作品タイトル不明
私を消してくれるかしら?
「アルグ様っ! ゆーを助けて!」
確りとユーリカを抱きしめたノイエがそう言って来る。
「良いの。ノイエ」
「ダメ! 助ける!」
ボロボロと涙を溢してノイエが必死にこっちを見る。
「アルグ様っ」
「……ごめんノイエ」
「どうしてっ!」
「……たぶんもうユーリカは死んでるんだ」
その言葉にノイエが目を瞠る。
でもユーリカはそれを認めるように微笑んだ。
「死んでる?」
「ああ。死んでる人を助ける方法は無いんだよ」
カミーラがさっき彼女の胸を叩いた時に苦笑していた。
たぶんそれは……彼女の何かに気づいたからだろう。
あの部分を叩いて気づくことなんてそうは無い。心臓が無いか、心臓が止まっているかの二択だ。
ゆっくりと2人に近づいて、僕は地面に膝を降ろす。
そっとノイエの手を掴んで、その手をユーリカの胸に当てさせた。
ブルッとその身を震わせたノイエが、彼女の胸をまさぐり……遂には顔を、耳を押し付けて確認する。
「こんな姿になってノイエに凄いことをされたわね」
「……記念になって良かったと思えば?」
「そうね」
今にも泣き出しそうなノイエをその胸に抱きしめて、ユーリカが僕を見た。
「貴方は? 確かカミー」
「うおっと!」
「うお?」
ノイエが見えない角度で口に指をあてて『黙って黙って』と目で訴える。
察して……僕の気持ち!
「言えないことなのね。良いわ」
察してくれたよ! ありがとうございます!
「それで貴方は?」
改めての問いに僕はスッと背筋を伸ばす。
「僕の名前はアルグスタ・フォン・ドラグナイト。ユニバンス王国の元第三王子で現在はノイエの夫をしています」
「そう。……えっ?」
驚愕の眼差しを死者から向けられるとか。
「嘘……ノイエが結婚してるの?」
「はい。彼女は僕の大切なお嫁さんです」
「だってこの子……色々とあれでしょ? 大丈夫? 1人で着替えられる?」
「私服を着るくらいなら」
何故か驚いたよ。
「1人でお風呂とか無理でしょ?」
「……メイドさんが居ますので。でも最近は1人で頑張ってますよ?」
「……」
何とも言えない表情でこっちを見ないで!
「そうか。ノイエが……」
生温かな目が僕から離れ、暖かな目がノイエを見つめる。
「ならお姉ちゃんはもう安心して良いんだね?」
「ゆー」
「大丈夫よノイエ。貴女には家族が居るんだから」
クスッと笑いユーリカがノイエの頭を撫でる。
「貴女を大切に想う家族が居るんだから。だからもう平気よね?」
フルフルとノイエは頭を左右に振る。
そんな彼女にユーリカは、笑顔でノイエの額を拳で叩いた。
ゴツッと良い音がしたんですけど?
「もう平気でしょ?」
「……(フルフル)」
ゴツッ
「平気よね?」
「……(フルフル)」
ガツッ
「平気ね?」
「……(フルフル)」
思いっきり振りかぶったユーリカの腕を必死に制す。
ノイエは頑固な子だから絶対にそのやり方だと認めないから!
きつく拳を握るユーリカと額を赤くノイエが僕を見た。
「……ノイエ」
「はい」
「我が儘は言わないの」
「でも」
「我が儘を言う子には、赤ちゃんは生まれないんだからね?」
「……」
納得いかない様子でノイエがユーリカを抱いて頬を膨らませる。
何より感情バロメーターのアホ毛が半ばから折れているんですけど? これだとノイエの感情が把握できません。
「ユーリカもノイエが頑固だって知ってるでしょう?」
「……聞き分けないのが悪いのよ」
プイッと顔を背けた彼女は、どうやらノイエの家族らしい。
あの家族は、基本溺愛しているのに素直じゃないって言う特徴が見て取れる。
「まあノイエだって分かってるんですよ。悲しいってことぐらいは」
「……馬鹿ね。もう私は死んだのに」
「それでもです。ノイエが少しでも名前を憶えて居るなんて奇跡なんですから」
と、ユーリカがこっちを見る。
「それは絶対に口にしちゃダメな言葉よ」
「なぜ?」
「カミューだけ名前を覚えられた私たちの気持ちが分かる? 全員がこの子を可愛がったのに……ふふっ」
怪しい雰囲気を漂わせてユーリカが笑い出す。
「……それももう過去の話よ」
深く息を吐いて彼女はノイエの頭を撫でだした。
「この子は本当に優しい子で、全てに絶望していた私たちにいっぱいの愛情を注いでくれた。その度に自分はボロボロになって行って、最後はファシー同様に『実戦には不向き』と烙印を押された。助ける方法は1つ……何も感じないようにすれば良いと私が魔法でノイエを壊した」
涙ながらに告白の言葉が響く。それは思っていた通りの言葉だった。
「壊してしまったノイエを見て私の罪悪感は凄かった。耐えられなかった。だからノイエが施設に残るに相応しいかの確認で対戦相手に名乗り出て……この子が握り動かせなかった剣に自ら胸を押し付けた」
「ゆー」
柔らかく笑ってユーリカはまたノイエを撫でる。
「良いの。これが事実だから……貴女は何もしてない。私が自殺しただけよ」
「ゆー」
「変わらず甘えん坊ね」
「ゆー」
相手の胸に顔を押し付けてノイエが甘える。
それをまるで母親のようにユーリカが優しく包み込む。
「……お願いがあるの」
「何でしょうか?」
穏やかな表情でユーリカが僕を見る。その表情は全てを悟っているようにも見えた。
「皆を……私同様に本当の意味で化け物にされてしまった仲間たちを解放してあげて」
「はい」
「それと……」
穏やかに笑い、ユーリカがノイエを強く抱き締める。
その存在を自身に焼き付けるかのように強くだ。
「私を消してくれるかしら? この両足のように」
「ゆー!」
「いいの」
穏やかだった表情に影が走る。
少し辛そうにユーリカが口を開いた。
「このまま逝かせて。悪夢のようなあまいゆめを見ながらきえたくないから」
辛そうに眉間に皺を寄せながら、ユーリカが笑うように告げた。
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