍から見ていると怖くなるほど食べるから食べる量をメイドさんたちにセーブして貰うほどだ。

今朝も食事を終えたポーラが、ベッドの隣に椅子を置いて本を読み出す。

子供向けの絵本だが、少しだけ文字が使われているから今のポーラには最高の教材だ。

「なら行って来るね。ポーラ」

「はい。にいさま」

グシグシとポーラの頭を撫でてからベッドへと向かう。

上に登って寝ているノイエにキスをする。

「行って来るね。ノイエ」

「共和国が仕掛けた暗殺か……」

重臣が集まる会議で国王から発表された今回の事件の結末。

確かに『あの日の再来』だと騒ぎ出し、皆がドラゴンでは無く人に敵意を向けてしまった。

その隙をついてドラゴンスレイヤーたるノイエに暗殺者が向けられた。精神系の魔法を操るその者の手により、ノイエは昏睡状態となり戦線を離脱している。

「ですが本当に共和国が仕掛けたものなのでしょうか?」

共和国から賄賂を得ている大臣の1人がそう口にする。

「大使に抗議をしたところで証拠も無いのでしょう? ならばここは余り騒ぎ立てず」

「黙って国内を乱されたことに目を瞑れと? それでもお主はこの国の大臣か!」

「ですが証拠も無く騒げば相手の思うつぼかもしれません。ここは我慢する時でしょう」

言い合いとなっている大臣たちの様子から目を離し、国王シュニットは自身の手の内にある報告書に目を向けた。

大臣たちにはアルグスタが作った『建前』と念を押して渡された物を配ってある。だが真実は違う。全体を通せば間違っていないのだろうが、所々で誤魔化しがされているのが流石食えない弟の手腕だ。

《あの施設で作られた者たちが共和国へと渡り、その1人がノイエの暗殺に出向いて来た》

頭痛の種でしかない報告を弟が的確に誤魔化してくれたのだ。

何より『ユーリカ』の名前が大問題だ。あの日に殺人を犯した者たちは王家が主体となって処刑したのだ。

《ノイエが関係しているからの配慮であるだろうが……これは厄介だな》

少なくとも処刑したはずの者たちが共和国に居るのだから。

《アルグスタを慕う者たちが裏で暴れそうだな》

「お主はっ!」

「貴公はっ!」

「もう良い」

それ以前に目の前の喧嘩を止める為にシュニットは口を開いた。

「共和国の関与が疑われても証拠が無いのは事実である」

賄賂を得ていた大臣が、どうだと言わんばかりに胸を張る。

「しかしこれが問題だ」

「と申しますと、陛下?」

「証拠が無ければ他国で暴れても良いと知った者がいる。この国で最も妻を愛し、そして妻に何かがあれば容赦などどこかに捨てて来る者がな」

国王の言葉に全員が息を飲んだ。

「ノイエに手を出されてアルグスタが黙っていると思うか? 共和国は最低な手を使ったと言わざるを得ないな」

「……」

ガンガンに燃やされている小型のドラゴンから煙が立ち上る。

「西の方角から2体来ます」

「頑張れモミジさん」

「……はい」

何故か全身を震わせてモミジさんがスキップ染みた足取りで出迎えに行く。

サクッと2体のドラゴンの首を跳ね飛ばした彼女が戻って来た。

小型のドラゴン程度なら集団で来なければ問題も無い。

「今度は北から……うわっ! 5体ですね」

「……」

ルッテの報告でモミジさんに視線を向けたら、流石に連戦と5体は無理らしい。

太腿の前に手を置いてペコペコと頭を下げて来る。

やはりこれが問題か。ノイエが居ないと1日程度しか踏ん張れないかもしれない。

「ルッテ」

「は~い」

「この矢を使って3体減らして」

「あの~? 3本なんですけど?」

彼女に突き出した矢は普通の物だ。それが3本だ。

「外したらモミジさんが苦しくなります。さあ頑張れ」

「……はい」

渋々受け取った彼女は、3本で3体のドラゴンを射殺した。

僕の祝福込みの矢だから当たれば小型など敵じゃない。

でもこれだと……ユーリカの願いを叶えられない。

(c) 2020 甲斐八雲